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沖縄の創造神話

 【1】 創造と火山噴火の時代。



 《1》 創造の命令。



 この世がまだ混沌としていた頃、創世神テルクミ・ナルクミは、アマミクと言う神様に命じます。



 この下に、神降りすべき霊地がある。


 未だに島となっておらず、口惜しいことだ。


 そなたが神降りし、土地をつくれ、と命じ、その場所が後の琉球となりました。



 土地をつくった、アマミクは次に人類を作り、穀物類の農耕を伝えたと言う。



 ⭐️ テルクミ・ナルクミと言う名前の創世神もいるようです。


 テルコ・ナルクミとも言う。



 ⭐️ アマミク、アマミコ、アマミキュ等と言う名前の場合もある。



 ⭐️ シネリキヨ。


 シルミコ、スデミツ、シネリキュ等と言う名前の場合もある。



 《2》 アマミキュ・シネリキュ。



 沖縄の開闢かいびゃく神話に登場する始祖神たちに付けられた、名称。


 古伝承を記したと思われる、袋中和尚たいちゅうおしょう


 彼が、1605年に書いた、琉球神道記(りゅうきゅうしんとうき)には。



 天から、女であるアマミキュ、男であるシネリキュと言う二人が下ってきた。

 そして、波に漂っていた小さな島に、木や草を植えて、沖縄の国土を形づくったとある。



 二人は、陰陽・和合はないが、居住が並んでいた事で、往来の風によってはらみ、三子を産んだ。



 長子は、所々の主。

 次子は、女性祭祀さいし者ののろ

 三子は、土民の祖。


 ーーと、それぞれなったと言う。



 この神話は、天界出自、国土創造、人類起源を主題とする。


 そして、日本神話の伊弉諾いざなぎ伊弉冉いざなみ、二神による国生み神話と類似する要素をもっている。


 一方で、琉球りゅうきゅう王朝の政治、宗教的支配による階層秩序の反映と言う土着的な要素も認められる。


 創世神話を詠み込んだ、おもろさうし、巻一、1623には。


 日神テダが、アマミキュ・シネリキュを召して、島造りを命じた事が記されているが。


 混効験集こんこうけんしゅう1711に従って、これを男女二神とすれば。

 以前は、太陽信仰が創世神話と関わっていた事が推察される。


 テダが後に、天となり、中山世鑑ちゅうざんせいかん1650に至ってからだが。

 天帝と言うように、人格化されていく経緯が明らかである。



 《3》 宮古の漲水御嶽神話。



 夜虹橋。



 天界にいる帝、アメテダはまず、弥久美神やぐみのかみと言う神を呼びました。



 そして、岩柱を少し折ると弥久美神やぐみのかみに伝えます。



「風水の良いところを選び、この岩柱を使って、島を作ってはくれないか。」


 すると、弥久美神やぐみのかみは天の橋である、夜虹橋ヨノズバスから地球を見渡します。


 そうして、手頃な場所を見つけると、その岩を投げた訳です。



 岩は、一瞬粉々に砕け散ったのですが、一枚岩となって、宮古島となりました。


 島を見たアメテダは、この岩に赤土を降らせ、宮古島となります。



 島の守護神。



 宮古島ができあがると、今度はコイツノを呼び、島へ降りて守護神となりなさいと告げます。




 陰と陽。



  ところがらコイツノは天の帝にこう申し立てるのです。



「おそれながら、わたしには足りないものがございます」



「あなたは五体満足、全て備えているのに、これ以上何が不足と思うのでしょうか」


 ーーと、天の帝がコイツノに問うと、コイツノは答えました。




