イロコイ連邦の大洪水
石の雨が降った日。
さて、一族は、土地周辺の様子を調べるために、物見集団をいくつも送り出した。
彼らによれば、一族はほとんど周りを陸に囲まれた小さな海から、北西の北側にいたが。
そこからら南東の南側には半円形に連なった島々がある。
それらを渡れば、その小さな海を歩いて、一巡りできそうだった。
世界を巡って、中つ火へ戻ってきた者たちは、たくさん知恵と学びの贈り物を持ち帰った。
それでもなお、我らは自分たちの生き方を誇りとし、それが続くことを願ってやまなかった。
一部の者達は山を越え、さらに向こうに広がる大いなる渇いた地にある外れで暮らし始めた。
そこは、我らが好む場所ではなかったが、その者たちは戻ってこなかった。
それでも、長人たちは海辺で暮らし続けた。
当時は、長人と言っても様々な年齢からなる大勢の男女がで集まり、一族と言えるほどだった。
知恵が沢山の源からやってくる所。
そのことが、よく理解される所。
それが、山手に学び場を控えた、我等が知恵の中つ地である。
それは、我らにとって、計り知れない価値を持っていた。
しかし、世界は変わり、一部の者が強すぎると感じた力を、他者までが感じるようになった。
空を飛ぶ者たちは、天高く舞い上がり、降りてこようとしなくなった。
鋭い牙は、背中を砕かれる危険を忘れたようであり、我々の間を駆け回った。
そして、万物が動き、治まりがつかなくなった。
そこで長びと達は海へ出ると、その有り様に目を凝らした。
その時、全てが一変した。
遠い雷鳴のような音が聞こえてきた。
小さな石が、その場で踊りだし、中には丘を転がり落ちてくる者もあった。
大地が太い網にかかった鋭い牙が如く、のたうち始め、バラバラに裂けた。
一族は、余りの異変に泣き叫んだが、足元がふらついて、逃げることも叶わなかった。
ころがり落ちる大石で、押し潰される者もおり、誰一人として立っている事ができなかった。
そうして、大地が静まった時、多くの者が傷つき、魂は大地より上へと抜け出していった。
立っていた者たちも、どうしていいか分からず、石の降っている海辺に向かって走った。
また、傷ついた者たちを助けて安全な場所へ運ぼうとしたりした。
異変が再び起こる事は、誰にも分かったからだ。
それは的中した。
大地は喘ぐように、のたうち、空から石が雨みたいに降り注いだ。
石に当たって、倒れない者はほとんどいなかった。
多くの者たちが悲鳴を上げながら山肌に倒れ伏した。
大地は揺らぎ、石が転がり、人々が叫んだ。
空気は、雷のような音が鳴り響いて、息をすることさえできない。
大石につぶされなかった者たちも、大きな轟で息がつまりそうに感じられた。
その時、一族が上げた叫び声から彼方に、遠い音を聞きつける者たちがいた。
同時に、砂地がみるみる広がって、海がすっかり退き、我らの入り江から水が消えた。
ある者は、大地が裂けて、海がそこへ流れ落ちたのだと呼ばわった。
しかしら大地は一つであって、その中心に海が流れ込める場所などない事を知る者もいた。
そこで、ある者は、きっと海が再び消えて氷になったのだと考えた。
ところが、広がった砂地を求めて山を降りてくる者たちから、口々に大きな叫び声が上がった。
危ないぞ、海から離れろ、海が大きな壁になって押し寄せてくると。
そして、人々の目に、身を守ってくれるはずである海が見えた。
食べ物や泳ぐ喜びを与えてくれる、恵みの海が見えた。
彼等の世界では、中心である海。
それが、怒れる山が如く、憤れる熊が如く、荒れ狂う嵐が如く、立ち上がったのだ。
それは、全てを踏みしだく死のように押し寄せる。
長人たちを、病人たちを、学び手たちを、石つぶてから身を隠そうとする者たちを呑み込んだ。
彼等をことごとく呑み込んで、また沖へ引いて行った。
そして、水の山から大地にある山頂へと逃げおおせた人々。
彼等は、それより下にいる全ての者たちが波に拐われていく様を、恐れながら見守った。
一瞬で、我らが持つ知恵すべてが洗い流され、一族は異変に裸でまみえたのである。
そこで、一族は傷を負った者のような叫びを上げると、互いに言い合った。
