表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/77

第七章 終わり

「…みんな、やられちゃったか」

百道は足をぶらつかせながら、退屈そうに呟いた。

「まぁ、でももうすぐフィナーレだ。――その前に、歌姫の登壇といこうじゃないか。どんな劇場だって、クライマックスには歌姫が必要だろう?」

「はい、百道様」

影の奥から、静かにディーバが現れる。

「……本当に、ディーバにやらせるのかい? 私には、少し気が引けるんだが」

「何を迷うことがあるんだ、同志よ。歌姫の歌があれば、観客は――殺到する」

百道は目を細めて、楽しげに笑う。

「じゃあ、博士。最終調整を頼んだよ」

言い終えると、百道はそのまま奥の闇へと姿を消した。

残された博士は、わずかに目を伏せながら尋ねる。

「……本当に、いいのかい?」

「はい。マスターのために、私は頑張ります」

ディーバは微笑みながら答える。その声音は機械的で、あまりにも無垢だった。

――それもそのはず。

“ディーバ”とは、博士によって創られた人工人間。

歌姫としての存在は虚構であり、その魂は人に似せられた模造品に過ぎなかった。

「では、行ってきます。今日も、歌を歌うために」

「……ええ。行ってらっしゃい」

博士の声は微かに震えていた。

私は――私は、彼女に……

「……彼女はただの歌姫だ。造られた存在だ。私が、気にすることじゃない……」

言い聞かせるように呟いたその後、壁を殴りつけた。

鈍い音だけが響く。

だが、心の奥底に沈む虚しさは、少しも薄れなかった。

「……もういい。私もここまできた人手なしだ。せめて最後まで、道化を演じてやる……」

博士は一つの決意を胸に、闇の奥へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