ナバホ族の神話
ナボハ族・創世神話
どの様な民族にも、独自の神話がある筈である。
神話は時には民話になり、逸話にもなる。
インディアンの世界にも様々な神話があるが。
中でも、ナバホ族 の創世神話は、長く、波乱に富んでいて面白い。
ナバホ族の生活では、様々な場面で神話が息づいているようである。
バウワウなどの祭り。
東西南北についての考え方。
家畜や食料 についての考え方。
家族についての考え方。
死についての考え方。
~~と、神話はナバホ全体の文化を支えているようである。
ナバホ創世神話は、四つの聖なる山に囲まれた世界内だけで完結している。
現在は、第五の世界となる。
キリスト教が拡張していく神話であるとすれば、ナバホ神話は完結し ている神話といえよう。
キリスト教の聖書が布教によって、世界に広がっていく事と比べると。
ナバホ神話は、彼等自身の為だけにあるモノだという考え方である。
ナボハ神話は、儀式の時に砂絵などによって表される。
また、メディスンマン による口承で伝えられてきたので原典という物はない。
その為、メディスンマン達によって解釈の違いが生じる事もある。
彼等自身は、話しを生き生きとさせる為に脚色を加えていった。
その為、ナバホ神話は、展開が多い、長編となっている。
世界の始まり。
遠い昔、まだ人が獣のような形をしていた頃。
その頃は、神はトウモロコシから 、最初の男と最初の女たちを創り給うた。
第一の世界。
第一世界は暗く、闇の中に最初の男女と創世者であり、ペテン師でもある、コヨーテがいた。
三つの者は、第一世界が狭くてくらいため、 第二世界へと脱出する事にした。
第二の世界。
第二の世界には、太陽と月と東西南北があった。
太陽と月は、未熟だったので、第二世界は、ボンヤリとした明るさだけがあった。
東は黒く、西は黄色く、南は青を、北は白さをもっていた。
時々、黒さが強まり、世界を闇にした。
また、時たま他の色彩が強まり、 世界を昼間にしていた。
太陽は、最初の女を好きになってしまい、言い寄った。
しかし、彼女は、受け入れず、太陽と争いになってしまった。
そこで、コヨーテ現われ、仲裁に入った。
東西南北も加わって、話し合った結果、結論が出た。
第二世界も狭いため、太陽と最初の女が離れて暮せる様に、第三世界へと上る事にした。
第三の世界。
第三世界には、四つある山と湖があり、人々は山の斜面にすんでいた。
まるで、地球の様に広く、美しい世界だった。
更に、第三世界は、ティーホルツォディと言う水の怪物が住んでいた。
人々は、ティーホルツォディを、そっとしておく様にと教えた。
しかし好奇心の強いコヨーテは、一人で湖に散歩に出掛けた。
そして、ティーホルツォディの子供を二人も見つけると、毛布にくるんで連れて帰ってしまった。
ティーホルツォディは、我が子がいなくなった事に気付くと激怒した。
私の大切な子供をさらったのは、誰だ。
ーーと地響きを立てて探し始めた。
しかし、見つからないので、ティーホルツォディは、考えた。
最近、この世界に入ってきた者たちが怪しい。
そう考えた、ティーホルツォディは世界を水でいっぱいにして、しまおうと考えた。
みるみるうちに第三の世界は、沈んでいった。
慌てた、最初の男女やコヨーテたち、さらに人間たち。
彼等は、 会議を開き、三つある山を、一つだけあった山の上に積み重ねる事にした。
それでも、沈んでしまいそうになると、今度は山頂に、葦の種を植えた。
すると葦は、グングンと成長していき第四の世界まで伸びていった。
第三の世界に住む全ての者は急いで葦の幹の中を登った。
