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九 やっぱり

 ぱたりと倒れたチュチュが動かなくなり、その場にいた皆の視線がチュチュに集まった。  


「チュチュ。そんなに、血塗れになって、何があっため?」


 先程、シズクに向かって言葉を発した人物、チュチュオネイが三毛猫の背から飛び降りると、飛ぶような勢いで走り出し、チュチュの元に駆け付けて言う。


「だ、誰、む? チュ、チュチュは、も、もう、駄目、む」


 チュチュが、苦しそうに、途切れ途切れに、そう言った。


「女王様。キッテ様。これはいったいどういう事ですめ? 最愛の妹チュチュに何があったのですかめ?」


 チュチュオネイが、被っていた、顔をすべて覆う形のヘルメットを脱ぎ捨てて、シズクとキッテの目を見つめる。


「いや、特に、何かがあったとかでは、ないんだが」


 キッテが困ったような様子で言う。


 何これ? これ、絶対に私を笑わそうとして来ている。チュチュオネイっていう名前でチュチュのお姉さんで、しかも語尾に「め」って何? 妹のチュチュが「む」だから、同じ「ま行」の「め」って事なの? あ。そうだ。どうして語尾に「む」とか「め」とか付けるのか聞いてみようかな。チュチュの時は聞けなかったけど、もう、これは、一度ちゃんと聞いた方がいい気がして来た。シズクは、髪の色や瞳の色などが、チュチュと同じ、チュチュオネイの姿を、じっと見つめて、あれこれやと考えた。


「キッテ様。特に、何かが、あったとかではないのに、こんなふうになりますかめ? チュチュ。最愛なる妹め。こんな姿になってかわいそうにめ」


 チュチュオネイが、地面に片膝を突くと、チュチュを抱き上げる。


「誰むぅぅ? 女王様だったら、嬉しいむぅぅぅ」


 チュチュが、弱々しく、消え入るような声で言った。


「チュチュウゥゥ~。チュチュウゥゥ~」


 チュチュオネイが言い、チュチュの頬にキスをする。


「ちゅーむ? ちゅーをされたむ?」


 チュチュが、小さな声で言う。


「もっとしてあげるめぇぇ。さ、さあ、チュチュ。お姉ちゃんにすべてを、差し出すめぇぇぇ」


 チュチュオネイが、チュチュの顔に、ちゅーの雨を降らせ始める。


「キッテ。あれ、何?」


 シズクは、うへぇ。やっぱり、こいつも変態なの? と思いながら言った。


「チュチュオネイは、チュチュの事が大好きでな。いつ見ても、素晴らしい姉妹愛だ」


 キッテが言い、自分の言葉の意味を、噛み締めるかのように、数回頷く。


「ぶむひぃぃぃ~。お姉ちゃんなのむぅぅ? お姉ちゃんは、あっちに行くむぅ。ぺっ、ぺっ、ぺぇっ。お姉ちゃんの涎が口に入ったむぅ。最低むぅ」


 チュチュが、大きな声で言うと、チュチュオネイの腕の中から、逃れ出ようとして暴れ出した。


「あ、こ、こらめ。チュチュ。暴れては駄目め。じっとしてるめ。まだまだ、二人の濃厚な時間はこれからめぇぇ」


 チュチュオネイが、チュチュを逃すまいと、チュチュの体を抱く腕に力を込める。


「キッテ。これ、どうすんの?」


「かわいいじゃないか。俺は、いつまででも、見てられるぞ」


 キッテって、昔から、こんなだったっけ? やっぱり、千年という時間は長過ぎたんだ。それで、きっと、壊れてしまったんだ。シズクは、そう思い、(あわれ)みの目を、キッテに向けた。


「いや~あ~。お姉ちゃんやめるむぅぅ~」


 チュチュが一際大きな声を出して、今ままでよりも激しく暴れた。チュチュの頭がチュチュオネイの顔面を直撃し、チュチュオネイが仰け反って、チュチュを拘束していた、チュチュオネイの腕の力が緩む。その気を逃さず、チュチュが、チュチュオネイの腕の中から抜け出る。


「チュチュゥゥ。チュチュゥゥ。行っちゃ駄目めぇぇ~」


 チュチュオネイがチュチュに(すが)り付こうとする。


「お姉ちゃんになんて、用はないむぅ」


 チュチュが、チュチュオネイの手を、ぺしぺしぺしっと連続で激しく叩いてから、シズクの方に向かって、走り出す。


「女王様~。女王様~。ど変態のお姉ちゃんからぁぁ~、チュチュを守って欲しいむぅぅ~」


 シズクは、うへぇ。また走って来た。と思うと、すすすっと、さり気なさを装いつつ、チュチュから離れるように後ろにさがる。


「ミーケ。チュチュを捕まえるめ」


 チュチュオネイが、自分が乗っていた猫の方に顔を向け、声を上げる。三毛猫が、ミャースー。と変な鳴き方をしてから、チュチュの傍へと、素早く移動する。


「女王様~。助けてむぅぅ~」


 チュチュがシズクに向かって両手を伸ばした。


「そうだった。猫ちゃん」


 シズクは言うと、チュチュを跨いで、三毛猫に近付いてからしゃがみ、三毛猫に向かって両手を伸ばす。


「猫ちゃんこっちおいでー」


 シズクはミーケと呼ばれた猫に向かって言った。


「ミュウ」

 

 ミーケが鳴いて、シズクの手に近付くと、ふすふすと鼻を鳴らして、手の匂いを嗅ぐ。


「猫ちゃーん。抱っこさせて」


 シズクは言い、両手で、左右から挟むようにして、そっと、ミーケの体に触れた。

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