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四十四 ナノマ、葛藤する?

 ナノマの悲しそうな顔を見て、シズクは、言ってはいけない事を言ってしまったような気になって、ナノマの言葉に、すぐには、言葉を返せなかった。


「シズク。どうして何も言ってくれないのナノマ? ナノマの事、嫌いナノマ?」


 ナノマの目に涙が浮かぶ。


「違う。違うの。そんな事ない。ナノマの事は好き。好きだけど、チュチュの事も、好きなの。だから、チュチュを放してあげて」


 シズクの言葉を聞いたナノマが、今までに見た事がないような、絶望したような顔をした。


「シズクのバカナノマ。もういいナノマ。チュチュちゃんと一緒にいなくなってやるナノマ」


 ナノマが言って、チュチュを持ったまま走り出そうとする。


「行かせませんわ」


 カレルが言い、ナノマの前に立ちはだかった。


「どいてナノマ。邪魔をするなら容赦はしないナノマ」


 ナノマがカレルを睨む。


「助けてむぅぅぅぅ。女王様〜」


 チュチュが言ってシズクの方を見た。


「チュチュ」 


 シズクは、言うが早いか、カレルの横に並ぶようにして立つ。


「シズク? シズクまで邪魔するのナノマ?」


 ナノマが信じられないというような表情を顔に浮かべた。


「そうじゃない。邪魔とかじゃない。邪魔とかじゃないけど」


 シズクは、どうすればいいの? どんどん変な方向に行っちゃってる。と思いながら言う。


「ナノマ。落ち着くのですわ。貴方は、今、自我を得たばかりで、混乱してるのですわ」


「混乱なんてしてないナノマ。ナノマはちゃんと自分の事は分かってるナノマ」


「いや。ナノマ、お前は、今、混乱してる。お前は、自分の中に生まれた感情という物を持て余してるんだ。俺にも経験があるから分かる」


 キッテが、シズクとカレルの傍に来て言った。


「ナノマはシズクの事が好きなだけなのナノマ。それのどこが悪いのナノマ?」


「誰も、その気持ちが悪いとは言ってない。だが、チュチュに対してお前がしてる事はいけない事だ。そんなふうにしたって、シズクは、お前の傍には行かない。むしろ、お前から離れて行くだけだ」


「そんな、そんなの噓ナノマ。シズク。シズクは、ナノマから離れてなんて行かないでしょナノマ?」


 ナノマが、シズクをじっと見つめる。


「離れてなんて行かない。だから、ナノマ。お願い。チュチュを放してあげて」


「放したら、シズクは、ナノマの物になってくれるナノマ?」


 ナノマが、酷く切羽詰(せっぱつ)まったような顔になって、そう言った。


「うん。分かった。ナノマが、チュチュを放してくれたら、私が、すぐに、ナノマの傍に行く。だから、お願い。チュチュを放して」


 しばしの間を空けてから、シズクが言った言葉を聞いたナノマが、何かに気が付いたような表情をしてから、顔をゆっくりと、俯かせる。


「シズク。手を出してナノマ。チュチュちゃんを」


「駄目むぅぅ。女王様はあげないむぅぅ。チュチュは、チュチュは、ここから動かないむぅぅ。女王様を失ってまで、チュチュは、助かりたいとは思わないむぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 チュチュが、その小さな体からは、想像ができないような、大きな声で叫んだ。


「はゔむぅぅぅーっ」


 チュチュが突然出した大きな声に、ナノマが驚いて、チュチュを握っていたナノマの手が開き、チュチュの体が落下し始めたので、またもや、チュチュが大きな声で叫ぶ。


「チュチュ」


 シズクは、落下して行くチュチュに向かって、咄嗟に手を伸ばしたが、間に合わず、チュチュの体が、シズクの指先を、かすめるようにして、通り過ぎて行く。


「ふう。危なかったですわ。間一髪でしたわね。チュチュ。大丈夫ですの?」


 地面にぶつかるであろうチュチュを直視する事ができず、目を閉じてしまっていたシズクの耳に、金属製の何かが、地面にぶつかるような音と、カレルの、そんな言葉が入って来た。


 恐る恐る目を開けたシズクは、カレルが、チュチュに向かって頭から飛び込んで行っていたと分かるような格好で、地面に倒れていて、精一杯に伸ばされている、カレルの両手の上に、ちょこんとチュチュが座っているのを見た。


「ナノマ。大丈夫か? AIは、カレルは、わざとやったんじゃないぞ。咄嗟にチュチュを助けようとして、お前を突き飛ばしてしまっただけだ」


 キッテが言ったので、今度は何? どうしたの? と思ったシズクは、キッテの声がした方に顔を向ける。すると、ナノマが、地面に、横向きになって寝転んでいる、キッテのお腹の上に、埋もれるようにして、倒れているのが見えた。


「カレル。チュチュちゃんを助けてくれて、ありがとうナノマ。キッテ。ナノマを受け止めてくれて、ありがとうナノマ。それから、シズクとチュチュちゃん。ごめんなさいナノマ」


 ナノマが立ち上がり、小さな、消え入るような声で、そう言った。

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