その時最後に登ったのが七面鳥だった。
七面鳥は、水で尾が濡れた時には けたましく鳴く事になっていた。
以来、七面鳥の尾は洪水時水に濡れた、水位線が美しく残っているという。
第四の世界。
第四世界には、大きな霞んだ光が三つあった。
第三の世界に似ていたが、より広大で、平原の中央には、大きな川さえ流れていた。
川よりも北には、人々が住み、南には動物の様な物が住んでいた。
この世界は時間の流れがとても速くて、一日に一年も流れていく世界だった。
北に住む男女は、仲良く暮していたが幾歳月が流れた頃に、言い争いが起こった。
女は、男に対して、文句を言います。
自分達はいつも火を灯したり綿を採ったり畑の植物を栽培したり、陶器を 造ったりしている。
しかも女は子供を産まなければならない。
これは不公平だ。
これに対して、男も反論します。
女は、男が狩りをするから肉が食べられるのだ。
男が家を建てるから住めるのだ。
畑だって、力を入れて耕すのは男ではないか。
それに、神様とやりとりする為の踊りや対話も男がやっているんだ。
ーーと反論した。
すると女達は怒りだします。
さらに、そんな事を言う男達とは一緒に住めないと言って、川を渡って行ってしまった。
男女は、いがみ合い、恋をし合いながら、四年の歳月が流れた。
その間に、女だけが住む世界は農作物を作っても収穫が減った。
それに、女だけで畑を耕し、種を撒く作業を楽しくないと思い始めた。
男だけが住む世界では、農作物の収穫が増え、狩りでも仕留めた獲物による肉も余るほど蓄えた。
しかし、男だけで畑を耕すのは面白くなかった。
女は、知らず知らずの内に川を渡っていた。
それは、男と女が互いの足らない部分を補っていかないといけないと気付く瞬間であった。
男女が、それぞれの役割を果たす事によって世界には平和が再び訪れた。
しかし、人々は新たな禍に巻き込まれる事になった。
コヨーテが第四の世界にまでティーホルツォディーの子供を連れてきてしまった事である。
第三世界を、すっかり水で満たしてしまった、ティーホルツォディー。
彼は、第四の世界までも水に 沈めてしまおうとしていた。
そして、ある日、突然地下から水が噴き出して人々は洪水に 襲われ流されてしまった。
第四世界に住む全ての者は、皆で強力して平原に四つある山を積み重ねて葦を植えた。
すると、葦は瞬く間に成長して雲を突き抜けて伸びていった。
葦は、やがて第五世界の底にあたり、そこで止まった。
そこで、アナグマに穴を掘らせたが、彼は泥の湖底に出てしまう事に気が付いた。
アナグマは途方に暮れ、その間にも第四世界は水に沈んでいく。
その水は 葦の幹にまで入っていった。
狭い幹の中は押し合いへし合いで大混乱となった。
その時、バッタだけが第五世界に吸い込まれ、湖より上に飛び出した。
バッタが辺りを見回すと白鳥が数羽いた。
白鳥はバッタに言った。
もしも、この世界に入りたいのであれば、私がやる事と同じ事をやってみせろ。
そう言うと、白鳥は一本の矢を口から入れ肛門から出した。
それを見たバッタは、絶対に出来ないと思い考えを巡らせた。
そして思い付いた。
僕にはもっと凄い事が出来る。
と、言うと、一本だけ矢を自分の腹に刺し貫いた。
これを見た白鳥達は驚いた。
こんな凄い事が出来るのであれば、この第五世界に 入る事を許可してやろう。
ーーと言った。
バッタの腹にあたる部分は、実は大切な体内器官ではなかったワケである。
白鳥達は、それを知らすバッタに不思議な力があると思い込んでしまったのである。
