ウガリット神話 天空神アヌと大地の女神キ エンキ&ニンフルサグ達による、人類の創造 エンリルとニンリル 三つの怪物が住む、ハルブの木 ズー鳥の反逆と天命の書版 賢人アダパの失敗
《1》 天空神アヌと大地の女神キ。
《2》 エンキ&ニンフルサグ達による、人類の創造。
《3》 エンリルとニンリル。
《4》 三つの怪物が住む、ハルブの木。
《5》 ズー鳥の反逆と天命の書版。
《6》 賢人アダパの失敗。
メソポタミアと呼ばれる地域には、何代にも渡って広域に幾つもの文明が栄えました。
ウガリット神話と書いてますが、単体だと欠落した話が多々ありますので、シュメールやバビロニアを含めて語ります。
《1》 天空神アヌと大地の女神キ。
アヌはメソポタミア神話における天空の神。
創造神でもあり、最高神である存在で、シュメールではアンと呼ばれた。
メソポタミア神話における天空や星の神。
創造神でもあり、最高神である存在。
ウルクの都市神でもあると言われている。
父に前世代、天空の神アンシャル。
母に前世代、大地の女神キシャル。
ーーを、それぞれ持つ。
配偶神は大地の女神キ。
彼女との間に多くの神を生み出した。
彼らを総称して、アヌンナキと言う。
後世になるとアヌはエンリルらに取って代わられたが。
それでも、彼がメソポタミアの最高神である事に変わりはなかった。
彼の聖地では、人工的に造られた丘の上に、神殿が立てられていた。
アヌには、罪を犯したものを裁く力があり、星は神の兵士として創造されたと信じられている。
アヌは、しばしば玉座に座り、王杓や司令官が持つ、杖を手にして、王冠を被った男性としての姿だが。
ジャッカルの姿でも描かれる。
雄牛の角を持つ王冠は、アヌを表している。
アヌンナキ達による会議には必ず出席し、議長や判事のような役割を務める。
《2》 エンキ&ニンフルサグ達による、人類の創造。
女神ニンフルサグとエンキの後裔たち。
エンキは、理想的な神ではなかった。
水の神にしてはビール好きであり、繁殖・豊穣の神にもかかわらず、近親相姦を行った。
伝説によれば、エンキは配偶者ニンフルサグとの間に、植物を司る女神ニンサルと言う娘があった。
だが、ニンフルサグの不在の間、ニンサルと関係を持ち、農耕・牧畜を司る、女神ニンクルラと言う娘をもうけた。
さらに、彼はそのニンクルラとも関係を持ち、機織り・もしくは蜘蛛を司る、女神ウットゥをもうけた。
そして、エンキは女神ウットゥと関係を持った。
しかし、エンキは、ニンサル・ニンクルラに対してしたのと同様に、しばらくするとウットゥのもとを去ってしまう。
困惑した、女神ウットゥは、戻ってきた女神ニンフルサグにそのことを相談した。
ニンフルサグは、エンキの見境のない欲求に憤り、ウットゥに対して、水神エンキの勢力のおよばないよう、川の水辺から逃れるよう言った。
そして、ニンフルサグは、ウットゥの子宮からエンキの精を取り出して土に埋めた。
すると、そこから8種類の植物が芽を出し、みるみると成長した。
エンキは、僕である双面のイシムードとともに、それらの植物を探し出すと、その実を食べてしまった。
自らの精を取り込んでしまった彼は、あご・歯・口・のど・四肢・肋骨に腫れ物ができた。
エンキは途方にくれていたところ、ニンフルサグの聖なる狐がウットゥを連れ戻してきた。
ニンフルサグの心は和らぎ、エンキの体からアブ・・・水、または精を取り出し、ウットゥの体に戻した。
ウットゥからは8つの神
アブー。
ニントゥルラ。 (ニントゥル)。
ニンストゥ。
ニンカシ。
ナンシェ。
エンシャグ。 (エンシャガグ)。
ダジムア。
ニンティ。
~~が生まれ、エンキの体の各部にあった腫れ物は癒された。
このように、上記の神話物語は総じて。
土である女神ニンフルサグに対して、水であるエンキ神が加わることによって、生命が産み出されると。
また、生命が生み出され育った後も、例えば植物が果実を形成する時など。
再び水が必要とされるということを、象徴的に示している。
さて、8神の内シュメール語で、あばら骨を意味する、Ribから出た女神ニンティですが。
彼女は、ニンフルサグの称号である、生命《Life》の女神と、語感上の関連性がある。
ニンティが生命の女神である役割を、ニンフルサグから引き継いだことが考えられる。
ニンティは、その後、すべての生命の母として称えられるようになった。
それは、後世のフルリ人の女神ケバ(Kheba:ヘバート(Hebat)、ケパート(Khepat)ともいう)も同様である。
