第二章 前章2
闘華さんにカウンターの奥を通してもらい、裏手にある扉を開ける。
軋む音とともに現れたのは、地下へと続く階段だった。
一歩、また一歩と階段を降りていく。
外の陽射しとは無縁の、ひんやりとした空気が肌を撫でる。
地下に着くと、そこには3部屋ほど並んでいる。そのどれもが防音、耐水、耐衝という頑丈な設計であり、見るたびに何を想定したのだろうと疑問を持つ。作った闘華さん曰く、隠れ家っぽくていいじゃないかということだった。悪用されたらたまったもんじゃないと思う。
一番奥の部屋に入り、置いてあるソファへと腰を下ろす。
「…暇だ」
俺は仕事人間であるため、趣味というものを持ち合わせていない。そのため、こうやってちょっとした暇な時間を持て余すことが多く、こういう時は天井を仰ぎ見ることしかできない。
アホ面を晒しながら待っていると--。
ボンッ!
聞いたこともない爆音とともに、扉が跳ね飛ぶように開いた。
「失礼しますッ!!」
現れたのは、銀髪の少女だった。
まっすぐ俺の正面まで歩み寄り、直立不動の姿勢で、叫ぶように自己紹介を始めた。
「この度っ!異能殲滅会に配属されましたっ!銀鏡と申しますっ!よろしくお願いいたしますっ!!」
……声が、でかい。
防音設計のこの部屋でもなお、壁がビビるほどの大音量。
下に降りる必要あったのか?この子、地上でも聞こえたんじゃ?
「…あ、ああ。歴木言葉だ。よろしく」
「よろしくお願いいたしますッ!!」
元気すぎる返事に思わず耳を押さえる。
「うん、元気なのは悪くない。でも、声、抑えよう。俺の鼓膜が泣いてる」
「はっ、失礼しました!このくらいで、いかがでしょうかッ!」
……まだちょっとデカい。でも、もう諦める。
「うん、とりあえず、そこに座って」
「失礼しますッ!!」
ビシィと礼をしてから、ようやく着席する銀鏡。その姿は妙に真面目で、妙に軍隊じみていて、そして――妙に目立つ。
銀髪。
それも、まるで雪のように白い。
……なのに、そのインパクトを全部、大声で相殺してる気がするのは、気のせいじゃないだろう。
「新人、ね……」
一度、じっと銀鏡の顔を見つめてから――
俺は問いかける。
「君、自殺志願者なのか?」
「えっ!? そ、それはどういうことでしょうか……?」
戸惑う声。
無理もない。だが、俺は容赦しない。
「はぁ……どういうつもりか知らないけどな、異能者との戦いなんて九割九分九厘、こっちが死ぬんだよ」
「……」
「それでも、君は“俺の部下”になった。ってことは――前線に立つ覚悟があるってことだよな?」
沈黙。銀鏡の目が、少しだけ揺れる。
何考えてんだ、火憐は。
心の中で毒づきながらも、目の前の少女から目を離さない。
甘い気持ちで来たのなら、ここで折れてくれた方がマシだ。
「覚悟はあります。もちろん、死ぬ覚悟が」
その声は変わらずまっすぐだった。だが、続く言葉で――空気が変わった。
「ただ、私は……兄を殺した異能者を倒すために、“死にません”」
……一瞬、視界が揺れたように感じた。
先ほどまでの明るく、元気すぎる少女は、もうどこにもいなかった。
そこにいるのは、獲物を狙う獣の目をした戦士。
無理に繕っていたのではなく、あれが“素”だったのか。
いや、この“殺気”こそが、彼女の本性なのかもしれない。
「…そうか。そこまでの覚悟なら俺がやんやいうのは無粋だな。これからもよろしく」
「はい!よろしくお願いします」
固く握手を交わし、その後親睦を深めるために、軽い雑談をした。