こうして、第五の世界に入る事が出来た。
しかし、全ての者が、ようやく地上に上がった時、陸地に角が現れた。
ティーホルツォディーの角であった。
そして、第五世界もどんどん水没していった。
恐れた人々は、それぞれ些細な罪の意識から自分が第五世界に持ち込んだ物を見せ合った。
そこで、コヨーテがティーホルツォディーの子供を二人も連れている事が発覚した。
皆は、コヨーテから毛布ごと奪うと、ティーホルツォディーになげ返してやった。
すると、水は退いていき、ティーホルツォディーは、自分が元にいた世界に戻っていった。
第五の世界。
第五世界は、初めは暗闇だった。
だが、東に住む闇の神に祈ると、大きなナイフで闇を裂き光を与えてくれた。
すると、水はたちどころに退いていった。
だが、大地は、まだまだぬかるんでいた。
そこで、今度は東西南北の風に祈った。
すると四日間強風が吹き、大地を乾かした。
大地は、まだ形成されていなかった為、人々は土を練って積上げ、また四つの山を作った。
やがてら大地が広がっていくにつれて、山は大きくなり、それが四隅となって境界が現れた。
次に人々は太陽と月を空に太陽と月を放り投げた。
太陽は最初は低すぎ、大地を焼いてしまったが、徐々に昇っていき、五日目に天頂に落ち着いた。
しかし、太陽は動かず、大地を干上がらせてしまいつつある。
太陽を動かすには、生け贄が必要だと感じた大酋長の妻は、叫んだ。
私が人身御供のなるから、部族を助けて欲しい。
そして、自らが生け贄となった。
大酋長の妻の呼吸と心臓の音は次第に弱まっていき、やがて息を引き取った。
そこで初めて、皆、死という概念を理解した。
そして、死と引き換えに太陽は規則正しく順行していくが。
この世で毎日誰かが死ななくては、 いけないという運命を理解した人々は、恐れた。
死を恐れる人々の為に、賢者は大酋長の妻がどこに行ってしまったか探しに行った。
そして、第五世界に脱出してきた時の入り口を覗き込むと。
死んだ大酋長の妻は、第四世界で暮していた。
それを見た賢者は、皆に知らせようとしたが、段々と弱っていき、ある夜死んでしまった。
コヨーテは、ナバホの人々に告げた。
毎日、誰かが死ななくてはいけない。
だが、それは、ナバホの者である必要はない。
他に、ナバホでは死者の顔を見つめると、自分にもすぐに死が訪れる。
ーーという迷信が生まれて、死者の顔を布で覆い隠して、埋葬する習慣が生まれた。
第五世界が、死を代償する事によって、昼夜が順行する世界だと知った時からだが。
人々は、 部族に分かれ、それぞれの場所で別々な生き方で暮すようになった。
山の住人になった種族。
平原の住人になった種族。
ーーと言った者達もいたが、ナバホは四つの峰に囲まれた山が一つある中央に残った。
そこには、火口があったが、彼等はそれを脱出の地だと崇めて近づかなかったと言われている。
ただし、最初の男女とコヨーテは、別だった。
彼等は空が美しくないと思っていた。
それで、火口付近まで行って、輝く石を探し、夜空の四隅にそれを置いた。
輝く石は星になった。
彼等は、更にその周りに星を散りばめた。
しかし、コヨーテが輝く石の屑を夜空にばら撒いてしまった為にだ。
星の配置は、不規則になり、 あちらこちらでバラバラに輝く様になってしまった。
更に彼等は、満月だけでは面白くないと思い、半月や三日月など。
色々な形の月を、夜毎に空に放った。
月が増えた為、一年はこれまでより長くなった。
そして、これによって世界に時間という概念が生まれた。
ある日、空から雪が降ってきた。
雪は、冷たくなく、パンの様な味がした。