また、旧約聖書の創世記において、アダムのあばら骨から作られたとされる、イヴ。
ヘブライ人の神話ではハッワー、(Chavvah)。
アラム人の神話ではハウワー、(Hawwah)。
~~等も、同じ呼び方であり、上記シュメール神話が転じたと考えられる。
《3》 エンリルとニンリル。
エンリルとニンリル
この物語は言うなれば、成人向け神話である。
古バビロニア時代及び、中期バビロニア時代から新アッシリア帝国時代。
紀元前2千年紀ーー紀元前609年に、シュメール語で書かれた写本から復元された。
全文は、154行ほどと短めで、内容はほぼ分かり切っている。
エンリルが若者であった頃、とあるニップル市内。
処女ニンリル女神は、母親ヌンバルシェグヌから言われます。
「エンリルの目に止まっては困るので、ヌンビルドゥの河へ行ってはいけない………外で水浴びをしてもいけない」
ーーと、言う忠告をくどいほど受けた。
しかし、ニンリルは言いつけを破り、聖なる河で水遊びをした。
また、ヌンビルドゥ運河の土手を歩いてしまったために、エンリルに目を付けられる。
エンリルは、ニンリルを口説くと、彼女は頑是ない態度で、あられもないことを口走った。
エンリルは、彼の従神ヌスクが用意した船上で、思いを遂げんとばかりに、ニンリルを強姦。
このたった1回だけしてしまった行為で、ニンリルはシンを受胎してしまう。
エンリルは、神々の指導者であるにもかかわらず、強姦による罪に問われた。
50柱の神々。
運命を決する7柱の神々。
ーー等々によって逮捕・天界を追放され、冥界へ落とされた。
あろう事か、この時、被害者であるニンリルは、エンリルを追い自ら冥界へ旅立ったと言う。
一方で、エンリルは、冥界の門番に、こう言います。
「もし、ニンリルが訪ねて来ても、私の居場所を教えてはならぬ」
ーーと、釘を指していた。
更に、エンリルは正体を隠すため門番に姿を変えた。
そして、後を追ってきた、ニンリルから。
「エンリルは何処かしら」
ーーと伺いを受けても門番のふりをして問いに応じずにいた。
ニンリルが。
「私の子宮には、輝く種、子宝がいるのです……」
ーーと、訴えると。
門番のふりをした、エンリルは。
「その子は月神、天まで上がっていくでしょう……天へ行くエンリルの子の代わりに、私の子をキ=シュメール語で言う地……へ行かせましょう」
ーーと、巧みに、ニンリルを誘い、門番のふりをしたエンリルですが。
彼は、再びニンリルと交わる。
こうして、シンの代わりに、キへ赴く、ネルガル、(メスラムタエア)、を受胎させた。
この後、同じことが2度繰り返される。
1回は冥界を流れる、人食い河の人に化けて、ニンアズを。
もう1回は、人食い河を導く、渡し船の人に化けて、エンビルルを。
エンリルは、それぞれ違う場所で任意の者に姿を変えて、ニンリルを惑わし、2神を孕ませた。
奇妙な事に、物語の流れはこれを以って終了し、最後はエンリルを延々と讃える叙述で結ばれる。
考察。
当神話に劇的な展開はなく、ニップルを高所から俯瞰しているであろう作者による市内の景観描写から始まり、2人の若い男女神の交合、結びのエンリル讃歌と、ごく単純な構成で仕上げられている。
物語を読み解く上で重要なのは、エンリルがおそらく最高権力者というよりはまだ「若者」であったことと、嵐や風を司るエンリルの「属性」にあると考えられる。
思慮分別に欠ける若年時代である上に宿す神格が破壊的効力であるならば、既に母親とさえ交わった経験のあるエンリルが年若い女神を1人犯すくらいのことはあって不思議ではない。
ただしギリシャ神話に登場するゼウスのように、何人もの女神と関係を持ち腹違いの子どもを多産させるほど非道下劣というわけでもなかった。
誘惑の理由
冥界へ下りた者が再び地上へ戻るための対価として身代わりを用意しなければならない。
ーーというルールに倣い、一計を案じたエンリルは自身とニンリル・シンの3人に代わる犠牲を用意する必要があった。
これは、作中の言葉キを地ではなく、冥界、あるいは下方と訳すと自然である。
冥界に置き去りにされた、三人の子供たち。
ネルガル、(メスラムタエア)
ニンアズ。
エンビルル。
彼等は、兄シンのように天界に名を馳せる神ではなく、冥界神になる事を余儀なくされてしまった。
ーーと言う訳なのであるが、エンリルだけは天界への復帰を果たした。
不可解な点
作中で、やはり不思議な点は、物語におけるヒロインである風神ニンリルの心理と行動であろう。