「全てのものに陽があれば陰があり、陰があれば陽があります……私は男の神ですが、男一人では創世はできません、どうぞ女神の供を私につかわしてください」


 それを聞いた天の帝は、コイツノに、コイタマと共に、宮古島へと降りるよう命じたのです。



 鬼との戦い。



 かくして、コイツノとコイタマは虹色の雲に乗ります。

 そして、盛加神もりかのかみを始めとする剛力の神々を従えて、宮古島へと向かいました。



 けれども、その道中には。


 天から追い出された、鬼たちが立ちふさがり、女神コイタマを連れ去ろうとしたのです。



 白ご飯。



 剛力の盛加神もりかのかみは、天の矛を使って全滅させようとしました。

 また、火を扱う美真瑠主神ピマルのかみは焼きつくそうとしました。


 あまびせの神は、豪雨で流そうとします。




 けれども、コイツノは違いました。


 彼等を押さえると、鬼達に白ご飯を与えたのです。



 これで、鬼たちはコイツノ一行を通しました。


 宮古島に降りついた、コイツノとコイタマ達は、漲水天久崎ぴゃるみずあめくざきに居を構えました。



 農地開拓。


 宮古島に居を構えた、コイツノとコイタマ達。


 彼等は、宗達むにだる嘉玉かだまたちと言う、男女二人の子どもを産み、島を耕しました。



 黒土。


 けれども、赤土に覆われた宮古島は耕せど耕せど、何も育ってはくれません。


 二柱は、ただただ、途方に暮れるばかりとなりました。




 これを見た天界にいる天帝は二柱を想い、黒土を降らせました。

 黒土は赤土と違い良く肥え、農作物を育てるのにはピッタリです。



 お陰で、宮古島には粟がよく育ち、たわわに実る季節を迎えることができました。




 宮古の漲水御嶽、子孫繁栄。


 こうして、農地を耕すことができ、子供も次第に大人になり思春期を迎えます。


 そこで、天帝は男神である木装神きふそうのかみ、女神の草装神ふさふそうのかみを宮古島へ降ろします。




 木装神きふそうのかみは、秋の紅葉を身にまといます。


 草装神ふさふそうのかみは、春の青草をまとっていました。




 土地分け。


 その行為を、コイツノとコイタマ達は有難く受け止めました。


 こうして。



 宗達むにだると、草装神ふさふそうのかみ

 嘉玉かだまと、木装神きふそうのかみ


 ーー達は、それぞれ夫婦となったのです。




 そして、宗達夫婦は、宮古島の西方となる西仲宗根を。


 また、嘉玉夫婦には、宮古島の東方となる東仲宗根を。



 それぞれ、分け与えます。



 さらに日が経ち、宗達夫婦の間に世直真主よなねしのまぬずと言う男子が産まれます。


 また、嘉玉夫婦の間には、素意麻娘司そいまらつかさと言う、女子が産まれました。




 世直真主と素意麻娘司は、大きくなると結婚し、宮古に人々が増えていったのです。



 ⭐️ コイツノ。



   恋角・古意角と、漢字では書く。



 ⭐️ コイタマ。



   恋玉・姑依玉と、漢字では書く。



 《4》 稲種を盗んだ神。



 昔々、東方スグル嶽にある芭蕉群れシナグの滝。


 そこに、石の王イシヌオーと土の君ハニヌキミが生まれました。

 二人は結ばれ、子を成しましたが、その子に聖名も付けない内に、石と土に戻ってしまいました。


 子は聖名を欲しがって、自ら天の庭ティンヌミヤに昇って行きました。

 さらに、そこで照り輝く太陽ティダを拝んでこう言いました。



「私は、東方嶽の芭蕉群れの滝に生まれた石の王と土の君の間に生まれました、けれど、父母は私に聖名を付ける前に石と土に戻ってしまいました。どうか、私に聖名を付けてください」