山は安心出来ない、海も安心できない、我らの中つ地も安心できない。
安全なのは、大いなる渇きの方角だけだ、と。
そうして、彼らは踵をかえし、走れる者は走った。
歩ける者は歩いた。
一つの民として踵を返し、大いなる渇きである方角に向かって、歩き出したのだ。
誰かが口を開いてこう尋ねた。
ここに、長人はいるだろうか。
すると、三人の男が立ち上がり、押し寄せる海から遠く離れた山の中で狩りをしていた。
ーーと答えた。
そこで、我等は、彼等に知恵を求めた。
しかし、彼等は言う。
我々に聞くなら、狩りのことか、深い海に住む生き物のこと。
あるいは世界を歩くことに限る。
そういう事なら答えもしよう。
だが、我が氏族は海の民で、大いなる渇きの地には背を向けていた。
だから、この場所について知っている事は三つだけ。
もし、ここから真っ直ぐ、西北から西へ行けば、山並みにぶつかる。
ここと、そことの間には殆ど水がない。
もし、北東から北へ行けば、海辺の渡りに至る。
そこを通って、大海の北を進むと、かなたに広がる大いなる島へ達する。
大海は、水位が低い時は、道を獣達による群が、たくさん通るが。
水位が高い時は、二本足だけが通る。
一方、南西の南へ行くと。
また、別な山並みがあって、その間にある谷間を抜けて、むこう側へ渡れるかもしれない。
むこう側には、我等の祖先が言い伝える海の民がいるが、彼らと再会するつもりはない。
と言うわけで、我々の見る限り、目指すなら北だろう。
そこで、あくる朝、最初の光と共に全員が起き出し、西の少し北方を目指して歩いた。
水があればわ誰かが見つけられるよう。
平らな土地に広がって。
こうして、歩く一族は、ほとんど誰も失うことなくら大いなる渇きの地を超えた。
しかし、この旅では大きな学びがあった。
これほどの渇きを見たことがある者がほとんどいなかった。
そのため、水や食料をどれだけ使っても大丈夫か、誰ひとり知らなかったからである。
そして、一族は、これまで代々、帰ってきた物見達から学んだ全ての知識。
それを持ってしても、まだ十分ではなかったことを思い知った。
なぜなら、我らの古い生き方。
思いと学びを集中する由緒ある方法。
それらが、一瞬で掻き消えて、一族は、この新しい世界に裸で立ちつくしていたからだ。
そこで、我等の間に大きな決意が生まれた。
そして、次のような言葉を常々互いに掛け合う習わしができた。
いつしか、それが旅の歌となった。
目が覚めているあらゆる瞬間から学ぼう。
眠っている間さえ学ぼう。
学びながら、兄弟が歩くところを見守ろう。
彼が石ころだらけの険しい道を選んでも。
こうして、大いなる渇きを超えた一族は、ついに西の山並みに辿りつく。
そこで、小さな沢をみつけた。
一族は、盛んに話し合った。
その場所を離れるべき事はわかっていて、誰一人留まろうとする者はなかった。
その時、一人だけ男が強い啓示を授かり、草や花や流れ落ちる水を見た。
しかし、それが南だと言う事は分かったが、どれほど遠いかを言い当てはできなかった。
すると、多くの者が彼に続くと言った。
しかし、一人の女が口を開いて、こう言った。
私は、そのような啓示を見なかったけれど。
北から戻った、兄弟によれば、歩いた末に草があったという。
草が多ければ、水も多いと考えるのが道理。
ならば、私は目を北に向け、共に歩む者を募る。
それは、私は海辺の渡りを見て、それが今渡れるかどうかを確かめたいからだ。
彼方に広がる、大いなる島を見られたら、それに勝る喜びはない。
そこで、多くの者が彼女に同行すると申し出た。
結局、南は暖かく、北は寒いという理由で、三人のうち、二人は南を目指すことになった。
しかし、多くの者が海辺の渡りを見るに値すると考えた。
また、その向こうには新天地となり得る、大いなる島がある事と。
南に住む、海の民を恐れた事によって、三人に一人は、雪の冠と共に北を目指した。
そうして、彼女が持つ、知恵の道に従った。
⭐️ 女の名前であり、白髪という意味。
そして、その選択を悔いた者は少なかった。
