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第二章 中章1  

翌朝。俺は――変な目覚め方をした。

「……いって」

床に転がった状態で目を覚ます。

どうやらベッドから落ちたらしい。

頭を打った衝撃で、意識がぼんやりしていた。

「……ふわぁ、眠い」

大きくあくびをしながら、枕元のリモコンを手に取る。

テレビの電源を入れ、ぼんやりとニュース番組へとチャンネルを合わせる。

その瞬間、画面から流れ出したアナウンサーの言葉に――思考が一気に覚醒する。

「速報です。昨日深夜2時、都内で200人の人々が、ビルや高層住宅から一斉に飛び降り自殺を図りました。死亡時刻はすべて一致しており、警察は何者かの関与を疑い捜査を進めているとのことです」

「……は?」

言葉が出なかった。

全身に、冷たい汗が滲む。

俺の中で、直感が警鐘を鳴らす。

――これは、“異能”による事件だ。

慌ててスマホの電源を入れる。

未読メッセージと、深夜2時を起点に連続した不在着信の履歴がずらりと並んでいた。

震える指で発信履歴を遡り、火憐に電話をかける。

「…はぁ、やっと起きたか。説教は後だよ、わかっていると思うけど、これは異能者が引き起こした事件だ」

「…犯人に目星は?」

「それが目撃情報が一切なくてね、警察もお手上げ状態らしい」

「200人が自殺したんですよ?」

「そう、あり得ないんだよ。だからこそ、異能者がやったという信憑性がある」

異能者に対して、対峙することもなく完全に後手に回っている。

これは――とても、よくない。

「そっちで情報は? もう動いてるんだろ」

異能殲滅会の情報網なら、何かしら掴んでいるはずだ。そう思っていた。

「動いてるよ。だけど――何一つ、わからなかった」

火憐の声は、珍しく苛立ちを含んでいた。

「現場に行っても、“人が死んでいた”という事実だけ。誰がやったのかも、どうやってやったのかも。痕跡すら残ってない」

殲滅会の情報網でも、まるで手がかりがない。

これほどの規模の事件で、証拠が“何もない”というのは異常だ。

「……とりあえず俺でも調べてみます。現場を見れば、何かわかるかもしれませんから」

「うん。異能者の君なら、“常識外の痕跡”に気づけるかもしれないしね。あとで、銀鏡くんも同行させる」

電話が切れると同時に、すぐさま身支度を整えた。

ポケットに携帯と銃。最低限の装備を確認して、送られてきた現場情報を頼りに街へ出る。

――そして。

「……成程」

たどり着いた現場にはすでに死体の姿はなかった。警察が片付けを終えた後らしく、そこにあるのは――渇いた血の跡だけ。

黒ずんだ染みが、じっとりとコンクリートにこびりついていた。

そこで人が死んだという痕跡。それ以外何も残っていない。

「重力…いや、それだと200人じゃ済まない。操作?それも現実的じゃないな」

朝のニュースを反芻しながら、頭の中で異能の系統を洗い出していく。

何か思い当たる力はないか。聞いたことのある異能、過去の事件との共通点……。

だが――何も、出てこない。

「やばいな」

思わず、声に出た。

無意識に、足元の血痕から一歩下がっていた。

予測がつかないということは、経験をしたことがないということ。前例がないとはいえ、異能自体はそんなに種類が豊富ではない。でも、こんなにわからないのは初めてだ。

「言葉先輩!早いっすね!」

「遅かったな。ん?寝起きか」

「え!なんでわかったんですか」

「寝癖だよ、頭爆発してるぞ」

「は!み、見ないでください!」

「別に見ないよ」

これだけで決めるのはまだ早い。他のところを見ればわかることはあるかもしれないな。

「銀鏡、移動しよう」

「ついていきますよ!先輩!」

それから1日かけて残りの199件の現場を見て回った。手がかりになるようなものは一切無く、ただ体力を削っただけだった。

「はぁはぁ…何も…わからなかった…ですね」

銀鏡が、ベンチに座り込む。肩で息をしながら、それでも笑みを浮かべようとしている。

「…そうだな」

時刻は夜18時。定時に当たる時間帯だ。

「銀鏡、先に帰れ」

「わ…私も…いきましゅ」

「体力切れしている奴の面倒はみてる場合じゃないんだよ。わかったら、帰ってくれ」

「…わかりました」

銀鏡はしょんぼりと肩を落とし、足取り重く去っていった。

「はぁ、頼るしかないよな」

俺は深くため息をつきながら、学校へと足を向けた。

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