アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンが見た夢
今日の午後、特使派遣を準備するために、デスクで執務していた時にだ。
不意に、私の前に誰か居るような気配を感じた。
目を上げると、そこには非常に美しい女性がいた。
私は驚いて、彼女に何故そこにいるかを尋ねたが、何も答えない。
何度か同じ質問を繰り返したが。
謎の訪問者から返答はなく、ただ少し、こちらを見ただけだった。
その時だ。
私の中に奇妙な感覚が広がっている事を感じた。
私は椅子から立とうとしたが。
女性に見つめられている時には、自分で動こうとする意志が遮られて動けないのだ。
私は、再び彼女に質問することで状況を把握しようとしたが。
今度は、喋る事ができなくなってしまった。
もはや、私は何もできなくなっていて、ぼんやりと彼女を見つめるしかなかった。
私の存在が少しずつ、希薄になっていくように感じた。
その時、私は、誰かが死にかかっている感覚に包まれ始めた。
ーーというより、死に伴う崩壊と想像できる感覚を経験し始めたのだ。
考える事も理由を探ることも、そして動く事さえ、その全てが不可能だった。
ふいに声が聞こえた。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
同時に、目前にいる女性が東の方向に腕を伸ばした。
彼女が、示した方向には、非常に濃い白い霧のような物が立ちこめていた。
霧は、少しずつ消えた。
そして、私はそこに奇妙なものを見たのだ。
訪問者である女性は、平面上に世界全ての国を広げた。
ヨーロッパ、アジア、アフリカ、そして、アメリカ。
私は、アメリカとヨーロッパ間の大西洋にも、うねりを見た。
そして、アジアとアメリカ間の太平洋にも、うねりを見た。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
ーーと、再び声が聞こえた。
その瞬間、暗闇に天使が立っていた。
いや、立っているのではなく、浮いていた。
天使は、ヨーロッパとアメリカの間にある大西洋上に浮いていた。
天使は、海の水を手ですくい上げ、左手でヨーロッパに放り投げた。
そして、右手でアメリカの上にも水を放り投げた。
すぐに、これ等ヨーロッパとアメリカの国々から雲が立ち昇り、大西洋・中央海嶺と結合した。
そして、その様相は少しずつ西へ動き、アメリカを包み込んでしまった。
その間、稲妻による鮮明な閃光が輝いた。
私は、閃光に覆われた呻き声と、アメリカ国民の叫び声を聞いた。
次に、天使は海から水をすくい上げ、撒き散らした。
それから、黒い雲が海に引き戻された。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
ーーと、3回目である謎の声が聞こえた。
私がアメリカ大陸に目をやると。
アメリカには、西海岸から東海岸まで、いたるところに、村や都市が出現していた。
そして、さらに再度、その声が聞こえた。
「共和国の息子よ、この世紀の終わりを見なさい、そして知りなさい」
ーーと、聞こえ、そして、天使たちは南のほうへ顔を向けた。
アフリカから、不吉な亡霊達が、私達が住む土地の方へと向かっている姿を見た。
それは、アメリカのあらゆる村や都市を横切っていった。
アメリカの住民たちが、住人同士で戦うように仕向けられた。
その後、私は輝く天使を見た。
天使の額には、勝利による光が輝いていた。
光は、連合《 Union 》と言う輪郭を持っていた。
天使は、引き裂かれた国家の間をアメリカ国旗を持って歩いた。
そして。
「覚えておきなさい。きみたちは同胞だ」
ーーと、言った。
また。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
ーーと、声が聞こえた。
暗がりに影のような天使がおり、彼女は口にラッパを当てていた。
その天使は、海から水を取り、ヨーロッパとアジア、そして、アフリカの上に撒いた。
その後、私は恐ろしい光景を見た。
これら国々から黒い雲が立ち昇り、そしてそれは一つの雲となった。
そして、黒い物質の中を通って、武装した人々による大群がアメリカに向かってくる姿を見た。
彼等は、雲と共に動き、陸路でも船でもアメリカに向かってきた。
アメリカは、この雲に完全に包まれた。
そして、巨大な軍隊がアメリカ全土を荒廃させ、村や都市が燃えていた。
戦闘と大砲による大音量の中で、何百万人と言う叫び声が聞こえた。
そこでは。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
ーーと、再び声が聞こえた。
声が終わると共に、暗い影のような姿をした天使が、もう一度ラッパを口に当てた。
そして、その天使は恐ろしい衝撃を放った。
すぐに、何千にも思える太陽にも相当するような光が、私の頭上に見えた。
そして、それは何千と言う暗雲の断片となって、アメリカを引き裂いた。
同時に、額に連合《 Union 》と刻まれた天使だが。
彼女は、片手にアメリカの国旗を持ち、片方の手には剣を持ち、歩いていた。
剣は、天の白い精霊たちによって、もたらされた。
彼等はアメリカの住人たちに加わり、勇敢に戦いを再開した。
その戦争による恐ろしい騒音渦中では。
「共和国の息子よ、見て、そして知りなさい」
ーーと、私には再び声が聞こえた。
暗い天使は、最後に水をすくいあげて、アメリカの上に撒いた。
それと共に黒い雲は後退した。
そして、アメリカの住民は勝利を得たのだ。
それから私はもう一度、町や都市を見た。
輝く天使が青い紋章旗を立てていた。
「星々がある間、そして天が地球に霧をもたらす間、連合は長く残ることになるでしょう」
ーーと、天使は言った。
人々は跪き、アーメンと祈った。
そこで、今まで見ていた場面は消え始めた。
私は、自分の体が動くことを感じた。
そして、私は自分が謎に包まれた、訪問者の顔を見ている事に気づいた。
その人は、今まで聞いた声と同じ声でこう言った。
「共和国の息子よ、あなたが見たものは、このように解釈されます……3つの大きな危機が共和国にやって来ます……もっとも恐ろしいのは3つ目です……しかし、この最も大きな対立において、敵対する連合した全世界は勝つことはできません」
さらに、声は続いた。
「共和国のあらゆる子どもに、神のために生きるように説いて下さい……そして、その神の土地と連合のために生きることを説いて下さい」
そして、ビジョンは消えた。
私は、アメリカ合衆国の誕生と、また進展と運命を、そこで示された訳だと感じた。




