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六十三 宇宙(そら)

 ナノマシン達が集まってできていた、灰色の雲が移動し始め、雲一つない空が顔を出したが、空は、いつの間にか、夕暮れ色に染まっていた。


「夜になって来たむ。チュチュはお腹が空いて来たむ」


 チュチュが、そそくさと服を着ながら、声を上げた。


「チュチュ。今まで裸でいたんだ」


 シズクは、チュチュが脱いでいた事を、すっかりと忘れていた。


「むぅぅぅぅ。酷いむぅぅぅぅ。チュチュが風邪をひいたらどうしてくれるむぅぅぅぅ」


「脱いだのチュチュじゃん」


 シズクは、わざと突き放して、ヘッへーんという顔を作ってみる。


「ぎひぃぃぃ。女王様が虐めるむぅぅぅぅ。恐悦至極むぅぅぅぅ」


 シズクは、チュチュの言葉を聞いて、猛烈に自分の行いを悔いた。


「相変わらず仲がいいですわね。ちょっと羨ましいですわ」


 カレルが微笑んで言い、言葉を切ると、頭を下げた。


「ありがとうございました。貴方達のお陰で、懸案だった二つの事が解決しましたわ。わたくしは、まだやる事があるので、ここに残るけれど、貴方達は帰ってもらって大丈夫ですわ」


 カレルが、言い終えると、頭を上げる。


「シズクの事はどうなったんだ? シズクが脅威になるかも知れないとか、シズクの事を見極めたいとかなんとか言ってただろ?」


「あははは。私、全然活躍してなかった」


 シズクは、乾いた笑い声を上げつつ、苦笑してしまう。


「そういえば、そんな事も言ってましたわね。もう、どうでもいいですわ」


 カレルが言って、悪戯っ子がするような笑みを顔に浮かべた。


「まったく。なんて奴だ。だが、まあ、もう、いい。皆が無事だしな。それじゃ、俺達は帰るか。ナノマ。戦闘機を頼めるか?」


 キッテがナノマを見た。


「もちろんナノマ」


 ナノマが戦闘機に変形する。


「シズク。帰ったら、何をするダノマ? ダノマは、シズクと昔の話をしたいダノマ」


「昔の話?」


 シズクは言いながら、戦闘機に乗った。


「そうダノマ。千年前の話ダノマ」


 ダノマも言いつつ、戦闘機に乗り込む。


「駄目むぅぅ。女王様はチュチュ達と、ご飯を食べるむぅ」


「食事かダノマ。ダノマは食事をしないダノマ。だから、分からなかったダノマ。じゃあ、食事が終わったらどうダノマ?」


「うん。いいよ」


 シズクは言ってから、部屋にある小説などの事を、思い出した。


「私の部屋に、昔の本とかがある。私達がご飯を食べている間、部屋に入って、読んでていいよ」


「いいのかダノマ?」


「うん。中で自由にしていて」


「ありがとうダノマ。それは楽しみダノマ」


「よーし。皆乗ったな」


 全員が戦闘機に乗り終えると、キッテが戦闘機の中を見回す。


「それでは、また、ですわ。こっちが片付いたら、すぐに、そちらの国の方に顔を出しますわ。その時に、今回の件のお礼もしますわ。楽しみにしてて欲しいですわ」


 カレルが言い、片方の手を、自身の顔の横の辺りまで上げて振った。


「カレルさん。また」


 シズクは、大きな声で言って、手を振り返す。


 カレルが手を振り返し、天蓋が下りて来て、ナノマが変形している戦闘機の、エンジンが始動する。


「では、出発するナノマ」


 ナノマが言ったが、なぜか、戦闘機は、すぐには動き出さなかった。


「ナノマ? どうしたの?」


 そのまま、しばらくしても、戦闘機が動き出さないので、シズクは、不思議に思い、そう聞いてみる。


「上空に飛来物を発見したナノマ。念の為に、離陸を一時見送ってるナノマ」


「飛来物? 何が飛んでるんだ?」


 キッテが、顔を上げて、天蓋に映っている、空を見た。


「何あれ? 光の玉?」


「隕石のようだダノマ」


 天蓋の中に映っている、薄闇色の空を、真一文字に横切るように飛んでいた、眩く光る物体が、突如として、爆発すると、夜空が昼間のように明るくなった。


「まぶしっ」


 シズクは咄嗟に目を閉じる。


「急になんだむぅぅ」


「何が起こったのですかめ?」


 チュチュとチュチュオネイの声を聞きながら、シズクは閉じていた目をゆっくりと開けた。


「ねえ、キッテ。今のは、何か分かる?」


 シズクは、キッテの座っている座席の方に顔を向けた。


「キッテ?」


 キッテが、空を見上げたままの恰好で、動かなくなっているのに、気が付いたシズクは、言葉を漏らすようにして口から出した。


「キッテ様だけじゃないみたいですめ。ナノマもダノマも、動かなくなってるみたいですめ」


 チュチュオネイが大きな声を出す。


「チュチュとお姉ちゃんと、ミーケと女王様だけしか、動いてないみたいむぅぅぅぅ」


 チュチュも大きな声で言った。


「どうなっているの? ねえ、キッテ。キッテ」


 シズクは、手を伸ばしてキッテの体に触れると、その体をそっと揺する。


「皆様の方は、大丈夫ですか? すべての電子機器が、止まってしまったようですが」


 戦闘機の外から、ソーサの声が聞こえて来た。


「ソーサさん? どういう事?」


 シズクは、ソーサに聞こえるようにと、大きな声で言った。


「ちょっと待っていて下さい。ハッチを開けます。きっと、どこかに、手動で開ける為の、レバーか何かがあると思います」


 ソーサが言って、少しの間があってから、天蓋が開く。


「ソーサさん。何が起きているの?」


 シズクは、激しい不安と恐怖に苛まれながら、縋るように、戦闘機の横に立っていたソーサの目を見つめた。


「詳しくは分かりませんが、先ほど上空で起きた、爆発が原因だと思います。でも、なぜ、こんな事が。未来予知にはありませんでした」


「ソーサさんは平気なの? ソーサさんって、AIとかと融合しているんだよね?」


「電子機器を使っている機能に、制限がかかってしまっていますが、生物としての機能は正常に動いています。自己修復機能があるので、それも、時間が経てば直るはずです」


「キッテ達は? 皆は直る?」


「大丈夫だと思います。我らよりも、皆様の方が性能がいいですから。我らよりも早く復旧するはずです」


 ソーサの言葉を聞いたシズクは、よかった。本当によかった。と思い、安堵の息を吐いた。

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