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異能奇譚  作者: レム睡眠
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第三章 序文 改訂版

英雄は見つかる。英雄は暴かれる。

英雄であるが故に。

真っ白い壁。真っ白いベッド。真っ白いカーテン。白いだけの部屋で俺は目を覚ます。

言葉を発することはできず、ただ茫然と部屋の周りを見渡すことしかできなかったため、これが夢だとピンときた。

「おい、時間だ」

まさしく研究者とでも言わんばかりの白衣の男が俺を部屋から出す。男の後ろをペンギンのようについていくと、そこには一人の少女がガラスの向こう側にいた。

「・・・・・ね、・・・イ」

ゴウッ!

少女の足場から炎が立ち上り、容赦なく少女を灼く。俺に向けた少女の笑顔は業火へと消えてゆく。俺は眺めるだけだったのに、視界は潤んで見えなくなっていた。


「・・・・・寝覚めが悪い」

自分が決意して殺すならまだしも、見知らぬ誰かの死に様など嫌なものでしかない。

キーンコーンカーンコーン。

学校のチャイムがなり、始業のベルを鳴らす。

7月も終盤に差し掛かる今日、体育館では終業式を行なっている。爆睡をしている間にみんな移動したらしく、教室に一人残されていた。

「・・・・・・・快晴だ」

教室にい続けるのもしょうがないと思い、階段を登る。立ち入り禁止の立て札を通り過ぎ、屋上へと侵入する。

「・・・・・・・暑い」

ジリジリと茹だるような暑さが襲い、屋上に出てから一分ほどですでに滝のように汗をかいていた。それでも帰ることはせず、屋上の柵に全体重を預けていた。

「黄昏てんねぇ、少年よ」

「無闇に背後を取らないでといつも言ってますよね、白水(しらうず)先生」

ふぅーとタバコの煙を吐きながら、隣に落ち着く。

「有名を馳せる不良も、学生らしく黄昏たりすんのね。悩みがあるなら俺が聞くぜ」

「何もないっすよ。世界は広くて、俺はちっぽけだなぁと思っただけですよ」

「ふーん、本当に学生らしくてつまらないな」

「ていうか、先生は何してるんですか」

「サボりがいないか探してたんだよ」

「タバコを吸いながら?」

「そうそう。お前の担任だからな、どうせ屋上でもいるんだろうと思ったら、予想通りだったわ」

新しいタバコに火をつけて、ぷはぁーとタバコの煙を吐く。イケメンであるが故か、気だるげにタバコを吸っても絵になる。

「俺は思うんだけどさ、仕事が忙しいんなら無理に学校来なくてもいいと思うんだよ。いや、お前の扱いがめんどくさいとかじゃなくて、そう言う状況なら中退とか退学したほうがいいんじゃないかと思うんだよ」

俺は今まで知らなかったが、クラスメイトからはそれなりの苦労人であると認識されていると修多羅が言っていた。授業を受けることよりも睡眠を優先させる気遣いまでさせるような状況だと思われているわけだ。

「なんというか、普通であると体裁であろうとも持っていたいってことでしょうね」

そう続けたあと、俺はふと笑ってしまった。誰に向けてでもない、半ば呆れたような笑みだった。

白水先生は黙ってタバコをくゆらせたまま、何も言わない。ただ、俺の横顔をじっと見ていた。眼鏡越しに何かを見透かしているような、それでいて優しいまなざしだった。

「そうかもな。“普通”な日常を求めて、わざわざ色んな事に足を突っ込んでるってのは、なかなか矛盾してて面白い話だ」

「刺激とかそんなもんを求めている訳じゃないんですがね、結果的にそういう綱渡りをしているんですよね」

最近、学校でも異能者が出てきてしまった。それは俺の望む普通の日常ですら壊しかねないような気がする。

「俺、今日悪夢ってやつを見たんですよ」

「悪夢?誰が殺したとか殺されたとか?」

「燃えたんですよ。俺の目の前で、少女はその形すら残さず何もかもを燃やされたんですよ」

「それは嫌な夢だな」

「でも不思議なんですよね。夢ってのは大体が実際の経験に準じて見るものであると定義つけられている。俺はそんな経験をした覚えが全くないのに、見た夢には実感がこもっている。悪夢というのは俺がそれを経験したかもしれないということですよ」

「それも嫌だな」

白水先生はそう言いながらも、どこか遠くを見つめるような目をしていた。タバコの火が風に揺れて、微かに灰が散る。

「夢ってやつはよ、時々、本当に大事なもんを思い出させてくれる。逆に言えば、忘れたいことすら無理矢理引っ張ってきやがる。……タチが悪いんだ」

「先生も悪夢を見ることが?」

「まぁ誰しもそういう経験があるっていうことだ」

そう言って白水先生は立ち上がる。もうタバコは灰になり、手元に何も残っていない。

「さて、辛気臭い話はここまでだ。今日から夏休みだぜ、若人は遊べ」

再度タバコに火をつけながら、白水先生は屋上を後にした。

「・・・・・・あちぃな」

俺もゆっくりと背を起こし、空を見上げた。突き抜けるような青空が綺麗に広がっている。けれどその青空の向こうで、何かが、確実に崩れ始めている気がした。

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