処女であった、ニンリルは母親の心配をよそに気ままに出掛けた。
また、エンリルに口説かれた際には。
「私のヴァギナは妊娠を知らないし、唇はキスを知らない」
ーーと言う、あられもない対応をした。
年頃の少女として、性に興味があったかも知れないが。
現代裁判ならば、和姦とさえ捉えられてしまう可能性が無きにしも非ずである。
ところが。
シュメール社会においては和姦か否かに関わらず、正式な段取りを踏まずに処女を手籠にする。
この事は決して許される事ではない。
従って、エンリルの犯した罪は重かったために、厳重に処罰されなければならなかった。
これは、当時の神々による世界だけでなく、人間社会にも通ずる価値観である。
ウル・ナンム法典の第6条でも、こう書かれている。
「床入り前の女性を暴力に及んで犯したらば、その男性は殺されるべきである」
ーーとの旨が刻まれている。
そして、本来憎んで当然であるはずのエンリルをなぜ追ったか。
子を授かった事で恋しく思ったのだとしたらだ。
契りを結んだ本人ではない、初対面であるはずの三人。
門番。
河の人。
船の人。
~~達のふりをした、エンリルとも交わることに説明がつかない。
この辺りを補足するニンリルの心理描写は皆無である。
ニンリルから逃げるエンリルの心理についても作中で特に明記されていない為、詳細は不明である。
⭐️ 月神の名前。
シンは、アッカド版の名前であり、シュメール版だとナンナである。
《4》 怪物が三匹も住む、ハルブの木。
イナンナとフルップ(ハルブ)、の樹。
ある日、イナンナはぶらぶらとユーフラテス河畔を歩いていると。
強い南風に煽られて、今にもユーフラテス川に倒れそうなフルップの樹を見つけた。
辺りを見渡しても他に樹木は見あたらず、イナンナはこの樹が世界領域を表す、世界樹。
生命の木であることに気がついた。
そこで、イナンナはある計画を思いついた。
この樹から典型的な権力の象徴をつくり、この不思議な樹の力を利用して、世界を支配しようと考えたのだ。
イナンナはそれをウルクに持ち帰り、聖なる園に植えて大事に育てようとする。
まだ世界はちょうど創造されたばかりで、その世界樹はまだ成るべき大きさには程遠かった。
イナンナは、この時すでに、フルップの樹が完全に成長した日にはどのような力を彼女が持つことができるかを知っていた。
「もし時が来たらならば、この世界樹を使って輝く王冠と輝く王座を作るのだ」
その後10年の間にその樹はぐんぐんと成長していった。
しかし、その時ズーがやって来て、天まで届こうかというその樹のてっぺんに巣を作り、雛を育て始めた。
さらに樹の根にはヘビが巣を作っていて、樹の幹にはリリスが住処を構えていた。
リリスの姿は、大気と冥界の神であることを示していたので、イナンナは気が気でなかった。
しばらくの後、いよいよこの樹から支配者の印をつくる時が来た時、リリスにむかって聖なる樹から立ち去るようにお願いした。
しかしながら、イナンナはその時まだ神に対抗できるだけの力を持っておらず、リリスも言うことを聞こうとはしなかった。
彼女の天真爛漫な顔はみるみるうちに失望へと変わっていった。
そして、このリリスを押しのけられるだけの力を持った神は誰かと考えた。
彼女の兄弟である、太陽神ウトゥに頼んでみることになった。
暁方にウトゥは日々の仕事として通っている道を進んでいる時だった。
イナンナは彼に声をかけ、これまでのいきさつを話し、助けを懇願した。
ウトゥはイナンナの悩みを解決しようと、銅製の斧をかついで、イナンナの聖なる園にやって来た。
ヘビは樹を立ち去ろうとしないばかりか、ウトゥに襲いかかろうとしたので、彼はそれを退治した。
ズーは子供らと高く舞い上がると天の頂きにまで昇り、そこに巣を作ることにした。
リリスは自らの住居を破壊し、誰も住んでいない荒野に去っていった。
ウトゥはその後、樹の根っこを引き抜きやすくし、銅製の斧で輝く王冠と輝くベッドをイナンナのために作ってやった。
彼女は「他の神々と一緒にいる場所ができた」ととても喜び、感謝の印として、その樹の根と枝を使って「プック(Pukku)とミック(Mikku)」(輪と棒)を作り、ウトゥへの贈り物とした。
なお、この神話には、ウトゥの代わりにギルガメシュが同じ役割として登場する場合がある。
《5》 ズー鳥の反逆と天命の書版。
メソポタミアの中でも、最も古くから知られている怪物。
巨大で、子供がいるらしく、神の随獣だとされていたが、後に神の敵だとみなされるようになった。