しかし、コヨーテは、喉が渇いていた為、雪を火に掛けて溶かしてしまった。
溶けた雪は水になり、コヨーテはそれを飲んで満足していたが、最初の女は怒った。
どうして、水なんかにしてしまったのか。
この問に対して、コヨーテは、答えた。
雪は冬の間に山々に積もり春になると溶けて流れ出す。
そして大地に恵みを与える。
水は、トウモロコシや豆などの食料を育ててくれる。
最初の女は、コヨーテの答えに理解した。
そして、その後。
コヨーテは、沢山の種を人々に分け与えて、彼等による暮らしは安定した。
双生児の怪物退治。
第五の世界で人々は、幸せに暮していたが、慢心していた。
幸せな生活は、全て自分達で築き上げたのだと主張し始めたのであった。
最初の男と最初の女は、それに立腹し、人々を懲らしめる為に人間を食べる怪物を創造した。
巨人イェーツ。
人食いカモシカのデルゲット。
人食い鷲。
人を崖から蹴飛ばす怪物。
目から光線を放つ怪物。
ーー等々を次々と誕生させた。
怪物達は、大暴れして人々を苦しめた。
それを見ていた、最初の女は次第に心痛した。
そこで、最初の女は出掛け、北西の山に寝ている少女を発見して、家に連れ帰り育て始めた。
少女の名はエスタナトレーヒと言い、四日間で人々の自由を守る者として成長して大人になった。
双生児の誕生。
ある日、エスタナトレーヒは、森の中で美しい男性と出逢い、楽しい時を満喫していた。
その男性が、太陽である事を後で知った。
彼女は森の中にある小屋で四日間、太陽と仲良く暮した。
しかし、太陽は去っていき、その四日後エスタナトレーヒは、双生児を産んだ。
兄の名前はナヘナッツアーニ、弟の名前はトバデスチンと名付けた。
兄弟は四日間で大人となり、更に四日後は父親を探そうと思い立ち五日目に旅立った。
二人は、太陽の家が東にあるツォツィル山から向こうに住んでいる事を突き止め訪ねた。
太陽は外出中であった。
そこには、太陽の正妻に生まれた、兄弟が二人も居た。
訪ねてきた、二人を見るや否や、正妻が生んだ兄弟は、不義の兄弟であると認識した。
二人をすぐさま毛布に包んで棚に隠した。
そこへ太陽が帰って来た。
太陽は認めざる二人の子供が訪ねてきた事を知り棚から二人 を引きずり出し、二人を天空まで連れて行き四つの峰に順に落としていった。
しかし、二人は生きていた。
試練に耐えた、二人に太陽は贈り物を与えようと言った。
そして、東西南北のドアがある所まで連れて行かれた。
東のドアを開けると馬の群れがいた。
西のドアを開けると、貝殻やトルコ石などの宝石が散りばめられていた。
南のドアを開けると、美しい着物や布がある。
北のドアを開けると、狩人達が求める動物達がいた。
太陽は、どれでも好きなモノを選べと言ったが、二人はどれも欲しくないと答えた。
人々が怪物に襲われて苦しんでいます。
私達は怪物を倒せる武器が欲しいのです。
二人が答えると、太陽は心身ともに立派な二人を息子と認める事にした。
そして、ナイフと雷の矢、鉄鉱石で飾られた鎧を与えた。
更に、黒と赤である風の精霊が宿る玉が入った袋をお守りとして与えた。
巨人イエーツォ退治。
その時、巨人イエーツォが暴れている事が見えた。
それで、二人はこの怪物から退治する事に決めた。
二人はイエーツォがいつも水を飲み干すというツォツィル山の泉まで行き待ち伏せした。
そして、暫くするとイエーツォが戻ってきた。
二人の姿にき気付くと、イエーツォは凄まじい形相で襲いかかってきた。
イエーツォは、雷の矢を二人に放った。
しかし、二人は素早くそれを躱しナイフで攻撃を 仕掛けた。
