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六 女王の初仕事?

 キッテがシズク達の前に進み出ると、お座りをして、広場にいる国民達全員を見るように、大きく顔を動かした。


「皆。こんなふうに歓迎してくれてありがとう。女王であるシズクから、一言、言ってもらおう」


 キッテが言うと、国民達から拍手と歓声が上がる。


「ささ。女王様。キッテ様の横に行くむ。チュチュはここで聞いてるむ」


 チュチュが言ってシズクの手の上で横になった。


「ちょっと。なんで横になるの?」


 シズクは、これでもかと(さげす)むような目で、チュチュを見つめて言う。 


「ぶひむひむぅぅ。その目が、その目が、たまらないむぅ。もっとおぉ、もっとむぅ~」


 チュチュが、服を脱いでから、手足をばたばたと動かしつつ、シズクの手の上を転がり回り始めた。


「もういい。言うだけ無駄」


 シズクは言って盛大に溜息を()く。


「シズク。どうした? 皆が待ってるぞ」


 キッテが振り向いて言い、笑顔を見せる。


「本当にやらなきゃ駄目? 私、そういうの苦手なんだけど」


「シズク。皆の声が聞こえないのか? それに、あのオムライスと国旗を見たろ? せめてお礼くらいは言っておけ」


 シズクは、歓迎しているっていうムードは伝わって来ているし、ちょっと、嬉しいし。お礼くらいは、確かに、キッテの言う通りかも。と思うと、歩き出した。


 シズクは、キッテの横まで行って足を止める。国民達の拍手と歓声が、更に大きくなった。


「むほおおおお。皆はチュチュがここでこんな事をしてるとは、思ってないはずむぅ。それが、また、背徳感があって、たまらないむぅ」


 チュチュが、転がり続けながら言う。


「いい加減にしないと、怒るよ」


「むふーんむふーん。怒るむ? むふーんむふふーん。どうやって怒るむ? むふふふーんむふーん」


 チュチュが、息を荒くして言い、全裸のまま手の上で正座をする。


「シズク。どうした? 声が小さいぞ。それじゃ皆には聞こえない」


「なんでもない。何を言えばいいのかなって、思って」


 シズクは言って、改めて国民達を見る。国民達は、いつの間にか、静かになっていて、シズクの方を見上げていた。


「なんでもいいさ。思った事を言えばいい」


「うん。分かった」


 シズクは、小さな声で言ってから、一歩前に出て、フライパンの上に載っているオムライスを、じっと見つめた。


「皆。ありがとう。オムライスは、とてもおいしそうで、国旗も、とても、素敵で、本当にありがとう」


 シズクは、言い終えると、深く深く頭を下げた。僅かな間があってから国民達が、再び、拍手と歓声を上げる。シズクは、頭を上げ、キッテの方に顔を向けて、もういい? と聞いた。


「皆。ありがとう。こんな女王だが、これからもよろしく頼む」


 キッテが、国民達に向かって言い、国民達から笑い声が上がる。


「もう。こんな女王って何?」


「シズク。気にするな。こういう時は、なんでもいいから、「落ち」が必要なんだ。それにしても、シズクは、話が短いな。こんな時は、そうだな。三十分は、話した方がいい」


「嫌だよそんなの。校長先生じゃん」


 シズクは笑った。


「確かに。あれは、話が長い」


 キッテが、言ってから、思い出したように、そういえば、チュチュはどうしてるんだ? と言葉を付け足すようにして言い、チュチュを乗せているシズクの手に目を向けた。


「チュチュは、ここで女王様を応援してたむ」


 チュチュが、立ち上がりつつ、一瞬で服を着て、そう言った。


 シズクは、凄い早着替え。と思うと、じとーっとした目をチュチュに向ける。


「そうか。チュチュ。ありがとうな」


「あい。女王様の事はチュチュに任せるむ」


 チュチュが嬉しそうに微笑む。


「おお。皆がオムライスを持って来てくれるみたいだぞ」


 キッテが言い、顔の向きを変えて、国民達の方を見る。


 シズクも、キッテの見ている方に顔を向けた。すると、大勢の国民達が、オムライスを半分に切り分けようとしていたり、二つの皿を用意していたりしている、姿が見えた。


「大変なんじゃないの? チュチュ。皆を手伝ってあげたいから、下に降りて」


 シズクは言ってから、その場にしゃがむと、チュチュの乗っている方の手を地面に付ける。


「いや~あ~。チュチュは女王様と一緒にいるむぅぅ」


 チュチュがシズクの手にしがみ付く。


「チュチュ?」


「チュチュはこう見えても寂しがり屋でな。懐くと、なかなか離れないんだ。シズク。それと、手伝いはしなくていい。折角の皆の気持ちだ。ここは、何もせずに、受け取ろう」


 キッテが優しい声で言った。


「キッテがそう言うなら、分かった。チュチュは、もう、しょうがないな。じゃあ、チュチュ、肩に乗っていて。皆がお皿を持って来てくれたら、すぐにでも受け取ってあげたいから。あ。でも、チュチュ。肩から落ちたりしないでよ?」


