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八 チュチュ、無視される

 チュチュが泣きじゃくりながら、立ち上がると、シズクの方に向かって歩き出す。


「女王様~。女王様~。チュチュを~、チュチュを~、見捨てないでむぅぅ~。今すぐに、抱っこして欲しいむぅぅ」


「チュチュ。抱っこはできないけど、私は見捨てたりはしてない。だから、もう泣かないで」


 シズクは、とりあえず、どう思えばいいかって事は、おいておこう。きっと、ずっと、解決なんてしそうにないし。それで、これで、とりあえず、落ち着いてくれないかな。今のチュチュには、やっぱり、触りたくないし。と思いながら言い、ゆっくりと、チュチュから離れるように後ろにさがる。


「うわあああん。女王様がチュチュから逃げてるむぅぅ。チュチュは避けられてるむぅぅ。うえぇぇぇぇん」


 チュチュが泣き声を大きくする。


「チュチュ。チュチュ。こっちに来い。俺が慰めてやるから」


 キッテが、とても悲しそうな顔になりながら、チュチュに顔を近付ける。


「いや~あ~。キッテ様じゃないむぅぅ。女王様がいいむぅぅ~」


 チュチュが足を止めると、大きく首を左右に振りながら声を上げた。


「シズク。シズク。なんとかしてやってくれ。これじゃチュチュがあまりにもかわいそうだ」


 キッテが、今度は、酷くしょんぼりとした顔になって、その顔を、シズクの方に向けて言う。


「私だって、なんとしてあげたい。けど、なんていうか、今のチュチュには、触りたくないっていうか」


 シズクは言い終えてから、そうだ。と思うと、再び口を開く。


「タオルとかないの? 水道とかは? チュチュが綺麗(きれい)になれば、すぐにでも、チュチュに触るから」


「うえぇぇぇん。女王様は酷いむぅぅ。チュチュに触ってくれないむぅぅぅ」


 唐突に、チュチュが、シズクに向かって、走り出す。


「うえぇ。意外と速い」


 シズクは、思わず後ろに向かって、大きく飛び退いてしまう。


「女王様がまた逃げたむぅぅ~。うえぇぇぇぇぇん」


 チュチュが足を止めると、その場に(うずくま)った。


「シズク。シズクの気持ちも分かるが、近くに水道もないし、拭く物もすぐには用意できない。シズク。頼む。シズクしかチュチュを慰められないんだ」


 キッテが、何かを訴える子猫のような目をして、シズクを見る。


「もう~。分かった。分かったから。チュチュ。ごめん。だから、もう泣かないで」


 シズクは言ってチュチュの傍に行った。


「女王様~。チュチュを抱っこして欲しいむぅぅ〜ん」


 チュチュがオムライス塗れの体で、シズクの足に抱き付いた。


「うへぇ。べとべとしてる」 


「女王様〜。酷いむぅぅ。べとべとじゃないむぅぅ」


 チュチュがシズクの足に、顔を(こす)り付け、涙やら鼻水やらを擦り付ける。


「チュチュ。抱っこするから、擦り付けないで」


 シズクは、泣きたいのは、私の方だよ。と思いながら、腰を曲げると、チュチュに向かって手を伸ばした。


 どこからか、たくさんの四つ足の生き物が、走っているような物音と、ニャーニャーという猫の鳴き声らしき物が聞こえて来る。


「え? 何?」


 シズクは、手を止めて、腰を伸ばし、音のする方に顔を向けた。


 街並みを背にして、広場の向こう側に見える、草がまばらに生えている、高さが六十センチくらいの、急激に隆起した山のようになっている所の上から、板金鎧に身を包んだ者達が乗っている、体長が二十センチくらいの数十匹の猫が、猛烈な勢いでシズク達の方に向かって、駆けて来ている姿が、シズクの目に飛び込んで来る。


「何あれ?」

 

 猫ちゃんだー。うわわわー。かわいー。しかもしかも、なんか、私がいた世界の猫よりも小さいっぽいし、凄いいっぱいいるし。と、シズクは、言葉を出してから、そんな事を思った。


「ああ。あれは騎士団だ。皆の事を守ってくれてる」 


「騎士団?」


 騎士団という耳慣れない言葉を聞いて、シズクの頭の中から、猫ちゃんの事がすっぽりと抜けて行ってしまう。


「特に名前はなくてな。ただ、騎士団と呼ばれてる。自分達の住む、この国を守りたいと思った者達が、集まってできた組織だ」


「その騎士団が、なんで、あっちにいたの?」


「あっちにある、あの山は、この国をぐるりと囲むように、作られていてな。この国の皆が、長い年月をかけて、自分たちで作った城壁のような物なんだ。騎士団は、虫達や鳥達のような侵入者や、この国を訪れようとしている、他国の者達の事を、あそこの上から見張ったりしてる」


「他国? 他国って、この国の外の世界は、私のいた頃と変わらない世界なんでしょ? 他の国の人達だって、小さいんだよね? 今の小さい人類が、そんな中を移動して来られるの?」


「前に、文明の段階を改変してると、言ったと思うんだが、この世界にある国は、その改変によって文明に差ができるように作られてる。この国は、工業化が起こる前の文明だが、他の国の中には、もっと進んだ文明を持っていて、外の世界を、通って来る事ができる国もある」


「そう、なんだ。それで、そんな進んだ文明を持った国の人達が、何をしに来るの?」


 シズクは、なんだかややっこしい話になって来たっぽい? と思いつつ言う。


 シズクの言葉を聞いたキッテが難しい顔になった。


「色々だ。交易をしたり、ただ、遊びに来る者や、酷いのになると、文明の差を利用して、脅しに来る者もいる」


「脅しに来る? 何それ? なんで、文明に差なんてあるの? 皆同じにすればいいじゃない」


「確かに、その通りなんだが、文明に差を付ける事は、この世界をどういう方向に持って行くかを試す為の、実験の一部でな。AI達と、旧世代の人類達とが、話し合って決めた事なんだ。旧世代の人類達も、こういう事が起こるのを承知の上で、今の、この世界を作って、その世界の管理のすべてを、AI達に任せたんだ」


 シズクは、実験って。チュチュ達は実験に使われているって事? なんか、それって酷くない? チュチュ達だって、同じ人類なのに、そんなふうにされるなんて、なんか、凄く、腹が立つ。と思うと、唇を、むっと、尖らせた。


「AI達に会いに行くんだよね?」


「ああ。行くつもりだ」


「じゃあ、その時は、私も行く」


 シズクは、言いながら、ガツンと文句を言ってやる。と思う。


「女王様。初めましてめ。我は、この騎士団の団長、チュチュオネイですめ」


 いつの間にか、シズク達の足元まで来ていた、板金鎧を身に付けた者達が乗っている、数十匹いる猫達の中から、一番立派な、装飾を施してある、板金鎧を身に付けた人物が、乗っている三毛猫を一歩前に進ませると、そう言った。


「酷いむぅぅ。伸ばされた手を引っ込められてぇ、無視されてぇ、キッテ様までぇ、チュチュの事をぉ、忘れてぇ、あまりの事にぃぃぃ、思わず泣き止んでしまったむぅぅ~」 


 騎士団長が言い終えると、チュチュが、言いながら、シズクの足から離れ、その場にぱたりと倒れた。

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