だが、イエーツォの鎧は硬く歯が立たない。
二人は苦戦を強いられた。
その時、イエーツォが落雷に撃たれた。
それは、二人の父である太陽が天空から見舞った一撃であった。
更に、太陽は強風を吹き付け、イエーツォの鎧を消し去った。
このチャンスを利用して、二人はイエーツォに斬りかかり、ナイフで頭を切り倒した。
地に落ちた頭は巨大な赤い岩となり、頭を失ったイエーツォはゆっくりと倒れ、絶命した。
首の斬り口からは、大量に血が溢れ出した勢いで深い谷が出来た。
人食いカモ鹿・デルゲット退治
イエーツォ退治に成功した、二人は一度母親エスタナトレーヒの元に帰った。
そして、次に人食いカモ鹿 デルゲットを退治する事を告げた。
しかし、怪物に矢を向けた今、母親の身も案じられ、弟であるトバデスチンは一緒に残る事にした。
兄のナヘナッツァーニは、一人で旅に出た。
人食いカモ鹿デルゲットは、見通しのいい平原に住んでいる。
それ故、敵の動きを察知する能力が鋭く、ナハナッツァーニは容易に近づく事が出来なかった。
その時、地面に穴を掘って移動する、動物グラウンド・ラットと言う、げっ歯類がアドバイスした。
地面の中なら気付かれないよ。
これにヒントを得た、ナヘナッツァーニは、早速自分の足元から穴を掘った。
そうして、、デルゲットの真下まで来ると、そこから更に、放射状に地下道を作っていった。
そして、デルゲットの真下から顔を出すと心臓めがけて、一撃だけ矢を放った。
デルゲットは、絶叫しようとも、倒れはしなかった。
手負いとなった、デルゲットは目蔵滅法に角を地中に突き刺し始めたが。
地中にいる、ナハ ナッツァーニは、それをことごとく躱す。
そして、時々地上に顔を出すと、デルゲットに矢を放つ、ヒット&アウェイ攻撃を繰り返していた。
そして、最後に彼が渾身の力を込めて、放った矢はデルゲットに見事に当たり、心臓を刺し貫いた。
デルゲットは、断末魔の絶叫をあげると大地に崩れ落ちた。
そして、デルゲットの腹から腸を引きずり出すと空高く挙げて、勝利したと雄叫びをあげた。
人食い鷲退治。
勢いを得た、ナヘナッツァーニは、次は人食い鷲に挑む事にした。
人食い鷲は、険しい山の上に巣をつくっていた。
人食い鷲は、番で、凶暴であった。
雄鷲は、人間の男を。
雌鷲は、人間の女を。
それぞれ捕まえると、嘴で咥え、空高く舞い上がり、上空から落下させて殺し、雛達に与えていた。
彼等が近づいてくると、雷鳴や豪雨が轟いたと言う。
地上にいて、彼等と闘うのは不利と判断した、ナヘナッツァーニ。
彼は、一計を案じ、デルゲットの腸袋に動物から取った血を詰めた。
さらに、それを体に巻き付けて、人食い鷲に咥えられるのを待った。
案の定、血から漂う匂いを嗅ぎ付けて、雄鷲が現れて彼を咥え上空に舞い上がり地面に叩き付けた。
一面に血が飛び散り雄の鷲は、餌を殺した気になったが。
その血は、腸袋に 詰めておいた物だった為、ナヘナッツァーニは生きていた。
腸袋が地面に叩き付けられた衝撃から守ったのである。
そうとは、知らない雄の鷲はナヘナッツァーニを咥え、雛が待つ巣に、餌として彼を投げ 込んだ。
そして、巣の中で、ナヘナッツァーニは、雛達に突つかれながらも耐えた。
こうして、なんとか、雛達を手なづける事に成功して、親鳥達が帰ってくるのを隠れて待っていた。
やがて、突如、空が暗くなったかと思うと、雷鳴が轟き、雨が降り出し、豪雨となった。
人食い鷲が帰ってくる前兆である。
ナヘナッツァーニが息を潜めて巣に隠れていると、血まみれの男女が投げ込まれた。
