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第八章 イントロ 1
私は歌う。今日も。
みんなのために。
「ディーバ!ディーバ!」
歌姫のために、歓声は止まない。
「みんなありがとう!」
手を振り、私は応える。
人気者になるために、
歌姫へとなるために、
プログラムされた行動。
「みんな大好き!」
「うおおおおおお!」
歓声は轟音となって、ステージを満たす。
偽りの言葉。
偽りの思考。
偽りの体。
嘘を重ねるたびに、私は"何か"から遠ざかっている。
しかし、私はその何かを認識することができない。
明確な違和感を覚えながら、
明確な消化不良を抱えながら、
今日も私は歌う。
「今日は、新曲なんだ!」
私は息を吸い、言葉を繋ぐ。
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
よかった。
私はこれで、これ以上の嘘を重ねることはない。