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ウガリット神話 大洪水を生き延びる、アトラハシス 海神ヤム・ナハールVS風神バアル 冥界神モートVS風神バアル

《1》 ウガリット大洪水を生き延びる、アトラハシス。


《2》 海神ヤム・ナハールVS風神バアル。


《3》 冥界神モートVS風神バアル。



 楔形文字粘土版、英国博物館に貯蔵。



 粘土版 1。


 天アヌ、風エンリル、水エンキによる宇宙の創造。


 エンリルは、下位の神々に農業、治水を命じる。


 40年後、下位の神々は反乱を起こす。

 エンキは、人間をつくって農業と治水を行わせることを提案。 


 母神ニンフルサグ(マミ)は、死んだ知恵の神ゲシュトウーエ (Geshtu-e) の肉と血を混ぜた粘土で人間をつくる。


 神々は粘土につばを混ぜる。10か月後、人間が誕生。 



 粘土版 2。


 人間の過剰人口、エンリルは人口を減らすために飢餓と旱魃を1200年毎にもたらす。

 エンリルは、人間を破壊するために洪水を起すことを決める。



 粘土版 3。


 ギルガメシュ叙事詩: 粘土版 11にて改めて記載。


 エンキは、シュルッパクのアトラ・ハシースに、家を解体して船を造り、エンリルが起そうとしている洪水から避難する術を話す。アトラ・ハシースは、彼と彼の家族、動物と船に乗り扉を閉め避難。


 嵐と洪水が起こってから7日後、アトラ・ハシースは神々に生け贄を捧げる。


 エンリルは、エンキが計画を漏らしたことを咎めるも、エンキとエンリルは和解。



《2》 海神ヤム・ナハールVS風神バアル。



 イルが神々を招集し集会を開く。

 そこへやって来たヤム・ナハルの使者から「ヤム・ナハルは神々の支配者であり、バアルはヤム・ナハルの奴隷である」との宣告がされる。


 イルが、ヤム・ナハルの要求を受け入れたことでバアルは憤り、使者を殺そうとするが、アスタルトとアナトに止められる。


 その後、工芸神コシャル・ハシス(英語版)の作った武器・「撃退アィヤムル[注釈 1]」と「追放ヤグルシュ[注釈 2]」を受け取ると、バアルはヤム・ナハルの元へ行き、激闘の末ヤム・ナハルの頭を粉砕してこれを打ち倒す。


 ヤム・ナハルはアスタルトの進言によりバラバラにされて撒かれた。


 ヤム・ナハルを倒し、晴れて神々の王となったバアルだったが、自分の神殿がないことを嘆く。


 彼は、アナトの協力を得てイルから神殿建設の許可を得ると、コシャル・ハシスにこれを建設させた。


 建設の途中、復活したヤム・ナハルの侵入を防ぐべく神殿に窓を付けないようにとコシャル・ハシスに命じたが、彼はバアルに「あなたが雲に乗って出かけるには窓が必要」と助言し、結局その通りに神殿には窓が付けられた。


 その後、バアルは神殿で祝宴を行い、モートを招待すべく彼の元に使者を送り込んだ。


 モートが欲しているのは人間の肉であるのに葡萄酒でもてなす祝宴へ招いたというのでモートは激昂した。


 かつてバアルが7頭の蛇やロタンを打ち倒していることから、モートはバアルをその蛇と同じようにすると言い、バアルが冥界に来るようにと使者に告げさせた。


バアルはモートを恐れ、自分がモートに従う旨を使者に伝えさせた。


 バアルが太陽神シャパシュ(ウガリット語: Shapash)に助言を求めると、彼女は身代わりを用意するよう助言し、バアルは牝牛との間にひそかに身代わりの息子をもうけた。