「あ~い~」


 チュチュが返事をして、とても嬉しそうに微笑んだ。シズクはチュチュの返事を聞くと、チュチュを自分の右肩の上に乗せる。


 国民達が、何やら大きな声を上げたので、シズクは、国民達の方を見る。国民達が半分に切り分けられたオムライスの載っている二つの皿を、自分達の体の上に持ち上げて、神輿(みこし)か何かのように(かつ)いで、キッテとシズクの方に、向かって来ようとしている姿が、シズクの視界の中に入った。


「皆、俺達は、一皿分でいい。よかったら、もう一つは、皆で食べてくれ。シズク。悪いが、シズクの分を俺にも分けてくれないか?」


「うん。いいよ」


 キッテとシズクの会話を聞いた、国民達が、感謝とお礼の声を上げる。


 シズクは、しゃがんだまま、国民達が近付いて来るのを待って、近くまで来た国民達から、皿を一つ受け取りつつ、皆。ありがとう。と言ってから、キッテが物を食べるって、なんか、不思議。昔は、ただのぬいぐるみだったのに。目が覚めた時も、驚いたけど、これからも、キッテには、違うか。キッテとこの世界には、驚かされそう。と思った。


「チュチュも~。チュチュも食べるむ~」


 国民達の感謝とお礼の声に交じって、チュチュの声が聞こえて来た。


「チュチュ。じゃあ、皆のとこ行って来な」


 シズクは空いている方の手を右肩に近付けた。


「女王様はチュチュが嫌いむ?」


 掌の上に乗ったチュチュを、地面の上に降ろそうとすると、チュチュが目をうるうるとさせ、上目遣いで、シズクの目をじっと見つめて言う。


「急に何?」


「女王様とキッテ様と一緒に食べたいむ」


「すぐそこで、皆も食べるんだから、一緒じゃない」


「違うむぅ~。こっちのお皿のを食べたいむぅ~」


「まったく。チュチュはかわいいな」


 キッテが言う。


「チュチュがかわいい? そうかな」


 シズクは、チュチュは、変態だからな。そこがなければかわいくっていい子だとは思うけど。キッテったら、チュチュが変態だって知らないから、かわいいなんて言っているんだ。と思ってからそう言った。


「女王様。それは、どういう意味む?」


 チュチュが、かわいい顔を悪そうな顔にして、言ってから、唇を、ぶちゅむぅー。と言って、突き出す。


「べ、別に。そんな事より、チュチュ。私達と一緒に食べたいなら、こっちに乗り移って」


 シズクは、チュチュったら、私を脅すなんていい度胸。絶対にほっぺにちゅーなんてさせないから。と思いつつ言って、チュチュの乗っている手を皿に近付ける。


「乗り移ったむ」


「じゃあ、オムライスを分ける」


 シズクは言い、皿の上に載っているスプーンで、オムライスを切り分けた。


「シズク。先にもらうぞ」


 キッテが皿に顔を近付けると、大きな口を開け、三つに切り分けたオムライスのうちの一つを、豪快かつ器用に、一口で食べた。


「うん。相変わらず、皆の作るオムライスは絶品だ。昔、俺が、作り方を教えたのにな。もう、俺の作るオムライスよりもおいしいな」


「むぼぉぉ。キッテ様の口は相変わらず大きいむ」


 チュチュがきらきらと目を輝かせる。


「うん。キッテは本当に、口が大きい」


 シズクは言ってから、オムライスをスプーンですくい、口に運ぶ。


「おいしいむ?」


 チュチュが、不安そうな、心配そうな、顔をする。シズクは、まだ、口の中に食べ物が入っているので、何も言わずに、けれど、おいしいという気持ちを、しっかりと伝えようとして、大きく頷いた。


「よかったむ~」


 チュチュが嬉しそうに言って、また、目をきらきらと輝かせる。


 シズクは、こんなに目を輝かせて。チュチュって、いい子はいい子なんだろうな。でも、やっぱり、変態だからな。そこがとてもがっかり。ん? んん? この、オムライスの味。この味、母さんが作ったオムライスと同じ味がする。とチュチュの言葉を聞きながら思った。

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