「よし、ではお前に島建国建シマクブダ・クミクブダという名を与えよう」


「では、私に島を与えてください」


「ここにはない、ニルヤ島・ハナヤ島に下って、大王を拝んで頼むがいい」



 そこで、島建国建は空と海の落ち合うところ。


 世界の果てにある、ニルヤ島・ハナヤ島に下っていって、海の大王を拝んで言いました。



「大王さま、私に島を下さい」


「よかろう。大潮フーシュと八潮ヤハシュに頼んでやろう」


 大潮と八潮は渦を巻き、海底の土を巻き上げて、赤土を下に黒土を上にした島を作ってくれました。


 ところが、この島は浮き島で、島の北の端を踏むと南の端が。

 南の端を踏むと北の端が持ち上がり、少しも定まっていません。


 島建国建は、太陽に伺いを立てました。




「天の神よ、漂う島を、どうしたら定めることが出来るでしょうか、揺れ動くものを、どうしたら踏み固めることが出来るでしょうか」


「東の岸には黒石を置き、西の岸には白石を置け。さすれば、島は定まるであろう」


 島建国建はその通りにして、この島釘によって島は、ようやく定まりました。


 また、島には遮る物が何もない事から、東の波が西まで西の波が東まで打ち越えます。


 そこで、石を積み木を植えて、波を防ぎました。



 島建国建は、谷を作り川を作り、集落シマを作り御嶽を作りました。


 しかし、そこに住む者がいません。


 そこで、再び天に昇って太陽に請いました。



「私は集落を作りました……でも、そこに住む者がいません……どうか、人間を下さい」


「では、一組の兄妹を与えよう。よいか、地上にどんどん人種を増やすのだ」


 別説では、天の神に教えられて土をこねて神を真似て、姿を型どった泥人形を作ります。


 また、それに息を吹き込めて人間を作りました。


 けれども、三年経っても人は全然増えませんでした。


 兄妹の間に子供が出来なかったのです。


 どうしたらいいのか分からなくて、島建国建はまた天に昇って、太陽に尋ねました。



「私は人を授かりました。けれども、少しも増えません」


「兄を風上に、妹を風下に立たせて、追い風で交わらせるのだ」


 別説では、男を風上にある家に、女を風下にある家に住まわせると。

 男が吐いた息が、風下の女にかかって妊娠した、となっています。



 その通りにすると、兄妹の間に子供が出来て、人間が増えていきました。


 さて、人間が増えたので、食べ物が必要になります。


 この頃、人間が口にする食べ物はまだ定まっておらずにいた。

 そのため、男も女も、せっかく生まれた子供も、みんな飢え死にしそうになっていました。


 島建国建は天に昇り、太陽に稲種を乞いました。



「ここにはない。ニルヤ島・ハナヤ島に下って、大王を拝んで頼むがいい」


 そこで、島建国建はニルヤ島・ハナヤ島に下って、大王を拝んで乞いました。大王は言いました。


「よかろう、ただし、初穂祭りの期間が済んでからだ、祭りがきちんと済んだなら、稲種を渡そうではないか」


「お言葉ですが、人間は今にも餓死しそうになっています、これほどの旅をして私がここに来たのですから、すぐに稲種をください」


「それはならぬ、まず、祭りをせよ」


 待ちきれなかった島建国建は、ニルヤ島・ハナヤ島の黄金の田んぼに行くと。

 ふさふさと実る穂を摘んで袂に隠し、すぐに逃げ出しました。


 クシントー原バル・アミントー原バルまで逃げましたけれども、大王の怒りに触れたんでしょう。


 別説では、大王の追っ手に打たれて、そこで気を失って倒れたまま、目を覚ましませんでした。


 一方、太陽は孔雀と鶴を放って、帰って来ない島建国建を探していました。


 すると、クシントーバル・アミントーバルで、孔雀と鵺は何かを発見します。

 それは、目や鼻が欠けた哀れな姿で倒れている島建国建でした。


 倒れている、島建国建の体に生き水を注ぎ、生き鞭で打つと、息を吹き返して起き上がりました。


 太陽は言いました。



「お前はよく仕事をしたが、盗みは許されぬ、もう一度ニラヤ島・ハナヤ島に行って、正しい手続きで稲種をもらってきなさい」


 島建国建は、ニラヤ島・ハナヤ島に戻り、大王から正式に稲種をもらって、無事に帰ってきました。


 島建国建は田んぼを作り、そこに稲種を蒔きました。


