表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

耳の穴が痛い

作者: 破死竜

 耳の穴が痛い。

 正確には、その中の一ヶ所が痛んでいるのだ。

 傷口は、それほど大きくはない。だが、入口から差し込んだ綿棒の先が、

ようやく届くほど奥に出来た傷であり、オレの手では、小指以外の指は入らない深さにある。

 痛みも、さほど強くはない。どうかすると、忘れてしまいそうになる小さな痛みだ。

 だが、延々と傷み続けている。会話や食事をしようとして、口を少しでも動かすと、

それだけで痛みは大きくなり、「ここに傷があるぞ」と主張する声のように、存在感を増す。

 だから、眠ることができても、小さなあくび一つ、小さな寝返り一つで、痛みが生じ、

――正確には、”意識させられて”――、目が覚めてしまう。

 「くそが、くそったれが・・・・・・」

 大声を上げると、顎の動きが傷口から痛みを引き出すので、口を大きく開かないようにしたまま、

小さな声で、恨みと嘆きの言葉がオレの口から洩れ続けていた。

 眠れない。痛い。堪らない。


 傷をつけたのは、奴だ。

 オレより背の低い、その分、身体も小さく、”だからこそ”、

その指を、オレの耳の穴に入れることができた、あの男が、この傷をつけやがったのだ。

 指立て伏せと、指による突きを繰り返すことで鍛えた、その指は、

爪までも、のばした上で、三角に切って先が尖るようにされて、とどめに磨かれてあった。

 その、指と爪とが、この傷をつけたのだ。


 はるかに体重の軽いあいつを、オレは、たやすく投げ飛ばし、

倒れたところに覆いかぶさり、さて、どう料理してやろうかと、

内心ほくそ笑んでい。そのとき、奴の指がオレの耳を掴んだのだ。

 掴んだ力はさほどつよくなく、ただ接触の気持ち悪さに、首を振ろうとした、

そのオレの動きよりも速く、奴は、親指と中指で外耳を捉えたまま、伸ばした人差し指を、

その先端を、耳の穴の中に、突き込んできたのだ。

 このオレの、今その時受けた傷の痛みが続く、この耳の穴の中にだ。


 オレは、「ひっ」と、みっともない声をあげて、奴の身体を離し、

上半身を起こして、耳を手で覆ったと思う。

 痛みのあまり、穴やその中には、触れることもできなかった。

 奴は、オレに応じて、身体を起こし、逆にオレを、仰向けに押し倒したのだった。

 右手を耳から離せぬまま、見上げたオレの視線の先で、

奴は、嗤っていた。”笑っていた”のではなく、あれは、確かに、”嗤って”いたのだ。

 悲鳴を上げ、闘いの最中に我を忘れ、地面に倒れて、無様に見上げていたオレを、

だから、これでお前の負けなのだと、このことだけをずっと望んでいたのだと、

奴の顔は、そう語っていた。

 このためだけに、指先数センチを、ずっと鍛え続けてきたのだと。


 ああ、許せない。この痛みが、許せない。奴のことが許せない。

痛みに耐えられない、オレも、オレの身体も許せない。

 「この傷が治ったら・・・・・・」

 絶対に、絶対にだ。

 「絶対に、奴の耳を、その穴を抉ってやる。両方の穴に、この指を根元まで突き入れてやる」

 オレは、痛みのあまり、表面がすり減るほどに、歯を食いしばりながら、

眠れぬ寝床の中、奴を恨むことで、

 この耳の穴の痛みから、なんとか少しでも、意識を飛ばそうと、

喘ぎ、呪いの言葉を吐き続けていた。

突然、耳の穴の中の傷口が痛み出して、

何事も手につかなくなり、

気が付けば、これを書いておりました。

(※傷が出来た理由については、フィクションです)


今朝起きて、カサブタの欠片が、粉のようになっている、

自分の耳の穴を綿棒で掃除しし、

文章を見直した上で、投稿しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
緊張感のある短編で、読み応えがありました。 耳の穴の痛さの原因となった 柔道か柔術のような戦いの描写がよく書かれてましたね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