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異能奇譚  作者: レム睡眠
12/30

第二章 中章2 修正版続き

閉まっている校門を乗り越え、部室棟へと向かう。ボロボロの新聞部の部室へと侵入する。散乱している新聞を踏みつけ、左奥の本棚の前まで移動する。本棚から本を抜き、奥にあるスイッチを押す。

ガコン。

何かの噛み合う音がすると、本棚は横にスライドして、扉が現れる。扉を開き、細い通路を抜けた先に――一つのワンルームがあった。

そこには、整然と並んだモニター群。

複数のカメラ映像が、薄暗い部屋を淡く照らしている。

スピーカーからは、クラシック音楽が静かに流れていた。

この部屋の住人は、椅子にふんぞり返りながら、画面を睨めつけている。

モニターの青白い光に照らされたその顔は、無感情のようでいて――どこか楽しげでもあった。

「よう、遅かったな。言葉」

クラシックの調べが流れる中、彼は一瞬も画面から目を離さずにそう言った。

「……久しぶりだな、雄也」

空いている椅子にどさりと腰を下ろし、俺はそのまま背もたれに体重を預ける。

一日中歩き回ったせいで、足にじんじんと疲労が残っていた。

「一日中、現場を駆けずり回ってたみたいだな。モニター越しに見てた」

「そうなんだよ。今回は……ちょっと厄介でな」

「そうみたいだな」

ゴクゴク、と音を立ててエナジーリングを一気に飲み干し、無表情のまま応じる。

まるでこの状況すら、計算に入れていたかのように。

「で、悪いけど――犯人に関する情報は、持ってねえよ」

「……は? 情報屋なのに? 廃業でもしたか?」

「おいおい、お前、情報屋を神か何かと勘違いしてないか?なんでも知ってるわけじゃないぞ。知らないことの方が多いんだよ」

「“普通の”情報屋だったら、な。お前は違うだろ、乙金雄也」

乙金雄也おとがな・ゆうや

現在はアングラの情報屋として異能殲滅会とも関わっているが、その正体はかつて“神童”と呼ばれた存在。

未解明の公式を紙の裏に書き出し、

既存の細胞論を半ば冗談のように覆した異端の天才。

学会はこう言ったという――

「彼が理解できないなら、私たちが理解できるはずもない」と。

そこまで言わしめるほどの超がつくほどの天才だ。

「天才も形無しかよ。……徒労だったな」

思わず、ため息混じりに呟く。

「俺は別に、自分のことを天才だなんて言った覚えはねぇよ」

雄也はそう淡々と返すが、その声音に悔しさは微塵もない。

それが逆に、事態の深刻さを際立たせていた。

「はぁ……どうしたもんかな」

独り言のように呟いて、椅子の背もたれに体を預ける。

頭の中は真っ白で、何かを思いつく気配すらない。

――天才でも解けない事件。

それなら、俺にわかるはずがない。

探偵役としては頭の出来が足りなすぎる。

分析も理論も、人より劣ってる自覚はある。

異能を“殺す”力があっても、“見つける”能力なんて最初から持ち合わせていなかった。

「……俺、こういうの向いてないんだよな」

独りごちた声は、部屋のクラシックとモニターの明滅にかき消されるように、ゆっくりと溶けていった。

「……はぁ、そこまで言うなら手伝ってやるよ。

犯人はわからんが――頭の整理ぐらいは付き合ってやる」

モニターから目を離さず、乙金が淡々と告げる。

「整理? ……整理か。どうすりゃいいんだ?」

「簡単なことだよ。

何が起きたのか、そしてその結果どうなったか――順番に言ってみろ」

「……まぁいいか」

椅子に座り直しながら、俺は改めて声に出す。

「昨日……というか、今日の深夜2時。

都内で200人が同時に飛び降り自殺を図った。死亡推定時刻は、秒単位で一致。

目撃者も証拠もゼロ。手口も動機も一切不明。

ただ、自然では説明できない以上、異能者の関与が濃厚。……そういう事件だ」

部屋の中に、クラシックだけが静かに流れる。

「――ふむ。なるほどなるほど、よくわかったよ」

乙金がエナジーリングを傾けながら、妙に満足げに頷く。

「本当か? じゃあ、誰が犯人か――」

「それはわからん」

「…………」

言葉が詰まった。

突き放すような一言だったが、悪意も虚勢もなかった。

それが逆に、重い。

「おい……わかったって言ったろ?」

「わかったさ。“何もわからない”ということがな」

「は? それじゃ結局、“何もわかってない”って言ってるだけじゃないか」

「はぁ……」

乙金は頭をかきながら、少しだけ表情を歪める。

その仕草には苛立ちでも呆れでもなく――“知っている者”の諦観がにじんでいた。

「お前、何を勘違いしてるんだ?」

「……?」

「“わからない”ってのは、無能の証明じゃない。

それはな、自分の視野の外にあるものに、“気づいている”ってことなんだよ」

言葉は返せなかった。

「俺にも、この事件の全容は見えない。犯人の動機も、手段も。だが――ひとつ、仮説は立てられた」

乙金の目が、モニターの明滅を反射して淡く光る。さっきまでの気だるさが、わずかに消えていた。

「確証はないが、構造としては成立する。理屈は通る。だが……」

そこで言葉を切る。

「――無差別すぎる。パターンが読めない。だから、次にどこで、誰が、何をされるかがまるでわからん」

その声は淡々としていた。だが、

その裏に滲む“違和感”――いや、“不安”とも呼べるものが、じわじわと胸を圧迫してくる。

「とりあえず、俺の仮説はデータとして送っておく」

数秒の操作音が響く。

複数のファイルが、言葉の端末に転送された。

「お前がやるべきことはひとつだ。現場に行け。空気を嗅げ。血の跡を踏め。どんなに豆粒みたいな情報でも、拾ってこい」

「もしかして」

「あぁ、今回は俺が探偵役をやってやる」

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