 十一月に植えて、二、三月に青々と茂り、七月の盆には、黄金色をした波みたいに実りました。


 それを見て太陽は言いました。



「初穂は神々に供え、家の祖先神、かまどの火の神にあげ、残りは食べるように人間たちに教えなさい」


 島建国建が、そのように教えた事から、以降、人間たちは同じようにする事となりました。


 これが、沖永良部島の始まりです。




 《5》 花を盗んだ神。



 昔々、大昔のことです。


 まだ、この世に何もなかった頃、天の神様が沢山神様たちを従えて降りてきました。


 神様たちは分担して、草や木を作ったり、魚や貝を作ったり、虫や動物を作ったりしました。

 そして、最後に、神の姿に似せた人間を作ろうという事になりました。


 神様たちは、ワイワイガヤガヤ、みんなで泥をこねて沢山の人形を作り、日に干しておきました。


 ところが雨が降ってきたので大慌て。


 急いで取り込んだ事で、幾つか人形の手足などが欠けてしまいました。


 ですから、人間には体の不自由な人が産まれるようになったワケです。


 この泥人形に、海の神が息を吹き込めると、人形は生命を持って人間になりました。




 人間作りが終わると、神様たちは、誰が人間を治めるかで、喧嘩を始めました。



 土で人間を作る事を思いついた神は、私、天の神だ。


 何を言う、その人間に息を吹き込んだ神は、私、海の神ではないか。


 二人は互いに譲らず、とうとう天の神が、枯れ木を二本も取って言いました。


 それでは、この枯れ木に花を咲かせた者が人間を治めることにしよう。

 寝るとき、それぞれの枕元に枯れ木を置いて、翌朝に咲いていた方が勝ちだ。


 ーーと言って、海の神に枯れ木の一本を渡しました。


 天の神と海の神は、枯れ木を枕元に置いて寝ました。



 天の神は夜中にふと目を覚ましました。


 見ると、海の神が置いた、枯れ木に花が咲いているではありませんか。


 自分が置いた、枯れ木には何も咲いていないのに。


 天の神は、こっそりと、自分と海の神が置いた枯れ木を取り替えてしまいました。


 夜が明けると、天の神は、それ見ろ、私の枯れ木に花が咲いたぞ。


 人間達を治める事に相応しい神は、天の神だ。


 ーーと勝ち誇りました。



 それに対して、海の神は言いました。



 花は私の枕元にこそ咲くべきだったが。


 私は、このまま大人しく海に帰るが。


 今後、世界が続く限り、盗人の種は尽きないであろう。


 こうして、天の神が人間を治めることになりましたが。


 しかし、海の神が言った通りに この世は盗人による天下となりました。


 盗んだ者が金持ちになり、金持ちが互いに戦を起こし、殺人と奪い合いが果てしなく続きました。



 天の神は、ほとほと嫌になり、天に帰ってしまいました。


 その頃までは、作物は根元から穂先まで、ビッシリ実が付いていましたが。

 帰るときに天の神が茎をぐいっとしごいたので、穂先にちょっぴり実るだけになってしまいました。


 ただ、大豆だけは鞘の先が尖っていて痛く、天の神も、しごききる事が出来ませんでした。


 それで、大豆は今でも根元から先まで、ビッシリ実がつくのです。



 また、こんな話もあります。


 花咲かせ勝負に敗れた海の神は、人間・獣・虫など、あらゆる生き物が持つ目を閉じさせました。

 そして、産まれたばかりである火の種子を、その間に地上にある何処かへと隠した。


 その後、竜宮に去っていきました。


 火が無くなった事により、天の神も人間たちもみんな困りました。


 天の神は、地上に暮らす生き物を、全て残らず集め、海の神が火の種子をどこに隠したか。

 それを、見た者はおらぬかと尋ねましたが、みんな目を閉じていたので分かりませんと言います。


 その時、バッタが一匹、進み出て言いました。



「私が知っています、私は羽根で目を覆っていましたが、ご覧の通り、私の目は脇についております、この目で盗み見をしていたところ、海の神が石と木の下に火の種子を隠すのが見えました」


 喜んだ天の神が、直ぐに石を取り、木を取って、石と石を打ち合わせると。

 火花が散り、木と木を揉み合わせると煙が立って、火が燃え上がりました。


 こうして、火の種子は取り戻され、人々は石や木で火を起こすようになったのです。


 


