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第一章 中章 2

物語は少し戻って、数時間前。

「修多羅がやばいねぇ…」

教室が見える向かいの校舎の屋上で、修多羅の様子を双眼鏡で覗き込む。

「闘華さんの言ってることは、割とバカにならないからなぁ」

すぐ怪我見抜くし、考えてること見透かされることもあるし。

「こんなことでサボりか、歴木君」

「無意味に背後とらないでくださいよ、白水(しらうず)先生」

メガネをかけた長身のイケメン。少女漫画から飛び出してきたみたいな、そんな“女子の理想像”を地で行くような見た目だった。

「お前の担任で、お前がサボってなければ、屋上なんて来ないんだけどねぇ」

フゥーとタバコをふかしながら、気だるげに話す。

「いやいや、いっつも屋上でタバコ吸ってるじゃないですか。ていうか、今も吸ってるし」

「タバコは所詮ストレス発散だよ。お前が余計な仕事を増やさなきゃ、吸わずに済むんだがね。んで、お前はいつからのぞきが趣味になったんだよ」

「趣味ではないんですがね、色々ありまして」

朝から覗いても何も起きない。というか、普通に授業受けてもよかったのでは。

「で、先生はマジで何をしにきたんですか?どう考えても、俺を連れ戻そうとしてないですよね」

ただ横でタバコを吸って、黄昏ているだけだ。のぞきを止めようともしなければ、校舎に引きずりこもうとすらしない。

「ほら、生徒へのメンタルケアってやつだ。お前は問題児だからな、もしかしたら仕事といって誤魔化して、不登校キメてる可能性もあるし」

「なわけないでしょ。月一回はなんやかんや登校してるんですから、そもそも不登校じゃないですし」

「いや、世間一般からすればそれは不登校だ」

目に疲れが溜まり、双眼鏡から目を離して空を見る。春が訪れた今、雲はあれど快晴に近い。

「んじゃ、俺職員室戻るわ。歴木言葉は無事に不良してましたって、校長に報告しとくわ」

「…担任らしく庇うとかしないんすね」

「なんでそんな俺がめんどくさい事しなきゃならねぇんだよ。ま、お前が土下座するなら考えるけど」

「いや、とっとと帰ってください」

「ほいほい、じゃあな」

背を向け、手を振りながら校舎の中へと消えていった。

「…マジで何しにきたんだあの人」

覗きを再開しようとすると、昼のチャイムが鳴った。どうやら、昼食の時間になったらしい。

学校の食堂は外部の人を招いて提供をしているため、そこらの店よりも美味しい。故に、俺は昼食をそこで取ることにした。

「唐揚げ丼ください」

俺の前で注文していたのは修多羅だった。

その後ろには凛がおり、2人で仲睦まじく食事をしようとしていた。だが、その手前でくすくすと何やら嫌な笑い声をしていた連中がいた。

「…?」

恨みを買うようなことをしたんだろうか。だが、そもそもあいつは読書人間だから、人との関わり合いなんて凛ぐらいなもんだと思うけど。

修多羅がお盆に丼を乗せ、テーブルへと向かおうとすると、その連中の一人が、修多羅の足元にさりげなく足を伸ばした。

「…あぶ」

だが、修多羅はわかっていたように、その足を踏み潰した。

「…っう!」

足を出した女子は苦悶の表情を浮かべたが、修多羅はそれを気にすることなくテーブルへと運ぶ。

「…女子って怖いな」

女子って、怖すぎない? 闘華さんと星華さん見てても思うけど、ああいうとこ、俺は一生勝てる気がしない。冷戦みたいに戦って、詰将棋みたいな議論するよな。

「砕ちゃん!待って!」

早歩きになりながら、凛が修多羅のテーブルへと向かう。丼を少しこぼしそうになっていたが、修多羅がそれに気づいて目を合わせずに受け止めた。

「ちっ!あの女何様なのよ!」

「調子乗ってんじゃねーよ、あの女」

…見てて気持ちいものじゃないな。

見たところ、完全な逆恨みってところか。

あいつが積極的に危害を加えるようにも思えないし。まぁ、足は踏んでたけど。

「いいこと思いついたわ!みんな、これはどうかな?」

「…!」

なんかやばいことを考えてんのか。

止めに行かなーー。

「何をしているのかな?歴木言葉君」

「…こ、校長先生」

振り返ると、そこには“能面のような笑み”を貼り付けた入部校長がいた。

「学校に来ている時は、授業を必ず受けると約束しましたよね」

奥からひらひらと手を振る白水先生がいた。

「校長に言うって言ったじゃねぇか」

…あいつ!生徒を裏切りやがった!

「必ず赤点を回避することと含めて約束をしたはずですよね?」

白水先生を睨め付けていると、その視界に割って入るように校長がズイッと顔を寄せる。

「これも仕事ですよ。最近の中高生がどんな唐揚げを好むか……そう、食文化の研究です!」

汗をダラダラと垂れ流しながら、思いついた言葉を脊髄反射でペラペラと喋る。

「そんな唐揚げだけのマーケットなんて存在しませんよ」

あ、やばい。

誤魔化せそうにない。

「ほら、きなさい!校長室に!」

「い、いやぁ、せめて昼ごはんを!」

「説教の後でも唐揚げは逃げません。ですが、あなたの将来は逃げかねませんよ。さあ、来なさい」

服を引っ張られ、俺は抵抗虚しく校長室へと入れられた。ガミガミと学生のなんたるかを3時間以上の回り道をしながら説教をされた。

「…唐揚げ、冷めてるだろうなぁ。いや、もう営業終わってるか」

時刻にしてすでに17時。

放課後に突入しており、帰宅部なら帰っている時間だ。

「…はぁ、腹減ったなぁ」

お腹を鳴らしながら教室へと向かっていると、視界の端で何かが動いてる気がした。

「…なんだ」

嫌な胸騒ぎがした。

急がなきゃ行けない。そんな気がした。

「…まさか」

食堂で修多羅を見ていたグループの声が頭を反芻する。

「2人になんかあったのか!」

階段を駆け上がり、屋上へと進む。

扉のすぐ前に、男子生徒が倒れていた。顔が……原形を留めていなかった

「…これはひどいな」

扉を勢いよく開け放つと、そこには血だらけの凛と怒り狂った修多羅がいた。

「…嘘だろ」

角が生えてやがる。

錯覚でもなく、つけているというわけでなく、頭から一本の角が隆起している。

「……あいつ……異能者になったのか」

クソ。

今は余計なことを考えてる時間はない。

うだうだ考えていたら、修多羅が目の前の人間を殺しちまう。

振り下ろそうとする修多羅の肘を持ち上げ、俺は気丈に振る舞う。

「よう、修多羅。元気そうじゃないか」

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