なぜなら、彼等の道は厳しく、前進は困難だったが、最後には新しい道を見つけたからだ。
そう、我等は当時、北を目指した者たちの子。
我等は、海辺の渡りを、見る事を選んだ者たちが子。
我等は、古の知恵と共に歩み、彼女が語る物語に耳を傾ける事を選んだ者たちが子。
いざ、彼等の道を称える。
彼等の魂を称える。
彼等の知恵を称える。
彼等の道に従おうではないか。
彼等が、北東の北へ行くと、地平線に得体が知れない物が見えた。
よく見ると、それはがらんどうで、中には二本足が住んでいるらしかった。
一族は、これに目を丸くした。
それら、二本足は沢山の棒と毛皮を使って、カメが持つ、甲羅みたいに丸い住処を作っていた。
そうして、屋根の天辺には穴を開けてあったからだ。
そこで、一族は、草の間で暮らせば気持ちがいいだろうにと思う。
なぜ、この人たちは、それほど骨を折るんだろうかと首をかしげた。
ここの二本足と出会いたくなかった、一族は先へ進むことにした。
時には、酷く険悪な民が居たし、当時我が一族は力が衰えていたからである。
さて、大地の起伏をたくさん超えていくと奇妙な音が聞こえてきた。
なので、彼等は、それを大地の雷と呼んだ。
一族の中には、それを山を転げ落ちる、と勘違いして、大地に身を伏せる者もあった。
しかし、他の者は、それを四つ足が数多く近づく音だと言い、立ち上がって走りだした。
その時、二本足で歩く者が現れた。
最初に見えた時は、二本足だと思ったが、その下には大いなる獣がいた。
そして、その上にまたがった、二本足は険悪な民だった。
彼等が、威勢よく我らの中へ乗り付けると。
その獣によって、突き倒される者や、二本足が放つ拳で倒される者が出た。
彼等は、我等の僅かな食べ物を奪った。
彼等が、我等の理解できない乱暴な言葉を吐いた。
そして、自分達はそこを立ち去らなければ成らない事を悟った。
そして、我等は海辺の渡りへ向かっていく。
それから、北東の北へと進んだ。
そうして、多くの日々が歩く事に費やされた。
道は平たんで、沢山の小さな生き物が草の間を歩く。
また、食べられる実や根も大量にあった。
それ以上、高みにまたがる民も居なかったので、急ぐ必要はなかった。
一族は、再び元気を取り戻し、確りとした足取りで歩いた。
そして、毎晩。
皆で、雪の冠が歌う、古から伝わる歌に耳を傾けた。
⭐️ 長老各である白髪の老婆。
彼女の魂が、我等から去った後も、彼女が学んだ物が、一族に受け継がれるように。
彼女の方も、歌い疲れることがなかった。
その場に、居合わせた者たちは、後に語った。
あれは幸せな時代だった。
良き旅の時代。
“学びの時代”だったと。
そして、誰もがそれを喜びとした。
そうして、昼間が長くなり、一族は声をあわせて歌を歌った。
やはり、丸い毛皮で作られた、家に住むけれど。
自分たちの二本足で歩く、別な民にも出会った。
彼等は、険悪ではなく、分かち合いの心をもつ人々だった。
また、草地で安心して食べられる物について多くのことを教えてくれた。
この民は、幾つか花も食べた。
その間、我等は大いなる群をまったく目にしなかったが、それは不思議だった。
しかし、その民によれば、あの獣たちは北へ去った。
そして、世界が寒くなる時代になったら戻ってくるとのことだった。
どの道、我等に獣たちと出会いたい気持ちはなかった。
そこで、我等が海辺の渡りの事を尋ねると。
それは、更に東北の東にあると教えられた。
そこは、大地が水と水に挟まれて狭くなり、大海の中へ遥かかなたまで伸びている。
なので、見間違うことはないだろう、と言う。
そこで、我等は一年で一番長い日に立ち上がり、食べ物を持って、意気揚々と先へ進んだ。
そして、僅か月一巡りのうちに、大地が狭くなる場所に着いたのである。
我等は、そこで野営し、旅の計画を練った。
そうして、ついに一族はある高い丘の頂へ辿り着いて休み、全員で目前に続く道を見渡した。
一族は、やがて前進の支度を整えた。
目前にある道に間違いは無さそうだったし、彼らが立つ大きな島の端。
そこには、大海の最初である煌めきが見え始めていたからである。
