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五十 ナノマとダノマ

 赤髪の少女が、シズクの腕から手を放すと、走ってどこかへ行こうとしたが、すぐに、チュチュ達の乗った猫ちゃんに追い付かれ、また、引っ掻かれて、さらに、何かに躓いて、短い変な声で、悲鳴のような物を上げながら、派手に転んだ。


「チュチュ。ストップストップ。もういいよ」


 シズクは言って、チュチュ達の傍に行く。


「シズク。無事でよかった。チュチュ。チュチュオネイ。ミーケ。よくやってくれた。ありがとう」


 キッテがシズクの傍に来て言った。


「当たり前の事をしただけですめ。女王様が無事で何よりですめ」


「チュチュはいつでも女王様の事を見つめてるむぅぅぅ。ぐへへへへへへへ」


 チュチュオネイとチュチュが言い、誇らし気な表情しつつ、シズクを見上げる。


「それで、ダノマ。貴方は何をしようとしてましたの? 事と次第によっては、こちらもそれなりの対応を、しないといけなくなりますわ」

 

 カレルが、まだ倒れている赤髪の少女、――ダノマの前に行ってそう言った。


「何もしようとなんてしてないダノマ。本当に、ただ話がしたかっただけダノマ」

 

 ダノマが体を起こし、体育座りをする。


「嘘むぅぅぅぅ。あの時の女王様を見る目付き、あの表情む。あれは女王様の魅力に取り憑かれた者の物だむぅぅぅぅ」


「チュチュ。いくらなんでも流石にそれはおかしいですわ。ダノマがどうしてシラクラシズクに魅力を感じるのですの? わたくしとしては、疑いたくはないけれど、シラクラシズクの事を、何かしらに利用しようとしてたんじゃないかと、推測してますわ」


「カレルは間違ってるむ。チュチュの目はごまかせないむ」


 チュチュが言い、ダノマを睨むように見る。


「そんな目で見ても、ダノマは嘘なんて吐いてないダノマ」


「ほほうむぅぅぅぅ。そういう態度をするのかむぅぅぅぅ。分かったむぅぅぅぅ。ミーケ。ちょろっと引っ掻いてやるむぅぅぅぅ」


 ミーケが、ミャムミャム〜と鳴いて、爪をぎらりと光らせる。


「分かったダノマ。分かったダノマ。ダノマが悪かったダノマ。嘘を吐いてたダノマ。本当はさらって行こうと考えてたダノマ。でも、話したいと考えてた事は本当だダノマ。ナノマに負けるのは時間の問題だと、悟って、最後に、旧世界の人間と、昔の事について、あれこれと話したいと考えてたダノマ」


 ダノマが言い終えると、チュチュが、ドヤ顔をして大きく頷いた。


「ほら~むぅ。やっぱりチュチュの言った通りむぅぅ」


「いやいやいや。あんた全然そんな事言っていなかったから。魅力に取り憑かれたとか言っていたから」


 シズクは思わずツッコみを入れてしまう。


「チュチュはぁ~、ちょっとぉ~、女王様がぁ~、何を言ってるかぁ~、分からないむぅぅぅ?」


 チュチュが、なぜか、ぶりっ子になって、すっとぼけた。


「空にいるダノマ達は、すべて、ナノマが乗っ取ったナノマ。後は、お前だけだナノマ」


 不意に、少女姿のナノマが、地面から生えるようにして現れて、そう言った。


「ナノマ。大丈夫なの? 怪我とかはない?」

 

シズクはすぐにナノマの傍に行く。


「シズク。ごめんなさいナノマ。ナノマのせいで怖い思いをさせたナノマ」


 ナノマがシズクを抱き締めた。


「え!? あ、ああ、うん。ナノマ、大げさだよ。私なら、全然平気だったから」


 シズクは、なんだかとっても恥ずかしく、照れ臭くなって、顔を俯けて言う。


「は〜? ちょっと何をやってるむぅぅぅぅ? 女王様。すぐにナノマから離れるむぅぅぅぅ。それにその仕草は何事むぅぅぅぅ?」


 チュチュが大きな声を上げた。


「うふふふふふふ。チュチュは黙って、そこで見てるがいいナノマ」


 ナノマが、勝ち誇ったような顔をして、チュチュの方を見る。


「まったく。貴方達と来たら、何をやってますの。今はそんな事より、そこにいるダノマの処遇ですわ。わたくしとしては、空にいる者達と同じように、ナノマに乗っ取らせる、正確に言えば、ナノマと同化させるのがいいと思いますわ」


「俺はそのままでもいいと思うぞ。大きさも、形も、そこまで旧世界の人間の姿を模してるという事は、本当に、旧世界の人間に、興味があったんだろうからな」


 キッテが言って、どこか、遠くを見るような目をしてから、優しい笑みを顔に浮かべた。


「その通りだダノマ。流石、キッテだダノマ。二度の大戦を経験してるだけの事はあるダノマ。言う事が違うダノマ」


 ダノマがすっくと立ち上がる。


「キッテは優し過ぎるナノマ。ナノマは、そこにいるダノマも、ナノマに乗っ取られた方が、いいと思うナノマ」


「なんか、ナノマ、ちょっと、雰囲気が変わったよね? 前はキッテの事、キッテ先輩って言っていたのに、今は、呼び捨てにしているし」


 シズクは、顔を俯けたまま、ナノマの腕の中から抜け出た。


「そんな事は、ないナノマ。いや、ちょっと、待ってナノマ」


 ナノマが言い、何かを考えているような顔をする。


「自我を持つと、性格も変わるからな。ナノマ。俺は全然気にしてない。ナノマの好きなように呼んでいいぞ。今回の、ダノマとの戦いの事だって、ナノマしか、ダノマに勝つ事はできなかったんだ。俺も、AIも、こうなる事、ダノマを無効化する事を望んでいたからな。ナノマには感謝してる。だから、シズク。ナノマを責めないでやってくれ」


 キッテが、言って、にこりと微笑んだ。

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