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第四章 序文

選べ。守られるか、壊れるか。

そのどちらも拒むなら――呪いを抱け


ザクザク。

乾いた音を立てて、私は山道を登る。

父との訓練が途絶えてからも、「鍛錬をやめる」という選択肢は、私の中になかった。

代わりに選んだのがこの山だ。静かで、誰も来ない。

木を殴り、走り、跳ね、転がる。そんな風にして、私は肉体の強度を保ち続けてきた。

――だが、今日は違う。

目的は、リストバンド。

あの日、言葉によって封じられた異能をもう一度、自分のものとして取り戻すため。

その制御ができるかどうかを試すために、ここへ来た。

この山なら、たとえ私が暴走したとしても誰かを傷つけずに済む。

「……まあ、外すのはこれで二度目だけど」

呟きながら、左手を右のリストバンドへと伸ばす。指先が触れた瞬間、心臓がひとつ、大きく跳ねた。ごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと、それを外す。

ドクン。

外した瞬間、凍っていたはずの激情が、焼けるような熱となって全身を駆け巡る。

「……っ!」

突如、頭の奥底から響いてくる――声。

「蹂躙しろ。殲滅しろ。撃滅しろ」

血のように濁った命令が、脳を焼くように響く。

視界が、染まる。

赤い。血の色か、怒りの色か、あるいは――自分自身の本性か。

「――あああああッ!!」

理性を振り払うように、拳を振るった。

ただの一撃。けれど、異能が乗った拳は木を貫通し、拳圧は空を裂き、風をうねらせ、さらに奥の木々を一本、二本、三本となぎ倒していく。破壊の余波が山道に響き、鳥が一斉に飛び立つ。

「……く、そ……っ!」

呻きながら、震える手でリストバンドをはめ直す。カチリ――金属音が鳴ったその瞬間、

全身を駆け巡っていた激情が、嘘のように霧散した。あれほど響いていた囁き声も、まるで悪夢が覚めたように、静かに鳴りを潜める。

「……こんなの……どうやって、制御しろっていうのよ……」

地面に膝をつきながら、呆然と呟く。

――これを制御しているというのか。

あの男、歴木言葉は。

自分の中で猛り狂ったそれを、あの男は平然と振るっていた。

まるで、それが日常であるかのように。

「……正気じゃない」

善用であれ、悪用であれ――あの力を振るうことそのものが、正気の沙汰じゃない。

身体が、わずかに震えた。

拳法家として、恐怖に身を竦ませるなどあってはならない。

恐れは隙に通じ、隙は即ち死を招く。

だからこそ、恐怖は抑えねばならない。

――だが。

受け入れろというには、あまりにも酷すぎる“

呪い"だった。



炎売と言葉の激闘後。荒地の地面は真っ黒に焦げ、石は悉く溶解をしていた。さしもの言葉でも溶けてなくなったものを生み出すなどできないため、こういう時は殲滅会が後始末をしている。

「…ち、なんで俺があいつなんかの尻拭いしてやらないと行けねぇんだよ!」

石を蹴ろうとしても、蹴った側からボロボロと崩れ落ちる。手応えが全くなく、怒りは一向に発散されない。

「くっそ!クソクソクソクソクソォ!」

銃の扱いも、体術も、俺の方が上手い。高校生のあんなガキよりも、有名大学を出ている俺の方が頭がいいに決まっている。それなのに、だというのに、なんで異能を持っているというだけで、あんなに特別扱いをされるんだ。おかしいだろうが。

「いい怒りだね。実にいい怒りだ」

声の方を向くと、そこには白髪の青年が微笑みを浮かべていた。

「だ・・・・誰だ」

ここは殲滅会の人間しか立ち入れないはずだ。

目立ちたがりの染髪野郎なら何人か心当たりはあるが、こんな“色素が抜け切ったような白”は見たことがない。

なにより、顔にまったく見覚えがない。

「炎売、死んじゃったか……」

青年は空を見上げて、軽く肩をすくめた。

「まぁ、負けたんだから、しょうがないよね」

「誰なんだよ!答えろ!」

対峙した時から異様な圧が全身を包む。

皮膚の内側が冷えていくような感覚。

心臓を直接掴まれているような錯覚。

汗が、滝のように吹き出して止まらない。

「君――異能者になりたいんだよね?」

「……は? あ、あぁ」

気づけば、肯定していた。

「僕なら、君を“異能者”にしてあげられる。

その異能を使えば、君の気に入らない“あいつ”も、簡単に排除できるよ」

「そんな話、信じられるかよ……」

唾を飲み込み、言葉を絞り出す。

「少なくとも、異能ってのは、人が人に軽々しく“与えられる”もんじゃない。そんなことくらいは、俺でも知ってる」

「そう、君は知っているんだ。異能者という人種が強いことを。普通の人間より優れていることを」

「な、何を」

「君はその資質を持っているということさ」

その声は、奇妙に澄んでいた。

美しい音色のようでもあり、冷たい毒のようでもある。まるで、心臓に直接語りかけてくるような感覚だった。

カリスマ。そんな言葉では足りない。

地球の重力にすら逆らえないように、彼の言葉一つ一つが、俺の思考を、心を、引きずり込んでいく。

「さぁ同志よ。僕が君の普遍を壊してあげるよ」

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