第八章 Aメロ 2
「英雄君は――強すぎたんだよ。理解なんて到底できないほどに。誰かに頼ることすら必要ないほどに。
……そのくせ、肝心の心は案外脆かった。
弱いと思ってた。でも、そうじゃなかった。
強かったんだよ、妙な方向にね。
だからこそ、周囲は脆く崩れる。
気づかぬうちに、みんな彼にすがっていたんだ。依存して、甘えて、全部押し付けて。
……わかっていたはずなのに、誰も止めなかった。なぜかって? 彼が、“強かった”からだよ。そう思わないかい? 博士」
言葉の過去の戦闘映像から目を離さないまま、百道は問う。
「…本当に、"そんなこと"をディーバにやらせるの?」
「はぁ?今更それいうの?」
百道は呆れながら振り返る。
「ディーバはそのために生み出したんだ。というか、作ったのは君じゃないか」
「だけど…」
「今更倫理? 人を作って、街を壊して、それでもまだ人間のつもりかい。君はもう、“人でなし”だろ??」
「…私は最初から意欲的だったわけじゃ」
博士の言葉を聞いて、百道は思わず吹き出す。
「あはは、意欲的だったわけじゃないだって。過程はどうであれ、すでに君がやったという結果は残っているんだ。その事実からは逃れやしないよ」
「…そうよね」
博士は椅子から立ち上がり、ドアを開ける。
「おいおい、どこにいくんだい?」
「別にいいでしょ」
「…別にいいでしょ…ね」
私は走る。
ステージに向けて。
今日はディーバによる復興支援のステージが、武道館で行われる。
日本で最大級のステージである。
尚且つ、彼女は希望の象徴として祭り上げられているため、その注目度は私でももう計り知れない。
「…もう!白衣が邪魔!」
止めなければ。
百道が来る前に、私がディーバの元に行けばまだ収まるはず。
「ハァハァ、もっと…鍛えとくんだった」
流石に研究者といえど、こんな全力疾走する機会なんて予測することができない。
「グガァァァ!」
後ろから咆哮が上がる。
「…っ!?」
そのクリーチャーは私を目掛けて突進してくる。なんとか避けて、私は走り続ける。
「ハァハァ、まさか百道が」
裏切りに気づいたのか、はたまた不要になったのか。どっちかはわからないが、今は急がなきゃならない。
「彼女に…ディーバに歌わせるわけにはいかない」
私は人でなしだ。理解している。
だから、言い訳をしない。
でも、私は彼女に歌ってほしくない。
息を切らしながら、私は武道館の裏手から中へ滑り込む。観客の歓声が遠くに響くなか、私はステージ裏の制御室へと向かった。
ディーバの元へと向かうとーー。
そこには、百道とディーバが話していた。
「…なんで」
「遅かったじゃないか、待ちくたびれたよ」
「マスター、どうしたんですか?」
百道は笑顔で話し、ディーバが訝しげに聞く。
「いやね、君のマスターが演出に対して言いたいことがあるんだと」
ヘラヘラと百道はディーバに向かって言う。
「…ディーバ、"歌"を歌わないで」
「…わかりました。マスター権限で命令を停止…」
「おいおい、ダメだよディーバちゃん。博士は混乱してるんだよ、だって今更やめろとか言ってるんだよ?散々いろんなことしてきたのに」
「ですが…マスターの命令を」
「ふーん、ならこれはどうかな」
「…っ!?」
圧力によって、博士は膝をつかせられる。
「…マスター!」
「ほらほら、愛しのマスターちゃんが死んじゃうよ?君が命令を実行しないと、今すぐぺシャンだ」
「…わかりました、命令は実行します」
「うんうん、いい子だありがとう。じゃ、結果を楽しみにしているよ」
百道は軽く手を振りながら、部屋を後にする。
圧力は消えたようで、なんとか息をすることができた。
「…マスター!」
「ディーバ!」
2人は抱き合い、お互いの無事を喜ぶ。
「…マスター、私はあなたに会えてよかったです」
「…何を言っているのよ」
手が、指先が震える。
まるで…最期を迎えるような。
諦めた顔をしながら、ディーバは立ち上がる。
「行ってきます…マスター」
「待って!待ちなさい!」
喘ぐように、懇願する。
だが、ディーバは振り返らずに、部屋を出た。