雪の冠は、遥かな水面の明るい輝きに目を凝らした。
向こうを御覧、あれが我等の目的地だよ。
そして、もっと向こうには、我等が安住の地があるかもしれぬ。
立ち上がって、丘を下り、先の見通しがきかなくなる前にだ。
我等が道の何たるかについて、わが子であるお前たちに話しておこう。
我らは強い民であることが分かっただろう。
轟く大地と、天に達する海から逃れて、ここまで歩んだ。
我等は、知恵ある民であるのが分かっただろう。
さまざまな状況の変化に関わらず、生き延びる術をすばやく学ぶ。
我等は、耐え忍ぶ民であるのが分かっただろう。
大きな困難にめげず、選びし目的を目指し続けるのだ。
なおかつ、これも分かったはず。
彼女は、そう言って、宇宙にぐるりと自分の思いを表す輪を描いた。
すなわち、我等は幼い民で、十分学ぶ前に先生を失った。
それで、あれこれを決めるのに言い争ってばかりいる子供みたいだ。
ならば、今こそ節度ある話し合いにより知恵を求める民への道を、学ぼうではないか。
指導者を瞬く間に失いかねないことを、記憶にとどめようではないか。
一人では、不可能なことも、大勢なら可能になるかも知れないことを理解しようではないか。
そして、もし、こうした事が全て記憶からすり抜けたとしても、これだけは覚えておくがいい。
節度ある話し合いの知恵を求めること。
どんなに大勢でも、どんなに少数でも、どんなに年老いていても、どんなに若くとも。
節度ある話し合いの知恵を求めること。
一同の中で、最年少である者にさえ、座を与えて耳を傾けるがいい。
ただし、これを私が助言したからといって行うのもだが。
私を讃えて、行うのもまかりならぬ。
自らの内にある物を見抜いて実行せよ。
私が、このように語る事。
それは、自分の一族が記憶に留められる一族となることを願えばこそ。
ここでお前たちに言い残す。
他の民が我等と道を交える時だ。
他の民がしばし、我等と共に図す時、彼等にこう語らしむべし。
互いに耳を傾け、ともに話し合い、知恵への節度ある道を辿る民を、我らはこの目で見たと。
よいな。
そして、一族は胸を打たれた。
分かちあう民から教えられたとおり、海辺の渡りを見つける事は造作なかった。
それは、他のどこにある土地より、海に向かって遠く突き出していたからだ。
しかし、一族は躊躇った。
彼方に広がる、大いなる島へ喜び勇んで駆け込むつもりだったのが。
実際には、慎重な決定をしなければ成らなくなったのだ。
それは、海の水が岩に砕ける様が、まるで嵐みたいに思えたからである。
つい、最近、海の大山に襲われたばかりである一族としては。
水位が上がりつつある、海に囲まれている危なっかしい場所は怖く感じた。
しかも、海が小さな丘になって、押し寄せてくるのさえも見たくはなかった。
そうして、待つ間、一族は嵐や揺れ動く大地のこと。
滑りやすい足元や、岸を洗う波のことを語り始めた。
というのも、それまでに大勢物見が出て、もう何人かは戻ってきていた。
そうして、彼等は狭い岩場や押し寄せる波の話を報告していたからだ。
誰もが、大いなる寒さの到来が近いこと。
そして、それには必ず指の数と同じくらい沢山、嵐が道連れにやってくる事を知っていた。
波に洗われる岩場で、そんな嵐を迎えたいと思う者は、一人もいなかった。
さて、だれも知らない男が、目前にある海の道から、よろめきだした。
我等は、男から逞しい民の物語を聞き出した。
逞しい民は、海越えの道がすっかり波間に消えてしまう前にだ。
彼方に広がる、大いなる島へ渡ろうと決意したと言うのだ。
それというのも、道は年々、どんどん海に飲まれていたからだ。
この道を渡るには、多く日数がかかる。
また、腰を下ろしたり食べたりする場所も残り少なくなっていた。
男の一族は、事を急いだ。
大風により、打ち寄せる大波が人々を襲い、岩を動かして、多くの者が下敷きになった。
また、休みなく打ち付ける波に、身を隠す場所も奪われていった。
岩と岩が、ぶつかり合って、歯のように綱を噛みちぎる。
命綱を失った、人々は成す術なく逆巻く海に拐われたのだった。