 身代わりのバアルとは知らずにモートはバアルを飲み込んだ。


 バアルが死んだと知ったイルやアナトは喪に服した。


 以後、雨は長い間降らず、アナトはバアルを探し求めた。


 間もなくアナトはモートに会い、彼がバアルを食い殺したと知ると彼を殺してその体をばらばらにした。


 その後バアルは復活し、再び神々の王座に就いた。


 7年後には、モートも復活した。


 バアルは再び、モートと対決するが、シャパシュの説得によって両者は和解した。



《3》 冥界神モートVS風神バアル。



 ヤムを倒したバアルは、ゼホンの山に登ると山頂に祝宴をはり、王宮を造営し、妹アナトの強力な支援のもと、王権を確実なものとします。


 そして、バアルは次に、モトと戦うことになります。


 モトは大地が火の空によって渇き、穀物や果実が実る季節に大地を掌握・支配する収穫の神です。


 このモトとバアル達の戦いは、刻文の欠損のため不明な部分も多く、物語は、恐ろしく貪欲な怪獣の口に、バアルが飲み込まれるところから始まります。


 バアルの身体は怪獣の口の中に飲み込まれ、恐怖におののく彼は絶叫して、モトに隷属を誓います。


 そして、戦いに勝利した、モトは快哉を叫びます。


 この後、さらに欠損があり、次のシーンでは、バアルは遺体となって登場します。


 父エルのもとに使者が到着し、エルはバアルが死んで野に倒れていることを知ります。


 エルは悲嘆にくれ、王座を降りて地に座し、頭に塵をかぶり、麻布を身にまとい、石をもって頬とあごを傷つけ、胸をかきむしって、バアルの死を悲しみました。


 バアルの姿が地上から消えると、大地は干上がり、豊かな沃野は荒廃します。


 父エルの悲嘆を目の当たりにした娘のアナトは、一人バアルを求めて山野を漂泊し、美しいシールメマットの野に倒れているバアルの遺体を発見します。


 その時、アナトの目からあふれ出る涙は、ぶどう酒のように飲むことができるほどでした。


 アナトは泣く泣く、バアルの遺体を背にゼホンの山に戻り、そこにバアルを埋葬します。


 冥界に降った、バアルの為にアナトが捧げた生贄は。



 牡牛。

 羊。

 鹿。

 山羊。

 ロバ。


 ~~など、それぞれ七十頭ずつでした。


 そして、バアルは不在となりましたが、彼に代わって王位を継ぐことのできる者はいませんでした。


 かくして歳月は流れます。


 悲しみの処女アナトは、モトをつかまえて、激しく叫弾し、バアルを返してくれるように訴えます。


 しかし、モトは取りあいません。


 その後、アナトは復讐を決意し、少女を囮にモトを引き寄せ、捕らえることに成功します。


復讐に燃えるアナトは、剣でモトの身体をズタズタに引き裂き、風を送って吹き分け、火にかけて焼き、挽臼でひいて野にまきます。


 鳥や動物たちは、それを食べました。(刻文は、ここで大きく中断)


 父エルは夢で幻を見ます。

 それは、天の油が地に滴り落ちて雨となり、枯れ谷に蜜があふれ始めると言うものでした。


 父エルは歓喜して叫びました。「アナトよ、聞け、バアルは生きている・・・・」(以下、中断)


 バアルは再びゼホンの山に戻ってきました。モトも再生して再び両者の間に激しい闘争が開始されます。


 二人の神は、牡牛のように突き合い、馬のように蹴り合いました。


 しかし、勝負は容易につきません。


 そして、ついに両者とも力尽きて倒れてしまいます。


 そこに女神シャパシュが仲裁に入り、両者は引き分けて和解します。


 かくして、バアルの王権は確保されることになったのです。


 以上がバアルの神話ですが、ここに描かれた死と再生のドラマには、明らかに季節の交代のドラマが反映されています。


 カナン地方の気候は冬の雨季と夏の乾季に二分されており、農作物の豊作・不作は冬の雨量に支配されることになります。


 6ヵ月以上続く厳しい乾季は、全ての生命を枯渇させ、雨の神バアルの敗退と死。

 そして、死の神モトの支配を想わせ、その後、冬になると、再び雨が降って野山に青々と生命を蘇らせる光景はバアルの復活と支配を想起させます。



 また、カナン人たちが持っていた上記のような神話等は、後にその地に住み着いたイスラエル人にも影響を与えました。


 例えば、神エルは通常、世を離れて、はるか遠くに座し、「(二つ)の川の流れ出る所」で玉座についている者として描かれます。これは旧約聖書の「エデンの園」と、そこから1つの川が流れ出て、チグリス、ユーフラテス、ギホン、ピションの四つの川になったことを想起させます。


 また、神エルの象徴は牡牛ですが、『出エジプト記』(32章)には、モーセがシナイ山に登って主の言葉を聞いている間、麓では民たちが牡牛の鋳像を造り、その前で祭壇を築いて献げ物を捧げていたことが記されています。また、『列王記 上』(12章28-32節)には、ユダの王が金の子牛を造って、人々に「見よ、イスラエルよ、これがお前をエジプトから導き上ったお前の神である」と告げたことが記載されています。

 イスラエルの人々もヤハウェの象徴を牛だと考えていたことが伺えます。


 そして、バアルは、北の果てなる神々の山に座すとされますが、『イザヤ書』には、次のような記述があり、


『イザヤ書』 14章12-14節 暁の子、明けの明星よ、どうしてお前は天から落ちたのか。

 もろもろの国を倒した者よ、どうしてお前は地へと切り倒されたのか。

 お前は心の中で言った、

 「私は天に上ろう。神の星々のはるか上に、私は私の玉座を上げよう。

 私は、北の果ての、例祭の山に座そう。

 雲の濃い高みに上り、いと高き方に自らを擬そう」、と。

 しかし、お前は黄泉へと、穴の底へと落とされる。


 「神は北の果ての山に座して、この世を統治している」と言う認識があったようです。


 さらに、バアルを形容する時の常套句に「雲に乗る者」がありますが、『ダニエル書』(7章13節)では、メシアが来臨する様子を「天の雲に乗って、人の子のような者がやって来る」と表現しており、そこにも影響が見られます。



 以上、バアル信仰を激しく叫弾した旧約聖書の著者達ですが、一方で、その影響も受けていたようです。


 よって、バアルを中心としたウガリット神話を知ることは、旧約聖書の内容をより深く理解するための一助となることでしょう。


 なお、「創造主エルと、死して復活した息子のバアル」という関係は、後のキリスト教にも見い出せる関係性であり、興味深いものです。

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