指輪
偽物でも幸せだった
あなたの誓いを指に備えていること
本当に幸せだった。
指輪
本当は私じゃなくてお姉様を見つめていたのは知っていた。
私より綺麗な顔も美しいブロンドもお姉様を引き立てる全てだった。
でもお姉様の許嫁も、あなたが私と婚約することも生まれた時から決まっていたこと。
それでも良かった。
神様の前で誓い、丸い誓いを指にはめたときに幸せだと感じた。あなたと繫るモノができたことが幸せだった。
「本当は私のこと一番に愛しておられないでしょう?」
「なんでそんなことを聞くんだい?」
触れる手は冷たい。
「私は何でも分かるんですよ。魔女の末裔ですから。」
冗談を含ませて笑って見せる。それに合わせてあなたの笑い声も聞こえる。
幸せだった。
仮初でも幸福を感じていた。
その日は目覚めから嫌な予感がしていた。
「少し出かけてくるよ。」
「どちらへ?」
「会社に忘れ物をしてね。」
冷たい手は私の頬を包み、温度のないキスをした。
いつだって熱を持たないキス。
それでもあなたと触れ合えるのが心地よかった。
「行ってらっしゃい。」
笑って見送った。
それが最後の後ろ姿になるなんて思わずに。
「奥様!旦那様が…旦那様が…」
嫌な予感は当たるもの。
「馬車が暴れ、事故を起こしました。旦那様は即死したと連絡が…。それと…」
メイドは言い淀む。もうこれ以上の不幸はないと思ったから何?と先を促した。
「お姉様も同じ馬車に乗っておられ、同時に即死されたと…」
神様なんていない。
彼とお姉様が同じ馬車に?
本当は人違いでないかと淡い期待をかけてあなたの身元を確かめに行った。
「こちらです。」
案内された先には義理のお兄様も到着して立ちすくしていた。
遺体は間違えなく彼で、その隣は私のお姉様だった。
そして、二人の手は固く結ばれていた。
あなたの左手とお姉様の右手は固く握り合っていた。
それはお互い大事なことを告げるように固く固まった結び目。
あなたの左手には指輪がなかった。
私の左手に輝く指輪が、あなたの指にはなかった。
結び目を解けさせたくて手に触れるとその手は固く、冷たく外れることはなかった。
周りの警察や医療関係者がお兄様や、お父様と話している会話はひとつも聞こえなかった。不倫してたとか、誑かしたとかもうどうでも良かった。
涙も出ない現実に笑って
涙も出ない未来を呪った
目の前にあったナイフで
指輪ごと指を切り落とした
だってこれは唯一
あたしと
あなたを
繋ぎ止めていたものだから
繋ぎ止められないなら
もう
この指も
この指輪も
何もいらない