一族は、話をしてくれた男が旅立ったあと、彼から学んだ事を全て、話し合う為に座り込んだ。
大きな悲しみに打ちひしがれた一族は、ゆっくりと一つの道を選んだ。
彼等は、一人の偉大な知恵を持つ女と共に道を辿り、多くを学んだ。
最後に目指した道の終点へ着いた時、そこから先へ進む事に失敗した民から物語を聞いた。
彼等は、そこで座り込み、今聞いた事全てを話し合い、どうしたら失敗を防げるか話し合った。
一族は、火を囲んで丸い輪を作り、それぞれが他の全員を注意深く見回した。
そして、彼等は今まで学んだ通り、前の者が話し終える事を静かに待つ。
そして、一人、また一人と意見を述べた。
沈黙の内に耳を傾けることが、各自が宿した知恵を包む。
そうして、最後には、一族の輪に含まれる、あらゆる知恵が語り尽くされるであろう。
そこで、一つの固い決意が生まれた。
二番目の故郷となる、島へ辿り着く事とは別な、もう一つある目的である。
彼等が、これまで身につけた節度ある話し合いの仕方を守り、より大きな理解の恩恵を受けられるように。
そして、また悲喜こもごも彼等が通る道が、知恵の優しい声によって和らげられるように。
というのも、彼等は一族を、こう思っていた。
大地に広がり、海に広がり、まだ見ぬ何千何万という支流に分かれていく、大いなる川。
そのような物と、見なしていたからだ。
そうして、明日に対する思いが彼等の胸に染み入り、二度と再び離れなくなった。
我等は、先に生きた者達から、このような知恵による贈り物を授かった。
我等の後に追い来る者達にも、同じ贈り物を捧げよう。
一族はこうした用意をしながら空と海を観察して、嵐の大きさや通過の回数を頭に入れた。
それにより、海辺の渡りを超えるためには。
嵐と嵐のごく、短い合間を狙わなければ成らないことが分かった。
そこで、彼等はより素早く渡るには、どのような決定を行ったらいいかと。
盛んに、この問題を話し合った。
すると最後にある者が言う。
海辺の山並みでは、我等は日光の下で旅した。
しかし、大いなる渇きの地では、太陽による光も熱にも頼らずに歩くことを学んだ。
おそらく、今度も我等の誇る忍耐力が役立つだろう。
昼間は、素早く夜はゆっくりと前進を続けることはできまいか。
そうすれば、足取りが早まり、島から島へ手探りする苦労を早く抜けられるに違いない。
しかし、一族のある者達はこう言った。
暗い時に平らな乾いた場所を歩くのと。
星の光だけを頼りに、波に洗われる足場を辿る事は話が違う。
最後に一族は、安全と速さの助けとして、明かりを携えていく事が良いという意見で一致した。
そこで、一族は明かりとなる棒を必要な数だけ作って、用意の仕上げをした。
三日間、暗い空が荒れ狂う海を覆った。
風は、それを妨げる、あらゆる者に、冷たく突き刺さるような雨を浴びせかけた。
一族は、この力に対して、互いを庇いあった。
そうして、かくなる上は目的意識によって温まるべしと、火を焚く事も見合わせた。
次の中つ火は、彼方に広がる大いなる島に着いてから焚こう。
前に進み出た男は、一族の間を歩いて、そう呼びかけた。
そして、ようやく見えた最初の日出に、喜びによる歓声が響き渡った。
誰か太陽が見える。
幼い歌声があがると、大勢が立ち上がって、この嬉しい光景を踊って祝った。
言葉を口にする者はなかった。
まるで、古来の舞いのごとく、一族はやがてあらゆる持ち物を携えて、寄り集まった。
こうして、目的にしたがって隊列を組んだ。
一族は、全員を端から端まで繋ぐ、大いなる縄を作った。
そうして、繋がれば強く、たぶん大海にも負けないはずだった。
さて、我々が行った渡り方は、次の通りだった。
先頭を行く、二人の強い男たち。
彼等は余分の綱を持ち、海に隔てられた場所にさしかかると。
二人の間に、綱を張り渡して橋を作る。
その後ろには、一族が続き、所々に人一倍強い者が挟まる。
そうして、一族全体が生き延びられるように力を尽くす。
万一綱が切れた時は、誰か手近で力が余った者が踏ん張り、切れた部分の代わりを務める。
知恵の娘は、人々が踏んだ跡に従い、それら足取りで後ろに続く者たちに道を示した。
