表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/74

四十九 ミーケの爪

 雲の中から、低く重々しい轟音が聞こえ、雲間から、稲光のような、閃光が迸った。


「何? 何が起きているの?」


 シズクは叫ぶようにして言う。


「あれは、ナノマシン達が鎬を削ってるのですわ。細かいナノマシン達の体が、激しくぶつかり合ったり、擦れ合ったり、そういう物が、ああいう現象を引き起こしてるのですわ」


 カレルが言ったので、シズクはカレルの方に顔を向けた。


「そんなの、全然駄目じゃん。もっと穏やかなのを想像していたのに」


 そう言って、カレルの方に向けていた顔を、シズクは、再び、空の方に向けた。


「ナノマ。もう、やめて。ナノマに何かあったらと思うと、私、心配で心配でしょうがないんだから」


 シズクは空に向かって大きな声で言った。シズクのその言葉に、反応したかのように、雲の内部に、白い閃光が走る。


「シズク。大丈夫ナノマ。心配はいらないナノマ。後少しでナノマが勝つナノマ」


「強がりはやめろダノマ。勝つのはダノマだダノマ」


「ダノマって、その名前と語尾はやめた方がいいナノマ。そんな格好の悪い物と、同じナノマシンだと、ナノマは思われたくないナノマ」


「うるさいダノマ。お前こそ、ナノマとか、弱々しくて、情けないダノマ。ダノマの方が強そうでいいダノマ」


 ナノマの、シズクに対する返答に続いて、そんなダノマとナノマの言葉が、空から降って来た。


「ねえ、喧嘩なんてしないで、仲良くできないの?」


 シズクは、もう一度空に向かって、大きな声を出す。


「これは、しょうがない事なのナノマ。先にシズクの事を持ち出して、ナノマを煽ったのは、ダノマの方だもんナノマ。放っておくと、何をするか分からないから、今やるしかないのナノマ」


「それは、嘘だダノマ。お前、ダノマの力が欲しいみたいな事を言ってたじゃないかダノマ。ダノマは本当は、こんな事はしたくないダノマ。おい。旧世界の人間ダノマ。お前の連れて来た、このナノマとかいう奴は、酷い乱暴者だダノマ。助けてくれダノマ」


 ダノマの助けてくれという思わぬ言葉に、シズクは、え? どういう事? と、空に向かって、言葉を返した。


「旧世界の人間ダノマ。ダノマは戦いなんてしたくないんだダノマ。ダノマは、ええっと、……。そうだったダノマ。ダノマはお前と話がしたいダノマ。とりあえず、不本意だが、今から、人の姿となって、そっちに行くダノマ。だから、攻撃とかはしないで欲しいダノマ」


「卑怯者ナノマ。劣勢だからって、シズクを巻き込もうとするなナノマ。行かせないナノマ」


「ベ、別に、劣勢じゃないダノマ。それに、巻き込もうなんてこれっぽっちも思ってないダノマ。適当な事を言うなダノマ。とにかく、ダノマは行くダノマ。まだ、ダノマ達の方が数が多いダノマ。ふふん。お前は、ここで、何もできずに、黙って見てるがいいダノマ」


 ダノマが言い、空を覆っていた灰色の雲の中から、大きさが、三、四メートルくらいの、円形の雲が一つ飛び出すと、地上にいるシズク達の方に向かって飛んで行く。


「カレル。キッテ。ナノマは、すぐには、そっちに行けないナノマ。シズクを守って欲しいナノマ」


「心配ないですわ。こっちは大丈夫ですわ」


「シズクの事はちゃんと守るが、あまり無茶はするなよ」


「カレル。キッテ。ありがとうナノマ。こっちが片付いたらすぐにそっちに行くナノマ」


 ナノマが言い終えると、今までの中で一番明るい、目を焼くほどの閃光が、雲の中で炸裂し、それを見ていたシズクの目は眩んでしまって、何も見えなくなった。


「うわっ。ちょっと、何も見えない」


「油断しましたわ。わたくしも、カメラに障害が発生していますわ」


「くっそう。俺も、目をやられた。あのタイミングでのあの光は、わざとだな。シズク。そこから動くな。すぐにそっちに行く」


 キッテの言葉に返事をしようとした、シズクの腕を、誰かが掴む。


「え? 誰? カレルさん?」


 シズクは、腕を掴んでいる何者かの姿を見ようと、両目を、腕を掴まれていない方の、片方の手で、擦りながら言った。


「残念ダノマ。お前の腕を掴んでるのはダノマだダノマ」


「シズク。大丈夫か? おい。ダノマ。シズクに何かをしたら、絶対に許さないからな」


 キッテが言い、唸り声を上げて威嚇する。


「ダノマ。やめるのですわ」


「シズク」


 カレルの言葉に続いて、ナノマの声が空から降って来る。


「チュチュ達がいるむぅぅぅ。チュチュ達は、特にチュチュは、女王様をこれでもかと見てたから、目はやられてないむぅぅぅ。そこの、日焼け女むぅぅぅぅ。女王様から離れるむぅぅぅ」


「チュチュの言う通りだめ。早く女王様から離れないと、ミーケの牙と爪が、お前に襲いかかるめ」


 チュチュとチュチュオネイの声がして、ミーケが、ミュフーン。と鳴く。


「うるさいダノマ。お前らみたいなちっこい奴らに何ができるダノマ」


「お姉ちゃん。行くむぅぅぅ。今言った言葉を後悔させてやるむぅぅぅぅ」


「分かっため。ミーケ。突撃めぇぇぇ」


 チュチュとチュチュオネイの勇ましい叫びが上がり、ミーケの、フシャーという鳴き声がする。


「うえっ。嘘? はやっ、猫ちゃんっ、つよっ。ちょ、ちょっと、やめてダノマ。分かったダノマ。ほんっとに、駄目ダノマ。傷が付いたダノマ。服が破れちゃったダノマ。いや、もう、許してダノマ~」


 猫ちゃんが激しく動き回る音や、猫ちゃんの爪が、何かを引っ掻くような音がしてから、ダノマが泣きそうな声で言った。


「何、これ? チュチュ達がやったの? これは、ちょっと、やり過ぎじゃない?」


 ぼんやりとだが、見えるようになったシズクの目に、赤色の長い髪が激しく乱れ、服を切り裂かれて、半裸になった褐色肌の女の子の姿が、飛び込んで来たので、シズクは思わずそう言ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