鷲達が、番で帰って来たということだ。
そして、雷の矢を立て続けに討ち放ち、二羽とも人食い鷲を退治する事に成功した。
ナヘナッツァーニは、遺された雛達を、殺すべきか、生かすべきか。
かなり悩んだが、結局、空に放してやった。
雛達は、すぐに成鳥となった。
だが、人食い鷲ではなくて、現在は大空を飛ぶ、猛禽類達たちの先祖となったと言う。
巣の下を見ると、とてつもなく高い絶壁となっていて、ナヘナッツァーニは、途方にくれた。
翼がないと、とても降りられそうにない状態だったからである。
すると、遥か下をコウモリ女が旋回しているのが見えた。
ナヘナッツァーニは、叫んだ。
助けてくれ!!ここから降ろしてくれ。
何度か叫び、ようやくコウモリ女が、彼に気付き、答えた。
助けて欲しいなら、後ろ向きに立っていなさい。
私が飛ぶ姿を見てはいけません。
見えないでしょうけど、私は背中に篭を背負っているから、その中に入りなさい。
そして、私が飛ぶ姿を決して見てはいけません。
ナヘナッツァーニは、言われた通りにした。
すると、体が急降下してそれから不意に緩やかな降下に変わった。
不思議に思った、ナヘナッツァーニが一瞬、目を開けると。
再び急降下して、上から毛布がかけられた。
視界が遮断されると、再び緩やかな降下に変わり、やがて地上に着いた。
ナヘナッツァーニは、地上に落ちて死んでいる人食い鷲から羽を引き抜くと。
自分の翼として使う事にした。
コウモリ女にも、羽をプレゼントした。
コウモリ女は、狂喜した。
ナヘナッツァーニは、コウモリ女に忠告した。
羽を持って、黄色い花の咲く野原を横切ってはいけない、と。
しかし、コウモリ女は、目の前に咲き乱れる黄色い花に誘われて、野原に踏み込んでしまった。
すると、彼女の背中にある篭から小鳥が囀ずる歌声が聞こえてきた。
羽は歌を歌う小鳥達になってしまったのである。
しかし、コウモリ女は、これをむしろ喜び、小鳥達を世界に放ってやった。
人食い鬼退治。
帰ると、弟は耕作をして暮していた。
しかしナヘナッツァーニには、まだやらなければいけないことがあった。
次の相手は、山に住む人食い鬼だった。
人食い鬼は卑怯だった。
岩と同化するように山道に隠れ、人が通ると崖から蹴り落として殺し、死肉を食らっていた。
人食い鬼の髪は長く岩中に根を生やすように、絡み付いていた。
その為、自らが誤って落ちる事はなかった。
ナヘナッツァーニは、翼を使って宙に舞い、魔法の杖で攻撃した。
素早い動きで、鬼の背後に廻り蹴りつける。
その攻撃に鬼がムキになると、ナヘナッツァーニは、鬼の髪を、切っておき、また背後から蹴った。
髪を切られた事に気付かず、自分は落ちないでいたつもりの鬼は、 絶叫しながら転落して死んだ。
鬼には、妻子がいたが、既に腐肉を食べる鳥に変化していた。
ナヘナッツァーニが見た時は丁度、 人食い鬼の死肉を刻んで食らっているところだった。
電光怪物退治。
最後に残った強敵、目から怪光線を放つ怪物を退治する為に、ナヘナッツァーニは再び旅に出た。
電光怪物は光り輝く宮殿に住み、そこに人々を誘い入れては目から電光を放って殺していた。
そこで、ナヘナッツァーニは、塩を掌にしっかりと握り、人々に混じって宮殿に入っていった。
怪物が現れナヘナッツァーニに攻撃を仕掛けたが、効果は、無かった。
ナヘナッツァーニは、太陽の子だったから、もっと強い電光に守られていたからである。
電光怪物は、四度電光を放ち、その度に目が飛び出してきた。
そこで、ナヘナッツァーニは、塩を怪物に投げつけた。
すると、塩は黄色い炎を揚げて炸裂し、怪物の目を焼いた。
