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四十一 鎹(かすがい)

 

 その場にいた全員の視線がチュチュに集まり、それに気が付いたチュチュの小さな顔が赤く染まり始める。

  

「そ、そんなに見つめられると、サービスしたくなるむぅ。ちょっとだけよむぅ〜」


 チュチュが言い、乗っているシズクの掌の上で何やらポーズを取り始めた。


「チュチュ。いい事言ったから見直しそうになったけど、全部台無し」


 シズクは、はふぅー。と、溜息を吐く。


「むきぃー。女王様の溜息むぅ。セクシィーむぅぅ」


 チュチュの鼻息が荒くなった。


「少し、きつく、言い過ぎたかも知れないな。チュチュ。気付かせてくれてありがとう」


 キッテが、お座りをすると、優しい目をチュチュに向ける。


「え? キッテ、今頃? チュチュは、もう、こんなに駄目駄目になっているのに、そこは無視なの?」


 キッテの仕草を見て、言葉を聞いて、シズクはそう言わずにはいられなかった。


「もう〜、女王様ったら、嫉妬は見苦しいむぅ」

 

 チュチュが嬉しそうに、体をくねくねと動かす。


「な、なんなのそれ。何が嫉妬よ。嫉妬なんてするはずないじゃん。この変態」


「シズク。そう言うな。チュチュは、俺達が和むように、わざと、バカそうな事をやってくれてるんだ」


「絶対にそんな事はない。絶対に」


「女王様。まだまだ人間観察が甘いむぅ」


「はあ〜? あんた喧嘩売っているの?」


「まったく。喧嘩するほど仲がいいというからな。だが、ほどほどにな」


 キッテが言ってから、深い溜息を一つ吐き、その場にいた皆の顔を見回した。


「俺はな、シズクには、自由に、自分の好きなように、生きて欲しいと思ってる。世界の事情なんて、気にしないで自由でいて欲しいと、思ってるんだ」


 キッテがそこまで言って、言葉を切り、顔を少し俯ける。


「シズクの両親が、シズクを冷凍睡眠させる時に、シズクを俺に任せると言ってくれたんだ。だから、俺には、シズクを見守る責任があると思ってる」


「キッテ」


 シズクは、この流れで、こんなふうに、急に、キッテの思いみたいな物を聞かされてもってなっていたけど、なんだか、胸がいっぱいになって来ちゃった。と思うと、ちょっと泣きそうになりながらキッテの名を呼んだ。

 

「キッテ。貴方の気持ちは分かりましたわ。けれど。申し訳ないとは思うのですけれども、わたくしは、自分の考えを曲げる事はできませんわ」


 カレルが、キッテの顔を真っ向から見据えた。


「キッテ。私」


 キッテの思いみたいな物を聞いたシズクは、どうしよう? どっちしたらいいんだろう。と悩み始めてしまい、呟くように言いながら、キッテの目を見つめた。


「シズクは、さっき、やりたいって言ってたよな。駄目だ駄目だと言ってたが、正直、俺にも、何が正解かは分からない。だが、シズクの好きにさせてやりたいとは思う。だから、俺は、シズクの意志を、尊重しようと思う」


 キッテが、顔をシズクの方に向け、シズクの目をじっと見つめ返して言う。


「キッテ。キッテも一緒に来てくれるんだよね?」


 シズクは、急に、キッテが遠くに行ってしまうような気がして、寂しくなった。


「もちろんだ。シズクが来るなって言ったって、俺は一緒に行くぞ」


「来るななんて言わないもん」


 シズクは、よかった。と心の底から思いつつ言葉を出す。


「では、決まりですわね。それで、後は、いつ行くかという事ですけれども」


 カレルが、シズクと、キッテの顔を交互に見る。


「待って。行くのは、ナノマが戻って来てからにして」


 ナノマをこのままにしては行けない。と思うと、シズクは大きな声でそう言った。


「もちろん、わたくしもそのつもりですわ。ナノマの動向は、わたくし達のナノマシンから聞いて知っていますわ。シラクラシズクの力にとってナノマの存在はとても重要ですもの。ナノマにも一緒に来てもらうつもりですわ」


「ナノマは、確かに、私の事を守ってくれているし、色々やってくれているから、私とって重要だけど、私と一緒に行くかどうかは、ナノマに決めてもらいたい。私の事にナノマを巻き込みたくない」


 シズクは、カレルのレンズのような物でできている目を、その奥にある何かを見ようとするかのように、じっと見つめる。


「それは、強制はしたくはないのですけれども、ナノマは貴方の力を向上させますわ。ただでさえ、脅威となる貴方の力がナノマの力で何倍にもなるのですわ。その辺りの事もしっかりと、この目で見ておきたいと思ってますの」


「それだけじゃないんじゃないか? 暗黒大陸の調査では、ナノマの力が必要になるからだろ?」


 キッテが言って、探るような目でカレルを見る。


「別に、その事を隠すつもりはありませんでしたわ」


 カレルが言い、キッテの言葉を聞いて、キッテの方に向けていた顔を、シズクの顔の方に向けた。


「暗黒大陸と呼ばれる場所を暗黒大陸たらしめてるのは、先の大戦の末期から、その地域を覆い尽くしてるナノマシン達の存在なのですの。先の大戦中に兵器として開発されたナノマシン達なのですけれど、旧世界の人類や、わたくし達では、どうする事もできなくて、何も手出しができないという状態なのですわ。ナノマが来てくれれば、あのはぐれナノマシン達をなんとかできるかも知れない、とわたくしは思ってるのですわ」


「本当に、ナノマがどうにかできるの?」


 シズクは、ナノマが危なくなるような事だったら、ナノマが行きたいって言っても、絶対に行かせないようにしないと。と思いながら言う。


「ナノマはキッテの管理から離れた事によって、自主性を手に入れてますわ。それに、今度は、自我すらも持つ事になってるかも知れないのですわ。そんなナノマなら、暗黒大陸を覆い尽くしてるナノマシン達を、説得できるかも知れませんわ」


「説得ができるかも知れない? それって、話し合いをするとかって事?」


「そうですわ。暗黒大陸のナノマシン達は、かなり生意気なのですの」


 カレルが言ってから、もう本当に嫌になりますわ。というような顔をした。


「戦うとかじゃなくって?」


「そうですわよ。兵器として生まれたとはいえ、もう戦争は終わってますわ。だから、あの子達も、いまさら、戦いなどは望んではいませんわ。ただ。あの子達は戦闘中に独自の判断で行動できるようにと、元々自主性を持たせていましたの。それが、仇となってしまってるのですわ。そのせいで、今の自由な在り方を曲げたくないと言ってて、こっちの言う事を聞かないのですの」


 なんか思っていたのと全然違うみたい。ちょっと、私も、話とかしてみたいかも。それに、そうだ。ナノマのナノマシン仲間が増えるかも知れない。そうしたらナノマは喜ぶかな? とシズクは思った。

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