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四十二 天然色少女


 チュチュが、何やらぴょんぴょんと、シズクの掌の上で飛び跳ね始めたので、シズクは、チュチュに目を向けた。


「チュチュ。どうしたの?」


「チュチュも行くむぅ〜」


 チュチュが、今までよりもさらに元気に、ぴょんぴょんと跳ねながら言う。


「チュチュ。それは駄目だ」


「連れては行けませんわ」


「チュチュ。危ないから駄目め」


 キッテとカレルとチュチュオネイが一斉に言った。


 三人の言葉を聞いたチュチュが、跳ねるのをやめて、三人の顔を見るように顔と体を動かしてから、突然、崩れるようにして座り込む。


「行くむぅ。行くむぅ。絶対に行くむぅぅぅぅ」


 チュチュが、大きな声で言いながらうつ伏せになり、シズクの掌をぽくぽくと両手で叩き始める。


「うわっ。出た。チュチュの必殺技」


 シズクは、反射的にそんな言葉を言ってしまう。


「ちょっと、女王様。その言い方は酷いむぅ」


 チュチュがぱっと顔を上げて、今までの事は、何もなかったかのように、しゃっと切り替えて、怒ったように、そう言った。


「え~。だってさ~、この流れって、チュチュが駄々をこねて、チュチュの思い通りになる流れじゃん」


「それのどこが悪いむぅ。チュチュだって色々あって大変なんだむぅ。女王様にはない苦労がたくさんあるむぅ。少しくらい自由にさせてもらっても罰は当たらないむぅ」


 チュチュが、立ち上がって言ってから、女王様は分かってないむぅ~。という顔をして、頭を左右に振りつつ、大げさに溜息を吐く。


「チュチュが苦労?」

 

 シズクは、小首を傾げつつ、チュチュと出会ってからの事を、あれこれと思い出してみた。


「むぅぅぅ。してるむぅぅ。炊事洗濯、国防のお手伝いに、近所の小っちゃい子とか、おじいちゃんとかおばあちゃんとかの、面倒も見たりしてるむぅぅ」


「チュチュが? 本当に?」


 シズクは、うーん。チュチュが面倒を見る? どっちかっていうと、面倒を見られてそうだけど。と思うと、そう言った。


「本当むぅ。分かったむぅ。これから、家に戻ってチュチュの日常を見せるむぅ。皆もチュチュの真面目な姿を見に来るむぅ。それで、それを見て、感動して、チュチュを連れて行くむぅぅ」


 チュチュが言い、鼻息をむふーむふーと荒くする。


「チュチュ。チュチュが、いつも頑張ってるのは知ってるめ」


 チュチュオネイが優しい目をチュチュに向けた。


「チュチュ。俺も知ってる。だから、こそ、こっちに残って欲しいんだ。チュチュに何かあったら、国の皆が困ってしまうからな」


 キッテも優しい目でチュチュを見る。


「チュチュ。わたくし達について来ても、きっとつまらないですわよ。ここにいて、皆といた方が楽しいですわ」


 カレルが言って、微笑んでいるような表情をみせた。


「どうしてそんな事言うむぅ~。チュチュは行きたいのにぃぃむぅぅ。皆が反対ばかりするむぅぅ」


 チュチュが言い、くるくるくるっとその場で回って、ぱたんと、うつ伏せに倒れる。

 

 その姿を見て、シズクは、また、倒れた。チュチュってなんですぐに倒れるんだろう。と思った。


「ちょっと、女王様。チュチュは泣いてるむ。なんで何も言ってくれないむ。冷たいむ。何か言って欲しいむぅぅ」


 チュチュが、また、今までの事は、何もなかったかのように、しゃっと切り替えて、怒ったように、そう言った。


「いや、だって、ほら、チュチュって、いつも何かあると倒れるでしょ? それが気になっちゃって。それに、チュチュのそれって、噓泣きなんだもん」


「ヴぅむぅぅ。思わず、変な声が出ちゃったむぅ。でもそのストレートな物言い、ちょっと面白かったむぅ」


 チュチュが言って、えへへへ。と笑う。


 シズクは、チュチュの無邪気な笑い顔を見ていて、急に、なんだかとっても、心が和んだ気がした。


「そんなに見つめられると、困るむぅ~。照れるむぅ~」


 チュチュが体をくねくねと動かす。


「しょうがない。たまには、チュチュの味方をしてあげよっか」


 シズクは言ってから、キッテの方に顔を向けた。


「チュチュも連れて行ってあげよう」


「それは駄目だ」


「女王様。それはちょっとめ」


「何かあったら困りますわ」


「キッテとチュチュオネイには、女王命令ね。それで、えっと、カレル、さんには、お願い。ちゃんと私がチュチュの事を見てるから」


 シズクは言い終えてから、カレルに向かって頭を深く下げる。


「いや、だが、それは」


 キッテが困ったような様子をみせながら、そんな言葉を漏らす。


「命令ならば、仕方がないですめ。女王様。このチュチュオネイも一緒に行きますめ」


 そう言った、チュチュオネイの目が、ちょっとだけ、きらきらと輝いているように、シズクには見えた。


「しょうがない、ですわね。そんなふうに頼まれたら断れませんわ。わたくしも、チュチュの事はしっかりと見ててあげますわ。何かあったら、困りますもの」


 シズクは、あれ? カレルさんって、ひょっとして、ちょろいのかな? と思ったが、その事は心の奥にしまっておいた。


「ちょっと待った~ナノマ~」


 不意に、大きな声が聞こえて来たと思うと、見た事のない、一人の少女が、砂塵を巻き上げながら、物凄い勢いで、シズク達のいる方に向かって走って来る。


「え? 何? 私と同じサイズ? なんで?」


 シズクは、酷く驚きながら、少女の姿を見つめる。


「あれは、あの、大きさは、シラクラシズクと、同じくらいありますわ」

 

 カレルが、誰に言うともなく、独り言のように、そう言った。


「ナノマ~とか、言ってるむぅ。あれは、あいつは、ナノマむぅぅ」


 チュチュが、むぎぎぃぃーと、歯を剥き出して、なぜだか、とっても、悔しそうに、唸る。


「これは、凄いめ。我が国は、もう安泰だめ」


 チュチュオネイが、満面の笑みを顔に浮かべた。


「色と大きさを、そうしたのか」


 キッテが言って、ちょっと何かを考えているような顔をしてから、まあ、これも、いいのかも知れないな。と呟くように言った。

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