無力になった怪物に止めをさすと、ナイフで怪物の頭皮を剥ぎ取った。
そして、それを持ち帰ると、怪物達に対する勝利のダンスを踊ったという。
最後の踊りと太陽の未練。
巨人イエーツォの子孫が、まだ生き残っていた事である。
彼等は、人々に危害を加えるようになっていた。
そこで、兄弟は聖なる地に向かいました。
そして、以前、太陽から貰った、黒と赤い風である精霊が宿る玉を、大樹の根に置いた。
それから、呪いの唄を唄いながら踊ると凄まじい風が吹いて竜巻が起こり 大樹を天空に舞い上げた。
大樹は、イエーツォの住む山まで飛んで凄まじい勢いで落下し、子孫は死に絶えた。
こうして、怪物退治は完遂した。
太陽は、二人の息子達による活躍を喜んだ。
しかし、心中は違っていた。
誇りにする、二人息子の母親である、エスタナトレーヒから生じたからである。
そこで、太陽は西に、エスタナトレーヒの宮殿。
東に、エスタネトレーヒの両親である、最初の女と最初の男たちが住む為である宮殿を建てた。
これによって、太陽が夕陽となって、大地に帰る時にだ。
いつも美しい、エスタナトレーヒの姿を見れるようになったという。
しかし、太陽にはもう一つ思う所があった。
エスタナトレーヒの母である、最初の女に、まだ未熟だった頃に言い寄った事があった事である。
しかし、愛する女の母親に欲望を抱く事は恥ずべき事であると考え、さっと通過するようになった。
ナバホ族の産み直し。
世界に静寂が戻った。
しかし、ナヘナッツァーニとトバデスチンは、地上に人間がいなくなった事に気付いた。
太陽に相談すると、お前達の母エスタナトレーヒなら解決方法を知っている筈だと答えた。
二人が、エスタナトレーヒに相談すると彼女は二つの篭を用意した。
右の篭には白いトウモロコシをひいた粉を入れた。
それから、右の乳房を振ると、乳が飛び散ってそこにかかった。
左の篭中には、黄色いトウモロコシ粉を入れた。
それから、左の乳房を振ると、飛び散った乳がそこにかかった。
そして、エスタナトレーヒは、右の篭中にある物を捏ね上げて男を形造った。
さらに、 左の篭中にある物を捏ね上げて、女を形造りました。
こうして、二体を毛布に包んで一晩寝かせた。
すると人間の男と女になっていた。
こうして、新しく生まれた人間達は、四日後に子供をつくれるようになった。
更に、彼等は四日ごとに子供をつくったので、新しい人間はどんどん増えていった。
しかし、新しい人間は昔の人間とは違って罪を犯したら自分を罰するようになった。
その時から、人間は無秩序に増えなくなった。
新しい人間達は、大地の四隅にそれぞれ家を建てて暮し始めた。
これが、ナバホ族の始まりである。
エスタナトレーヒは、後に、西の家に向かい、途中でも新しい人間を作った。
それらも、ナバホ族の祖先となった。
エスタナトレーヒは、彼等に対して、クマ、ヤマネコ、ピューマ、ハリネズミなどを送った。
こうして、彼等が生きるために必要な生活の糧とし、また護った。
ナヘナッツァーニとトバデスチン達は、二つ川が合流する所の近くにある洞窟に住むようになった。
だが、人間達には彼等の姿は、見えず、時々水面に映る姿が見えるだけであった。
エスタナトレーヒは、日没の女神となって西の家に住み、自然を司る存在となった。
人間達の為に、季節を創り、丘や大地から採れる植物を与えた。
空と東の間に住む、最初の女と最初の男たち。
二人は、いつしかエスタナトレーヒを妬む様になっていった。
そして、人間達に戦いや病気を送り、最後には白人を差し向けたという。




