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五十二 勝負

 暫くの間、誰も何も言わずに、荒涼とした大地を吹き抜ける風の音だけが、シズク達を包み込む。


「早速、始めたいダノマ。勝負の方法は」


 不意にダノマが口を開き、そこまで言って言葉を切ると、ナノマの顔をじっと見つめた。


「早く言うナノマ」


 ナノマが睨むような目でダノマを見返す。


「ちょっと待ったダノマ」


 ダノマが、何やら難しい顔をし始める。


「まさか、今、考えてるとかじゃないよねナノマ」


「そ、そんな事はないダノマ。ちゃんと前から考えてたダノマ。勝負の方法は、えっと、えっと、ダノマ」


「やっぱり今考えてるナノマ」


「そんな事はないってダノマ。えっと、そうだダノマ。じゃんけんダノマ。じゃんけんで決めるダノマ」


「じゃんけん?」


 シズクは思わず大きな声を上げてしまう。


「ダノマ。それはいくらなんでも、適当過ぎじゃないか」


 キッテが心配そうな顔をする。


「それは、運に任せ過ぎですわ」


 カレルが、呆れているような表情を、顔に浮かべた。


「ひょっとして、じゃんけんの必勝法とかを知ってるむ? チュチュにも、チュチュにも、教えて欲しいむぅぅぅぅ」


 なぜか、チュチュが、酷く興奮した様子で言う。


「じゃんけんの必勝法ダノマ? そんな物は知らないダノマ」


「ダノマ。それでどうやってナノマに勝つつもりナノマ。敵とはいえ、なんだか心配になって来たナノマ」


 ナノマが困ったよう顔になる。


「ふっ、ふん。大きなお世話だダノマ。ちゃ、ちゃんと勝つ方法は考えてるダノマ。四の五の言ってないで、さっさとやるダノマ」


 ナノマが困ったような顔を、シズクに向けて来たので、シズクは、ちょっとの間、ナノマの顔を見てから、ダノマの方を見た。


「ねえ、ダノマ。本当にそれでいいの? 負けたら消されちゃうかも知れないんだよ?」


「それでいいダノマ。ナノマシンに二言はないダノマ」


「本当の本当にいいの?」


「いいダノマ。心配してくれるのは嬉しいダノマ。でも、もう、決めた事だダノマ。さあ、勝負だダノマ。……。んにゃ。やっぱり、ちょっと待って、ダノマ。シズク。シズクに審判をして欲しいダノマ。シズクがその目で見て、それで、誰の意見も聞かないで、勝敗を決めて欲しいダノマ」


「え? なんで、急にそんな事言うの?」


 シズクは言ってから、でも、それくらいなら、してもいいよね? 大丈夫だよね? と思う。


「シズク。では、審判は任せるナノマ。誰の意見も聞かないで、シズクが勝敗を決めていいナノマ」


「う、うん」


 シズクは小さく頷いた。


「じゃあ、始めるナノマ」


「分かったダノマ」


「せーのダノマ」


「せーのナノマ」


「最初は、ぐーナノマ」


「最初は、ぐーダノマ」


「じゃんけんぽいナノマ」


「じゃんけんぽいダノマ」


 ナノマとダノマが同時に言いながら、手を出し合って、じゃんけんをした。


「うっしゃーダノマ。ダノマの勝ちダノマ」


 ナノマがちょきを出し、ダノマがぐーを出していて、ダノマが、大きな声で自分の勝ちを宣言した。


「ちょーっと待ったナノマー。今のは、後出しナノマ。ほんの少しだけど、ダノマのぐーは遅かったナノマ」


 ナノマが、ダノマの声に負けないくらいの、大きな声を出す。


「そんな事ないダノマ。ちゃんと同時に出したダノマ」


「嘘だナノマ。最初から、そのつもりだったんだなナノマ。この卑怯者ナノマ」


 ナノマがダノマに詰め寄った。


「ちょっと待ってダノマ。ダノマは正々堂々と勝負したダノマ。これは言いがかりだダノマ。シズク。シズクはどう思うダノマ? シズクにはどう見えていたダノマ?」


 ダノマが、シズクの方を見て、言った。


「私? 私には、二人ともちゃんとじゃんけんしていたように、見えていたけど」


 シズクは言って、キッテの方に顔を向ける。


「俺も、ちゃんとやってるように、見えたぞ」


 キッテが、なぜか笑いながら言い、カレルの方を見た。


「ダノマ。(はか)りましたわね。確かに、ダノマは後出しをしてますわ。シズクの目はごまかせても、わたくしの目はごまかせませんわ。キッテ。貴方も本当は、気付いてるはずですわ」


「それは、まあ、そうだが。よくやったんじゃないか。俺達、機械の目は僅かな差も見逃さないが、シズクには見えてなかったんだ。そして、勝負を決めるのは、シズクだ。誰の意見も聞かないでな」


 キッテが言って、シズクの方を見た。


「どういう事ナノマ? んんナノマ。ちょっと待ったナノマ。そういう事かナノマ。最初から後出しをする気で、あんな事言ってたって事かナノマ」


 ナノマが言いながら、かわいい顔を歪めて、悔しそうな顔にする。


「ダノマ。後出ししたの?」


「シズクにはどう見えたダノマ?」


「私には、さっきも言ったけど、ちゃんとやっているように見えた。けど、皆がこう言っているんだから、皆の方が正しいんだと思う」


「シズク。ごめんダノマ。本当は後出ししたダノマ。苦し(まぎ)れに、あんな事を言って、こんなふうにやってしまったダノマ。最初は、もう負けてもいいと思ってたダノマ。けど、途中から、どうしても負けたくない、消えたくないと、考えてしまったんだダノマ」


 ダノマが言い終えると、もう一度、ごめん。と言って深々と頭を下げた。


「もう、いいナノマ。ナノマの負けナノマ。最後の最後で、詰めが甘かったナノマ」


「じゃあ、ダノマは、消さないって事でいいの?」


 シズクは言い、皆の顔を見る。


「俺はそれでいい」


「わたくしもそれでいいですわ。ただ、些事(さじ)とはいえ、こんな事をしたのだから、しばらくは、監視を付けさせてもらう事になりますわね」


「チュチュは女王様に言う事に従うむぅぅ」


「チュチュオネイも女王様の言葉に従いますめ」


 皆が口々にそう言ったので、シズクは、皆。ありがとう。と言ってから、まだ頭を下げていたダノマの傍に行くと、ダノマの肩に手を乗せた。


「ダノマ。一つだけ、お願い。絶対に皆を裏切ったり、皆に酷い事をしたりしないで」


 シズクは、頭を上げたダノマの目を、真剣に見つめる。


「もちろんダノマ。絶対にそんな事はしないダノマ」


 ダノマが、強い意志のこもった声で言いながら、大きく頷いた。

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