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第二章 後章2

人波に押し寄せられ、抵抗虚しく押し出される。背後に誰もいないのが救いだが、どこかに誘導されているようにも感じた。

「…くそ」

諦めて逃げることに徹したが--逃げた先はスクランブル交差点だった。

「またかよ」

「二回目…ですね。先輩」

高台から銀鏡は指揮棒を振るうように、両手を動かす。その合図とともに四方八方から群衆が殺到する。

「さて、戦っている間教えてあげますよ。私の異能。異能の名前は『誘導』私がやっていたのは思考の誘導というわけです。私の声を聞くだけで仕込みは終わりです。まぁ2時間ほどしか操れないのが仕方ないですが、それほどあれば先輩を殺すのに十分ですよ」

銀鏡は淡々と続ける。

「汚染と言ったのは良い線ですよ。やってることは同じですからね。人間が本来持っている“暴力性”や“他人を傷つけたいという願望”をかき集めて人を殺すことですからね。しかも、私に繋がらないとくる。完全犯罪にもってこいの異能でしょ?」

ケタケタと笑いながら銀鏡は続ける。

「こうやって私が話している間もどこかしらの誰かが私の異能の影響下になって、先輩を襲おうと躍起になってるんですよ。素敵だと思いませんか?」

笑う。微笑う。嗤う。

まるで狂ったように。

「演説は済んだか?」

「はぁ?」

「演説は済んだかって言ってんだよ。『吹っ飛べッ!』」

言霊を爆発的に放ち、あたり一体の群衆が吹っ飛ばされる。

「もう良い。迷いは晴れた。後輩だろうが、なんだろうが殺す」

「は、はぁ!?そ、そんなのなしでしょう!」

「ありもなしもあるかよ。事前に調べなかったテメェが悪いんだよ!」

バンバンバン!

放った銃弾は、次々と人間の“盾”に防がれていった。血が飛び散る。けれど、銀鏡の顔には一切の動揺がなかった。

「危ない危ない。もーそんなかっかしないでくださいよ」

「テメェ!」

もう一度打とうとすると、再び人が襲いきってきた。一人、三人、五人。その数は指数関数的に増えていく。

「ハハハハ、死ね死ね死ね!死んじゃえ!」

「『止まれ』」

静かにはなった言霊は周囲の音を奪い去るように、人々を止めた。

「聞くに耐えない。お前の論理も、笑い声も、声すらもだ」

「な……や……ま……っ」

銀鏡は、もはや理解してしまったのか。開きっぱなしの口から、声にならない喘ぎだけが漏れ出ている。

「何を言いたいのか知らねぇが、テメェの茶番に付き合う義理は、もうない」

…一拍。

静かに息を吸う。

殺意とともに、銃口をまっすぐ銀鏡へと向ける。

「『死ね』」

その言葉と同時に引き金を引いた。

俺の“絶殺技”。

修多羅の十握剣のように、俺にも一つだけ――確実に殺すための術がある。

それは、言霊《死》を、弾丸そのものに込めること。

弾は、物理的な殺傷力を超えた――

“死”という概念そのものを連れて、標的へと向かう。その軌道はまるで、因果をねじ曲げながら、“死”という結末を確定させるように。

――ドンッ!

乾いた音と共に、銃弾は銀鏡の額を貫いた。

「が……そんな……百道さ、ま……」

世界が動き出したその瞬間。

銀鏡は、糸の切れた操り人形のように、あっさりと地面に崩れ落ちた。

あまりに――あっけない最期だった。

「……はぁ、終わったか」

安堵とも虚脱ともつかぬ吐息を漏らしながら、俺は夜空を仰ぎ見る。

都会の空なのに、妙に星がよく見える気がした。

――プー!プー!

「……え?」

視線を戻すと、交差点のど真ん中に立っていた俺に、車がクラクションを鳴らしていた。

群衆はいない。

“殺意の渦”も、狂気の笑い声も、すべてが消えている。

「……はいはい、すいませんね」

迷惑な男として、俺は交差点からどいた。

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