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六十六 攻撃

 銀色の何者か――月世界人類が、不意に立ち上がって、チュチュとミーケに向かって両方の手を伸ばした。ミーケがチュチュのいる方向に向かって飛び、チュチュに向かって行っていた、月世界人類の手を空中で数回ひっかいてから着地する。


「猫ちゃんにひっかかれたのだ! 月世界人類初の快挙なのだ」


 月世界人類が、裏返ったような妙に高い声で言った。


「そんな事より、チュチュとミーケに何をしようとしたの?」


 シズクは、何か、変な事をしようとしていたとしたらどうしよう? と思いつつ言葉を出す。


「小さな人類も猫ちゃんも月世界にはいないのだ。とても貴重な物なのだ。調査したいのだ」


「調査、ですか? それなら、そんなふうにいきなり手を伸ばさずに、ちゃんと、言葉で、伝えればいいのではないですか? 今のような事では、こちらは、皆、驚いてしまいます」


 ソーサがポーズをとる。


「言葉で伝えても、断わられたら、どうすればいいのだ?」


「それは、難しい質問ですね。……。そうですね。何度も、お願いするか、何かしらの方法で、懐柔するとかですかね」


「そういうのは面倒なのだ。黙って言う事を聞かないのなら、強引にやるのだ。この星には、今、これ達に抵抗する力がないのだ」


「ちょっと、そんな」


 シズクは、噓でしょ? この人、本気なのかな? 強引になんてされても、今は、私しかいないのに。キッテも、ナノマもダノマも、カレルさんも動けないのに。と思う。


「猫ちゃんは他にもいるのだ? いたら、連れてきて欲しいのだ」


「お前なんかの言う事は聞かないめ。ミーケ。思い切りひっかくめ」


 ミーケが、ミャミャー。と鳴いて、月世界人類に襲いかかる。


「無駄なのだ。この防護スーツはあらゆる物から、中にいる者を守るように作られているのだ。猫ちゃんにまたひっかかれたのは嬉しいけど、これに攻撃しても意味がないのだ」


 月世界人類の顔の部分を、数回ひっかいたミーケが、地面に降り立つと、至極不満そうに、ムミャムゥ~。と唸った。


「そんなような物なのだろうとは、思ってはいましたが、その銀色の物は防護スーツなのですね」


 ソーサが言ってポーズをとった。


「地球の重力もへっちゃらなのだ」

 

 月世界人類が再び、チュチュとミーケを捕まえようとし始める。


「捕まえたいのなら、我を捕まえて下さい」


 ソーサが言って、今とっているのとは別のポーズをとった。


「ちょっと。そんなの駄目だよ。私は? 私を捕まえればいい」


 シズクは、咄嗟に、なんの考えもなしに、そう言うと、皆を庇うように、月世界人類の前に立つ。


「シラクラシズク? うーん。今は、とりあえずいらないのだ」


 月世界人類が、シズクを見つめるような仕草をしてから、ぷいっと、横を向いた。


「ちょっと。いらないって。なんでよ?」


 シズクは、話の流れなどすっかりと忘れて、むぅっと唇を尖らせる。


「小さい人類と猫ちゃんが先なのだ。月世界には、かわいい物が少ないのだ。シラクラシズクもかわいいはかわいいから、気にはなるけど、大きさとかが、月世界人類である、これらと同じような感じだから、後回しなのだ」


「いらないなんて言うから、ちょっと頭きたけど、そういう事なら、まあ、許してあげなくもないかも」


 シズクは、いらない子じゃなくってよかった。それに。かわいいだって。などと、すっかりと油断して、そんな事を思う。


「こういうのはどうでしょうか?」


 突然、ソーサが、ドロップキックを月世界人類に向かって放った。


「にゅふーんなのだ~。やられたのだ~」


 ソーサのドロップキックが命中すると、月世界人類が、一、二メートル吹き飛んで、仰向けに倒れる。


「シラクラシズク。今のうちです。二人と猫ちゃんを連れて、どこか遠くに逃げて下さい」


 ソーサが言って、飛び上がると、まだ倒れていた、月世界人類の顔の上に乗り、月世界人類の顔の部分を、両手を振り回してぶん殴り始めた。


「ソーサさんを一人にはできないよ」


 シズクは言ってから、チュチュオネイ。チュチュを連れて逃げて。と声を上げる。


「シラクラシズク。我なら大丈夫です。早く逃げて下さい」


「嫌だ。何かあったら、絶対に後悔する」


 シズクは、でも、これ、どうしよう? ソーサさんが勝てればいいけど、月世界人類の方が強そうだもん。きっと、このままだと、ソーサさんがやられちゃう。うーん。えっとえっと。そうだ。ソーサさんの代わりに、私が殴っちゃったらどうかな? それで、ソーサさんに、チュチュ達と逃げてもらえば。と思うと、ソーサとソーサに殴られ続けている月世界人類に近付く。


「シラクラシズク。何をしているのですか? 早く逃げて下さい」


「交代して。私が代わりにぶん殴る」


 シズクは、月世界人類さん。ごめんなさい。と言いながら、両手で拳を握ると、両腕を振り上げる。


「まったく。野蛮なのだ」


 月世界人類が、両方の手で、左右から挟むようにして、ソーサを捕まえようしたので、シズクは、ソーサさん。と声を上げて、拳を握っていた手を開き、ソーサに向かって手を伸ばした。


「大丈夫です」


 ソーサが、月世界人類の両手を右、左というように、交互に一発ずつぶん殴る。


「さっきから結構力が強いのだ。だけど、これの方が強いのだ。次はもっと力を入れるのだ」


 月世界人類が、ソーサに殴られ、弾き飛ばされていた手を、再度、ソーサに向かって伸ばして来る。ソーサが、もう一度、月世界人類の手をぶん殴るが、今度は、月世界人類の手は、先ほどのようにはならずに、真っ直ぐにソーサに迫って行く。


「ソーサさん」


 シズクは、途中で止めてしまっていた手を、ソーサに向けて、再び伸ばした。


「我だけなら捕まっても、なんとかなります」


 ソーサが言って、左右から迫って来ていた月世界人類の手を、左右の手で受け止める。シズクはソーサの脇腹の辺りを、両手でそっと掴むと、月世界人類の両手に、挟まれるような格好になっている、ソーサを引き抜くようにして持ち上げ、胸の前で抱くようにして持ってから、月世界人類から離れようとして、後ろに下がろうとする。


「逃げられないのだ」


 月世界人類が言うが早いか、ささっと、立ち上がって、あっという間に、シズクの背後に回り込んだ。


「え? ちょっ、もう、後ろに?」


「シラクラシズク。すいません。我の為に」


「防護スーツには、身体能力を強化する機能もあるのだ」


 月世界人類が、両手をわきわきとさせつつ、振り向いたシズクに迫り始める。


「ミーケ。女王様を守るめ」


 チュチュオネイの声とともにミーケが、月世界人類に飛びかかった。


「わざわざ向かって来てくれるとは、とても嬉しいのだ。こういう機会をこっそりと待っていたのだ」


 月世界人類が、飛びかかって来たミーケを、両手で包むようにして、そっと優しく、捕まえてしまう。


「ミーケ。チュチュオネイ」


 シズクは、とにかくミーケとチュチュオネイを助けなきゃ。と思うと、ソーサを地面に下ろし、月世界人類に向かって行った。

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