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七十一 解放

 月世界人類の手から、力が微かに抜けたのが、シズクの手に伝わって来て、シズクは、月世界人類の手を、ソーサから引きはがそうと自身の手に力を入れた。


「むむむ~、なのだ。本当は、シラクラシズクを人質にしたかったのだ。けど、無理みたいだから、このソーサっていうのを人質にするのだ。このソーサっていうのを助けたければ、烏達を母船からこっちに呼ぶのだ。母船を返すのだ」


 月世界人類が、シズクの手を振り払い、ソーサを持ち上げて、自分の体の前に突き出すような恰好をする。


「誰が人質だって?」

 

キッテの声がそう言った。


「キッテ!?」


 シズクは、キッテの声に反射的に反応して、その名を呼んだ。


「な、なんってこった、なのだ。ソーサっていうのが、いなくなったのだ」


 いつの間にか復活していたキッテが、月世界人類の手から、一瞬にして、ソーサを奪い返し、ソーサを口にくわえて、シズクの傍に来た。


「シズク。何があったんだ?」


 キッテが、ソーサを地面に下ろし、月世界人類の方を見て、目を細める。


 シズクは、キッテ。と叫んで、キッテに抱き付き、顔を体毛に埋めてから、今までに起きた出来事を話した。


「そうか。それは、大変だったな。皆、すまなかった。それと。皆。よく頑張ったな。もう大丈夫だ。まったく。油断してた。まさか、EMP攻撃を喰らうとはな」


 キッテが、言葉を切って、ゆっくりと空を見上げる。


「シズクに手を出すとはな。やってくれたな、どうしてやろうか。月まで行って、すべてを滅ぼしてやろうか」


 キッテが、シズクですら、今までに聞いた事がないような、凄まじい怒気を孕んだ声で言った。


「キッテが、キッテが、なのだ」

 

 月世界人類が、酷く怯えたような声で言い、腰を抜かしたかのような動きで、その場に、すとんと、座り込む。


「キッテ以外もいますわよ。キッテと情報を共有したので、状況はもう理解してますわ」


「シズクに随分と酷い事をしてくれたなナノマ」


「月か、ダノマ。興味があるダノマ。ちょっと、行って、暴れて来ようかダノマ」


 カレルを先頭にして、ダノマと戦闘機から人の姿に戻ったナノマが、シズク達の方に向かって歩いて来た。


「キッテ。皆も。乱暴な事はやめよう」


 シズクは、キッテのもふもふの体毛に顔を埋めたまま言う。


「シズク。シズクの優しいところは好きだし、素晴らしいと思うぞ。だが、今回は、事が事だ。俺達も、この星も、やられたままではな」


「シズク。シズクはどうしたいのナノマ? シズクが一番酷い事をされてるんだから、まずは、シズクがどうしたいかを決めればいいナノマ。他の、ナノマ達の分は、また別にやればいいナノマ」


 キッテの言葉に続けるようにして、ナノマが言った。


「ナノマ」


 シズクは言って、キッテの体毛にぎゅっと顔を押し付ける。


「シズクの分はシズクに決めさせるのか。うーん。まあ、それでも、いいが、おっと、そうだ。その前に、ミーケ。動物達の方はどうだ? 月の奴らに関して、何か俺達にできる事があったら言ってくれ」


「月世界人類の事は動物達よりも力を持ってるキッテ達に任せるにゃ。いざとなった時の犠牲は厭わないけど、こういう場面での、無駄な犠牲は出したくないにゃ」


「そうか。分かった。後は任せてくれ。だが、本当にミーケが言葉をしゃべるんだな。他の動物達も、皆、言葉を話せるのか?」


 キッテが、言葉の途中から、優しい目になって、ミーケを見つめる。


「ほとんどの動物が話しをする事ができるにゃ。隠してた事に関しては悪いと思うにゃ。けど、人類やAI達との関係の事を考えると、正直、どうすればいいのかが、分からなかったにゃ」


「烏ちゃん達やミーケには本当に感謝ですわ。秘密を知られたら、どうなるか分からないのに、それを乗り越えてまで、皆を助けてくれたなんて」


「いや、それは、烏達が、バカなだけだにゃ。他にもやり方があったはずだにゃ」


「ミーケが言葉を話せたなんてめ。言葉を理解してるようなところがあったけど、そういう事だったんだめ。ミーケ。これからも仲良くしてくれたら嬉しいめ」


「これからが楽しみむぅぅ。ミーケ。いっぱい遊んで、いっぱいお話をするむぅぅぅ」


 チュチュオネイとチュチュが、嬉しそうに言う。


「二人ともありがとうにゃ。こちらこそ、いい関係を築きたいから、よろしくお願いするにゃ」


「それで、シズク。どうしたいか言ってくれるか? なんでもいいから、とりあえず、案を出してみてくれ。そうしたら、俺達も、どうするかを一緒に考えるから」


「そんなの、決められない」


 シズクは、キッテの体を抱く手にぎゅーっと力を込める。


 「シズク。シズクの気持ちは分かるつもりだ。だが、さっきも言ったが事が事だ。このまま何もしないですませる訳にはいかない。それに。シズクの今後の事も考えてしまうんだ。あんな事をされたんだ。心の中には色々な思いがあるんじゃないか? そういう物を整理する為にも、どうしたいかを決める事には意味があると思うぞ。やられたらやり返すじゃないが、時には、我慢する事が、よくない事だってある」


「……。そう、なのかな?」


 シズクはキッテの体毛から、ゆっくりと、顔を離すと、月世界人類の方を見た。


「そうだナノマ。がつんとやってしまえばいいんだナノマ」


「せめて、シズクが味わったのと同じくらいの痛みは味わってもらった方がいいダノマ」


「物騒な事には反対だけれど、それなりの対応はしておいた方がいいと思いますわ」


 ナノマとダノマとカレルが、思い思いの言葉を口にする。


「ゆ、許して欲しいのだ。烏達が母船から出て行ってくれば、大人しく月に帰るのだ」


 月世界人類がまた怯えたような声で言った。

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