そして、娘を守る一族も、自分達を大切な人の守り手と、わきまえた。
それに対して、彼女も自らを、一族の守り手と見なしていた。
こうして、これら全ての人々から後ろ。
つまり、あらゆる女たちの後。
あらゆる大男たちの後。
弱い者、強い者、年老いた者、幼い者。
そうした、さまざまな人々の殿を、前に進み出た男が務めた。
真の知恵が、しばしばそうするように、最後尾から一族を導いていたからだ。
こうして、先頭の二人と殿を務める男。
そして、中ほどを固める女。
彼等が、一族全体の保てる速さを定めながら。
一族全体で、物を見ることの大切さを互いに確かめあうように呼びかけた。
安全にしろ、危険にしろ、道のりについて声に出して伝えることを。
夜明けから夜明けまで、彼らは歩き通した。
そして、大地は再び狭まった。
いったんは寄り集まって歩けた者が、また一列縦隊の行進になった。
足場をみつけるのも保つのも、再び難しくなった。
それでも、一族はこれまでに出会い、そして生き抜いた大きな苦難の思い出に慰められながら。
そのまま、前進を続けた。
これから出会うどんな困難でも切り抜けられると信じて、前進を続けたのである。
さて、彼らが歩いたのは足に優しい柔らかな地面ではなく、固い岩場だった。
そして、ついに、長い旅路の終点と思える場所に出た。
というのも、そこから先は広い海が開けていたからだ。
内と外の強さと、知恵に導かれ、また支えられながらも。
休みなく打ち寄せる波と苔で滑りやすくなった岩にしがみついてでも。
互いに助け合い、目の前に一つ、また一つ、綱と空の狭間で、彼等に繋がれてでも。
そんな彼等による、力を目の当たりにした男だが。
波に拐われ、大海と一つになっても、相棒の力で引き戻され、再び前進に挑んでいた。
今まで通った、海峡は全て相棒に助けられた一人の男で泳ぎきれた。
だが、目前にある海峡は、潮による流れと綱の長さから、誰も対岸へ辿り着ける見込みはない。
また、どんなに屈強な男でも、一人だけでは泳ぎきれなかったのだ。
しかし、一族の諺通り、少数では不可能な事も、もっと大勢では可能になるかもしれない。
こうして一族は一人づつ、列をなして空中の道を進んだ。
一族の一体感を握りしめ、互いに助け合いながら、変わらぬ目的に結ばれて。
一族の中で、荷物を背負う力があった者は35人。
そこまで、力のない者が17人。
そのうち、3人はずっと人に運ばれなければならなかった。
海辺の渡りを超えた、人物達。
それは、その者達。
一つの大いなる島から、もう一つある大いなる島へと。
休みない前進によって、明日の可能性を運んだ人物達。
それは、その者達。
カメの島にある背中に、我等が通る道を切り開いた人物達。
それは、その者達だった。
海の道伝いに、彼等は、我等に明日の贈り物を与えてくれたワケである。
一族は、一心同体で、誰一人置き去りにしない事の大切さをかみしめていた。
そのように、一体となった一族が滑りやすい道を辿り、打ち寄せる大海を渡ったワケだ。
それを行った、者達が今、岩の島にある尾根に立って明日を見渡した。
そこでは、既に海辺の渡りは心に留められるべき歌と化していた。
つまり、困難な横断は過去の偉業となっていたワケだ。
それも、そこと、彼方に広がる、大島との間には、もう開けた海が無かったからだ。
彼らは岩を伝って進んだ。
時折波が打ち寄せはしたけれど。
一族は注意深く歩き続けた。
というのも、それ以上開けた海峡がないとは誰にも言えなかったからだ。
海が進退を繰り返すように、島々も形成と消滅を繰り返すことを誰もが知っていた。
そこで、誰もが一つの島を超えれば、さらに向こうには海峡が横たわっているかも知れない。
ーーと覚悟していた。
ところが、それ以上海峡はなかった。
道の両側へ、海は近づいたり遠退たりしたが、もう海峡は現れなかった。
そうして、一族が背の低い灌木に覆われた広い土地に辿りついた時だ。
それは、その先に待ち受けている者に備えて休息を取る。
そして、元気を回復するのに、ふさわしい場所に見えた。