神々や聖なるものは基本的に人間の姿をしているという考えが一般的になると。
アンズーも聖なる動物から、邪悪な存在で退治されて神々の側につく怪物とみなされるようになった。
また、その姿も上にあるとおりライオン・グリフィンとして描かれるようになった。
この時代の最も有名なアンズーの物語は。
アンズー神話。
アンズーと運命のタブレット。
~~等であり、シュメール語の断片が少し、そして中・後期バビロニア語と新アッシリア語の資料がかなり残っている。
アンズーは、エンリルに神殿の守護を命じられた鳥であった。
彼は神殿で、エンリルが主権を行使しているのをいつも眺めていた。
そのうち、彼の心の中に、むらむらと権力への欲望が湧きはじめた。
そして、エンリルが所有している神々の天命のタブレットを手に入れ、すべての神々を従えたい、と考えるようになった。
そこで、アンズーはエンリルが水浴をしているすきに天命のタブレットを奪って、山へと飛んでいってしまった。
エンリルは茫然自失し、神々は混乱に陥った。
地方から多くの神々が集まってきた。
アヌは主権を所有しているアンズーから天命のタブレットを取り戻すべく、この怪鳥を退治してくれる神を募った。
まずは、アダドが指名されたが、彼はアンズーに逆らったものは粘土のようになってしまう、としてそれを渋る。
次にイシュタルが指名されたが、彼女もまたアンズーを恐れて行くことをためらう。
そしてイシュタルの息子シャラもアンズー退治を拒否した。
神々は、原初の水たる、アプスーから知恵の神エアを呼び出し、策略を求めた。
エアは、ニンギルス(ニヌルタ)、を推薦した。
ニンギルスは7つの戦闘、7つの暴風を伴ってアンズー退治へと向かった。
闇が湧き上がり、雷鳴が轟き、洪水が起き・・・。
ニンギルスとアンズー達は激しい戦闘を行なった。
戦闘神ニヌルタは弓を引いて、アンズーに向けて葦の矢を放った。
しかし、アンズーは魔法で命じます。
飛んできた葦の矢よ、元の茂みへ帰れ。
弓にある木部分よ、元の森へ帰れ。
弦は獣の背へまた潜りこめ、羽は鳥へ帰れと呪文を唱えると、矢は戻ってきてしまった。
このままでは、勝てないと思った、ニヌルタ。
彼は嵐の神アダドを呼び、エアに現状を報告するように言った。
なにしろ相手は天命のタブレットを携えている。
つまり、どうやっても勝てないのである。
エアはアダドの報告を聞き、怯むな、烈風を集中して翼を吹き飛ばせと言うアドバイスをした。
アダドは、ニヌルタに正確に伝言を伝え、ニヌルタは結局アンズーから天命のタブレットを取り戻した。
物語、最後部分は欠損してわからないが、断片から考えると。
エンリルとニヌルタ達による、天命のタブレットについて、一悶着があったらしい。
ちなみに、シュメールの物語ニヌルタと亀によると。
ニヌルタが、アンズーに盗まれたエンキの天命のタブレットを奪い返した時に。
彼は、エンキにタブレットを返したくなかったらしい。
そこで、エンキは粘土から亀を作り、それに命を与えた。
亀は大地に穴を掘ってそれに覆いをかぶせ、落とし穴を作った。
ニヌルタは見事その穴に落ちてしまい、ここから出してくれと叫んだが、亀は無頓着だった。
そこに、エンキがやってきて、ニヌルタを馬鹿にし、天命のタブレットはエンキの手に戻ったという。
《6》 アプカルル。 (オアンネス)。
ベロッソスが書いた、バビロニア誌の伝えるところでは、エリュトラー海。
エリュトラー海の範囲は広いが、この場合はペルシャ湾のことと考えられる。
~~の海中からやってきた、オアンネスという半魚人が、人類に一週間で文明を授けたとされている。
これは、かつては陸地であり、今は水没した、ペルシャ湾のガルフ・オアシスから、メソポタミアに人類が移住した記憶の名残かもしれない。
アダパ。
彼はエリドゥ~~文献によってはディルムンとされる事もある賢神エア(エンキ)、の血統ではある。
だが、神ではなく死すべき運命にある通常の人間であった。
彼は、人間に工芸や文明をもたらすために、エアに遣わされたのだったが。
漁の最中に船を転覆させた、風の神ニンリルの翼を折った事を咎められ、アヌに天界に呼び出された。
彼の守護神であるエアは、この件に関しては素直に謝罪する事。
だが、天界で出されるものは死の飲食物かも知れないので口にしないようアダパに警告した。
アダパの謝罪を受け入れたアヌは、アダパの姿勢に応え、永遠の生命の食物を彼に勧めた。
だがアダパは、エアのアドバイスに従い、それを口にしなかった。
こうして、彼は不死を得る機会を逃してしまった。