 琉球神道記によると、かつて世界に火はなかったと言います。


 竜宮ニライカナイから火を求め、これにより国が成りました。


 人間が作り出され、キンマモンという守護神が現われました。


 キンマモン神は、海底の宮に住んでいます




 ⭐️ ニルヤ島・ハナヤ島。


 ニライカナイ、或いは竜宮の事を示す。



 《6》 バナナ型神話2。 月と太陽から与えられる変若水シジミズ死水シニミズ



 太古の昔、宮古島に始めて人間が住むようになった時に起きた事。


 月と太陽が、人間に長命を与えようとした。



 二人は、節祭の新夜に、アカリヤザガマと言う人間を使いにした。


 変若水シジミズ死水シニミズを入れた桶を天秤に担いで、下界に行かせた。


 人間には変若水を、蛇には死水を与えよとの心づもりである。


 しかし、彼が途中で桶を下ろし、路端で小用を足したところ、蛇が現れて変若水を浴びてしまった。


 彼は仕方なく、命令とは逆に、死水を人間に浴びせた。



 それ以来、蛇は脱皮して生まれかわる不死の体を得た。


 一方、人間は短命のうちに死ななければならない運命を背負ったと言う。


 アカリヤザガマは、神の使命を果たせなかった罰として、桶を担いで月に立たされているという。


 この伝承では、神に相当する者は、月と太陽である。



 アカリヤザガマを、アカリヤ・ッザガマ。


 意味は、輝ける老人とする解釈がある。



 《7》 白金の鍋、油雨、燃える世界。



 八重山諸島に伝わる神話。



 大昔、島に住む人々は、山野に生えている木の実、つる根をさがして喰べていました。


 又、海岸に出て魚貝類を漁り廻っていました。



 税金は無かったし、徒と言う物もなかったので、土民達は本当に自由の民として暮していました。


 ある日、青く澄みきった大空が、俄に、燈色に変わった。


 また、さらに赤い色となり、遂に紅の炎となった。



 土民達による祈りも効果がなく、空から火の雨が降ってきました。


 士民達は、泣き叫びながら右往左往しましたが、この火の海から抜け出ることが出来ませんでした。


 島は、焦土と化し、生きとし生ける者は皆全てが、焼き殺されてしまいました。


 ところが、神のみ心にかなった、一家族が生き残っていました。


 その家族は、神が出した聖声みこえに従って、どなだ・あぶにかくれていました。


 それで、無事に助かりました。


 その子孫から耕す事を知るようになり、又、働いて余分な物を貯える事を知るようになりました。


 その為に、島は栄えるようになりました。



 これと似たような話が、波照間島や石垣島には存在します。





 【2】 ヤンガードリアス間氷期に当たる時代。



 《8》 月と太陽。



 多良間島。 徳山清定さんの話。



 太古、妻である月の光は、夫である日の光より遥かに強く明るい物であった。


 ところが、夫が羨望するあまり、夜歩む者には、このような目をくらます光は不必要だ。

 ーーと言う口実で、少し光を自分に譲るよう、たびたび月に願ってみた。


 しかし、妻は夫の願いを聞き入れなかった。



 そこで、夫は妻が外出する機会をつかんで、急に後ろから忍び寄り、地上に突き落とした。


 月は盛装を凝らしていたが、ちょうど泥の中に落ちた事で、全身汚れてしまった。


 この時、水が入った桶を二つ天秤棒に付けて歩く、農夫が通りかかった。


 泥の中で、しきりにもがいている月の姿を見た、農夫。


 彼は、そうそう手を貸して泥から出してやり、桶の水で綺麗に洗った。


 それから、月は再び蒼穹へ上がって、世界を照らそうとしたが。


 この時から、明るい輝ける月は光を失ってしまった。


 月は謝礼として、農夫を招いた。


 この招かれた農夫は、今まだ月に留まっていている。



 満月の夜。


 農夫が、二つの桶を天秤棒に付けて、運ぶ姿がはっきり見とれる。


 

