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第一章 後章1

修多羅の異能は《修羅》。

それは単なる身体能力の強化ではない。理性を捨て、本能のままに力を振るうことで、人間が本来制御し得る力の限界を遥かに超える。

それは、人間から“化物”への確かな証明だった。

怒りと殺意を燃料にして暴走し、破壊衝動を理性の枷なく解き放つ。

ただ“強い”のではない。本能による支配こそが、この異能の真骨頂だ。

まさしく鬼──否、《修羅》の名にふさわしい異能である


「死んだか…まぁ腹に穴が開けばね」

修多羅は血まみれの拳をぶら下げたまま、くるりと学校へと向き直った。

「待てよ…どこいくんだよ」

振り返ると、そこには穴が塞がった言葉が立つ。

「な…あんた死んだんじゃ…」

「うーん、まぁ体質?みたいなもんでな。曰く、不死体質ってな」

百回死んで百回生き返ったらそれはもう体質だと納得せざるを得ない。

「不死体質?小説の読み過ぎなんじゃないの?」

「そっちこそ、"自分だけが特別"だなんて、ライトノベルの読み過ぎじゃねぇのかよ」

指を刺しながら、飄々と言う。

「…そう、あなた余程死にたいようね」

「死にたがってるのはテメェだろ、修多羅砕破」

図星を突かれたのか、修多羅は顔をしかめる。

「そんなに死にたいのなら見せてあげるわ。父が編み出した連撃技の殺法ーー非天無獄流(ひてんむごくりゅう)をね」

修羅が、構える。

世界から音が消えた。

その所作には、一切の無駄も隙もない。まるで“殺す”という行為だけを目的として形作られた術式。空気が重くなる。体が動かない。呼吸すら忘れるほどの、圧。

──これは、“本物”だ。

「…非天無獄流・破岩一掌(はがんいっしょう)

瞬間移動にも近い速度。

気づけば、すでに胸元に掌底が迫っていた。

衝撃は胸から全身へと伝播し、骨にヒビを入れ、肉を炸裂させる。

「『治れ!』」

瞬時に言霊を放ち、裂ける肉体を縫い合わせ、崩れゆく骨を繋ぎ止める。

「驚いた…あなたも同じようなものを持っているのね」

「あぁ、《言霊》ってな、すげぇ便利なんだぜ」

「そう、死なないってのはどうやら本当らしいけど、それでは私を倒せないわよ」

空いていたはずの距離が瞬時にゼロへと変わる。

「非天無獄流・二牙白胴(にがびゃくどう)

腹部と顎、両方をほぼ同時に蹴りあげられ、空中へと放り出される。

「…ガハぁ。なんつー速さだ」

「体重軽いのよ。非天無獄流亜式・風車(かざぐるま)

空中で一回転して、遠心力でぶん投げられる。乱回転しながら、教室の窓を叩き割りながら校舎へと突っ込む。

「よかった、誰もいない」

「余裕そうね、非天無獄流・三骸流転(さんがいるてん)!」

一撃、また一撃──。

両肩を手刀で貫かれ、最後の蹴撃が腹を抉って校舎の壁へと叩きつけられる。

「…お前、頑張ったんだな」  

「はぁ?この状況で何を言ってるのよ」

「…いや、こんな強さを身につけるなんて、並大抵の努力じゃできないよなと思ってさ」

腕に刺さった鉄骨を引き抜き、よろけながらも立ち上がる。

「中学の時は知らなかったよ。俺、読書してる姿しか知らなかったからさ」

「誰も知らないわよ。私がここまでの化物だなんてね」

フッと修多羅は自嘲気味に笑う。

「誰も知らなくていい。だからーーあんたもここで死ぬのよ。非天無獄流・死劍八ーー」

「『吹っ飛べ』」

放つ言霊で、迫る修多羅を校舎へと叩きつける。

「化物なんだろ?俺を殺して見せろよ」

「調子に乗るなよ…雑魚が」

消えた!?

一瞬、風の流れだけが変わった。

肌が泡立つよりも早く──右だ

「止まー-」

「遅い」

メキメキィ。

修多羅の鋭い拳が、言葉の顔面を確かに捉える。

「飛んでけぇ!」

少しも減衰する事なく、派手に吹っ飛ばされる。

「…くそ、どうする」

殺すのは論外だ。だが、ここまで強けりゃ殺す以外で止めることなんてできるのか。

「殺し合いの最中に考え事なんて随分と余裕ね」

「な…」

自身が飛ばした物体に追いつくだと。

どんな身体能力だ。

「さっきは止められたけど、喰らって行きなさい。非天無獄流・死劍八斗(しけんはっと)

迫り来る蹴りが肉を貫き、四点に穿たれた穴が描く軌跡をなぞるように──刃のような蹴撃が横一線に走る。

「…ぐっ」

抵抗することもできず、落ちる勢いそのまま体を削りなら校庭を無様に滑る。

「私は人間になろうとした…けど、所詮私は化物にしかなれない。不死身のあなたでもそうやって地面を這いつくばっているのが証拠よ」

「化物…だと?今、自分が化物って言ったか?化物と戦ってる俺に向かって?」

不完全な自己修復をしながら、言葉は笑って立ち上がる。

「お前、勘違いしているようだが、まだ可愛い範疇だぞ。お前の化物具合なんて、俺らの業界からすれば赤ちゃんみてぇなもんだぜ。そんな立ち位置から言われても、バブバブ言ってるようにしか聞こえねぇよ」

あと少し…あと少しだ。

時間を稼げ。

「チッ…そんなに死にたいわけ」

「生きたいさ、少なくともそんな表情してるよりはな」

「そう…死ね!」

迫り来る修多羅を見て、鼻血を出しながら言葉はニヤリと笑う。

「ラーニング…完了」

瞬時に構えを取り始める。

その所作には、一切の無駄も隙もない

「あ、あんたまさか」

「そのまさかだよ、『非天無獄流・破岩一掌!』」

掌底は修多羅の胸元を捉え、吹き飛ばす。

「さて、第二ラウンドと行こうぜ」

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