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三十八 会話

 シズクは、口を開いては閉じるという動作を何度か繰り返した後、思い切って、どうしてそういう容姿をしていて、そういう話し方をするのかと聞いた。


「そういえば、人類にカレルという名前で呼ぶようにと言った事と、キッテに、カレルという名前では呼ばないでと言った事はあったけれど、わたくしの、姿や話し方に関しては、誰にも何も話した事はないですわね」


 カレルが言ってから、何やら考えているような顔になる。


「べ、別に、嫌ならいいの。なんていうか、表情とかは、ちゃんと分かるのに、どうして、そんなふうなんだろうって、思って」


 シズクは、そう言った後で、そんなふうなんだろうなんて、言っちゃって、私、随分と、酷い事を言っているよね? と思った。


「二人きりで、話をしてくれるのなら、その事に関して話をしてもいいですわ」


 カレルが言い、いたずらっ子のような笑みを顔に浮かべると、シズクの掌の上にいたチュチュが、カレルをぎろりと睨み、フーッ。フーッ。シャー。シャー。と猫ちゃんが威嚇をする時に出すような声を出す。


「カレル。それは駄目だと言ってるだろ。シズクだけでは、お前が正しい事を言ってるのか、間違えた事を言ってるのかが判断できない。お前に悪意がなくとも、シズクが何かしらを誤解したりする可能性がある」


「そもそも、さっきからどうして女王様と二人きりになろうとするのですかめ? 女王様の行動に対して何かを言うのも、自分の容姿や言葉遣いに関して何かを言うのも、女王様と二人きりじゃなくてもできる事ではないのですかめ?」


 キッテの言葉に続けるように、チュチュオネイが言ってから、目を細め、鋭い視線を、カレルに向けた。


「そ、それは、あれですわ」


「あれって何むぅぅ。シャー。シャー」


 チュチュが四つん這いになって、猫ちゃんが威嚇する時のような恰好をしてから、声を上げる。


「あ、あれは、あれですわよ」


「あれじゃ分からない。何があるんだ? 俺達には言いたくない事なのか?」


 キッテがじっと、カレルを見つめた。


「あれは、ええっと、あの、そう、そうですわ。こ、この世界の者達には言えない事なのですわ。シラクラシズクは、この世界の者ではないので、話せる事があるのですわ」


 カレルが言い終えると、うん。これはいい事を言えましたわ。もう、これなら納得しちゃいますわよね? というような顔をした。


「それはおかしい。俺も旧世界からの生き残りだ」


「カレルは女王様にぐへへへへな事をしようとしてるむぅぅ。だからそんな事を言ってるむぅ」

  

「カレル。女王様に何かをする気なら、騎士団はカレル相手でも戦うめ」


キッテとチュチュとチュチュオネイが、タイミングを(はか)ったかのように、順番に言う。


「もう、ほんっとに、しつこいですわね。分かりました。分かりましたわ。キッテだけ。キッテだけなら、一緒にいていいですわ。チュチュとチュチュオネイは駄目ですわ」


 カレルが、悔しそうな顔をしながら、地団駄(じだんだ)を踏まんばかりの勢いで言った。


「ずるいむぅ」


 チュチュが()ねる。


「チュチュ。キッテ様が一緒なら女王様は大丈夫め。チュチュオネイと一緒に話が終わるのを待とうめ」


 チュチュオネイの言葉を聞いたシズクは、チュチュを乗せている手を、チュチュオネイの乗っている、猫ちゃんの背中に近付ける。


「チュチュ。ごめんね。話が終わるまで待っていて」


「いや〜あ〜。チュチュも女王様と一緒にいるむぅぅぅぅ」


 チュチュがシズクの掌の上で転がり始める。


「チュチュ。女王様を困らせてはいけないめ」


 チュチュオネイがチュチュを(なだ)めるが、チュチュがそれに逆らうように、いっそう激しく転がった。


「あ〜」


 勢い余ったチュチュの体が、シズクの掌の上から落下し、チュチュが間抜けな声を出す。


「危ないめ」


 チュチュオネイが叫び、素早い反応をみせて猫ちゃんを動かして、チュチュの体を猫ちゃんの背中で受け止めた。


「おお。チュチュオネイナイスキャッチ。チュチュ。大丈夫か?」


 キッテが顔をチュチュに近付けて言う。


「だ、駄目むぅぅ。女王様と一緒にいないと、チュチュは~、チュチュは~」


 チュチュが猫ちゃんの背中の上でごろごろと転がった。


「チュチュ。今度落ちたら助ける事はできないめ。だから、大人しくしなさいめ」


「いや~あ~。チュチュも~、チュチュも~」


「もう。分かりましたわ」


 カレルが深い溜息を吐きつつそう言った。


「何が分かったむぅぅ?」


 チュチュが転がるのをやめて言う。

   

「ここで話しますわ。チュチュもチュチュオネイも、ここにいてもいいですわ」


「女王様。そういう事になったので、チュチュを早速手の上に乗せるむ」


 チュチュが、何事もなかったかのように、猫ちゃんの背中の上で、すっくと立ち上がる。


「チュチュ。ちょっと、わがまま過ぎなんじゃない? なんでも思い通りになると思うといけないから、私はチュチュの言う事は聞きません」

 

 シズクは、なんだか、カレルがかわいそうな気がして来たので、チュチュに、ちょっと意地悪をしてみた。


「女王様が冷たいむぅぅ~」


 チュチュが大きな声で言い、くるくると回ってからぱたんと倒れ、うわ~ん。と言いながら泣き出した。

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