 《9》 胡弓クウキョウの元になった竜の鳴き声。



 沖縄先島・沖縄県宮古郡・城辺町保良。


 昔、保良の元島から近くにある大きな洞穴に、親子竜が棲みついていた。



 親竜は、クバマ嶺という小高い嶺から天に昇ったり降りたりしていたということだ。


 親竜が天から降りて、クバマ嶺からカヤ山の中を長々とうねって通ると。


 カヤ山の草は、皆しかれて倒される。


 それは、野原中から飛蝗カタが一斉に空に舞い上って、まるで空にある雲のようにだった。


 この竜は、ときどき元島に住む人間を襲い、食い殺していた。

 それで、ある日、村の人たちは皆で竜を退治しようと相談した。


 そして、竜が洞穴の住みかに入って寝ている内に、入口から火を入れて焼き殺す事になった。



 さっそく村人たちは、枯れ草やたきぎを集めた。


 それを、洞穴の二つある入口に、山みたいに積んで両方から火をつけて、中に居た竜を焼き殺した。


 ところが、その時穴の中にいたのは子ども竜だけで、親竜は天に昇っていたので助かったのだった。


 親竜は、天から降りて来て、始めて子どもが焼き殺された事を知った。


 それから、たんへん悲しんで大きな声で泣いていた。



 その声は悲しそうに長く尾を引いて、保良・元島まで聞こえてきた。


 昔、その泣き声を聞いていた人が居た。


 彼は、南方にある島から何か月もかかって流れて来た、ココヤシの実を浜で拾った。


 ノコギリで切り、腐った中味は取り出して捨てる。


 それから、人が身に付けている両目みたいに、二つあいている穴にクバの柄を差す。


 糸を三本立て、胡弓クウキョウを作り、弓は馬の尾で作る。


 そうして、子供を思い、悲しんで泣いている親竜の泣き声を、それで声を真似るようになった。


 こうして、胡弓クウキョウと言う楽器が作られるようになった。


 クウキョウが出す音は、竜の泣き声から生まれたんだよと昔のおじい・おばあは話して聞かせた。


 親竜は、子どもを焼き殺されて、たいへん怒り、元島の人たちを次々と食い殺してしまった。


こうして元島は、竜のためにみんな食べられてしまい、滅びてしまった。


 生き残った僅かな人達は、竜に追われて元島から逃げ、東方のサキバリ島に住むようになった。


 サキバリ島には、七、八軒ほどの家があったそうだ。


 今では崩されて分からなくなったが、昔は屋敷跡も残っていたということだ。



 そのうち、サキバリ島に住んだ人々も、マラリヤにより滅んだ。

 そこから、また生き残った何人かの人が、ピヤウナ島という所に移り住むようになった。


 ピヤウナ島を始めた家は、イイバラヤーといって今でもその後は残っている。


 ピヤウナ島では、イイバラヤーからひろがって一時は村も栄えたが。

 それから後は、だんだんと保良の地に移り住むようになり、ピヤウナ島も滅びてしまった。


 保良に移り住んだ人々の子孫は今でも残っている。

 


 【3】 大洪水より少し前に当たる神話。




 《10》 サムライによる、七つ頭の蛇退治。



 津堅島。


 美女を拐う、七つ頭を持つ蛇を退治すべく、七つの樽に芋酒を入れる。


 そうして、樽酒に美女が映るようにして、泥酔させてから、サムライが切り殺したという話。



 それを、現代に伝える、マータンコーと言う祭りがあるとか。



 《11》 頭八つの蛇。



 沖縄先島・沖縄県宮古郡・城辺町吉野。



 はるか昔、村に何者かが現れて、娘、子供と次々と人々を掠め取って食べてしまう。


 村人が探すと、それは頭八つの蛇であった。


 皆で相談して、その洞穴に薪を押し込んで、火をつけた。

 すると、蛇は別の出口から現れて、元島を襲い、村は全滅した。


 僅かの人が生き延び、今度は、酒を用意して飲ませ、酔いつぶれた蛇を刀で薙いで退治した。

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