表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/74

三十六 AI

 キッテの後について歩いて行くと、小さな家々が立ち並ぶ、国民達の暮らす街を抜けた先にある、国民達が作った山のようになっている所と、街との間にある広場の方から、何やら大きな声が聞こえて来た。


「なんか、喧嘩している?」


「シズクの行動について、AIが言った事に対して、チュチュ達が文句を言い出しててな」


「そんな事をして大丈夫なの?」


「大丈夫だ。AIの方は、チュチュ達に何かをする気はない。管理してると言ったが、害を与えるような事は決してしないんだ」


 シズクは、それならよかった。と言ってから、そういうところは、結構優しいAIなのかも。と思う。


 キッテが、広場の中に入ってお座りをすると、大きな声が止んだ。シズクは、キッテの背後に体を隠し、ちょこんと横から顔だけを出すようにして、広場の様子を伺った。


チュチュとチュチュオネイが、横に並んで立っていて、その後ろに、猫達と騎士団の皆がいるのが見えたが、キッテの体が邪魔をして、チュチュ達の向かい側にいるであろう、AIの姿は見えなかった。シズクは、こっちからなら見えるよね。 と思うと、顔を一度引っ込め、反対側から、また、ちょこんと出す。


「キッテ。やっと戻って来ましたわね。わたくしを待たせるなんて、そんな事が許されるのはキッテだけですわ」


 シズクは、目に映った者の姿と、その者が言った言葉とを聞いて、きょとんとしてしまう。


「何を言ってる。シズクを連れて来てやったんだ。文句を言うな」


 キッテが言って、シズクの前からどくために、体を横にずらそうとする。シズクは、顔を引っ込めると、キッテの動きに合わせるようにして横に動き、キッテの背後から体が出ないようにする。


「キッテ。何をやってますの? それではシラクラシズクの姿が見えませんわ」


「ん? シズク?」


「だって。なんか、どうしていいか、分からないんだもん」


 シズクは言い、チュチュ達の住む家と同じくらい、五十センチくらいの大きさの、人らしき形をしてはいるが、髪の毛を模しているのか、頭部からはたくさんの、長さも色も形も違う配線のような物が垂れ下がっていて、体自体も、何かしらの機械の寄せ集めのような物で作られていて、その体のあちらこちらからは、何かしらの部品のような物が飛び出していて、顔の目や鼻や口らしき部分も、レンズのような物や、メッシュ状の何かで無理やりに作ったというような感じの、とても、不格好で、不細工で、不気味で、見る者によっては、恐怖と嫌悪とを覚えるような姿をしているAIを、キッテの背後から、こそっと、少しだけ顔を出して、じっと見つめた。


「シズク。別に何もしなくていい」


「あ、あの、えっと、えっと、なんで、あんな姿なの?」


 シズクは、キッテだけに聞こえるようにと、小声で言う。


「あれか? どうしてああなったのか、本当のところは、俺にも分からない。昔は、あんな格好は、してはいなかったんだがな。長い時間をかけて、ああなって行ったんだ」


 キッテもシズクに合わせたのか、小さな声で言った。


「そう、なんだ。じゃあ、ええっと、その、あの、話し方は?」


 シズクは、AIから、視線を外さずに言葉を出す。


「あれも、よく分からない。姿と一緒で、昔は、あんなふうじゃなかったんだけどな。いつの頃からか、あんなふうな言葉遣いになってたんだ」


「こんな事言ったら悪いとは思うけど、壊れていたりはしないんだよね?」


「機能的には、問題はない。この世界を管理するためによくやってる」


「何をこそこそ話してますの?」


 AIが言い、シズク達の方に近付いて来る。


「シズクが、その姿を見て、驚いててな」


「ちょっと、キッテ。そんな事言わないでよ」


「驚いてるとはどういう事ですの? わたくしのこの姿に何か問題でもありまして?」


 AIが言いながら、シズクの傍に来て足を止めた。


「ああっと、ええと、違うの。ちょっと驚いたのは本当だけど、なんていうか、その」


 シズクは、途中から何を言えばいいのかが分からなくなって、口を閉ざして、顔を俯ける。


「これは、なんだか、寂しい反応ですわ。今のこの世界にある、どの国の国民達も、貴方みたいな反応はしなくってよ」


 シズクは、顔を上げて、AIの目であろうと思われる、左右で大きさの違う、レンズのような物を見つめた。


「シズクは、お前みたいなのとは違うAI達と、長い間接して来ていたんだ。お前みたいな変わり者を見たら、驚いて当たり前だ」


「変わり者? 変わり者? ……? 確かに、そう言われると、その通りかも知れませんわ。こんな姿をしたAIは他にはいませんものね」


 AIが言って、自身の姿を見るような仕草をする。


「ごめんなさい」


 シズクはそう言って頭を下げた。


「どうして謝りますの?」


「だって、私、その姿を見て、なんていうか、ええっと、なんか、どうして、そんな姿なんだろうって、思って、それで、あの、えっと、あんまりいい事を、考えなかったっていうか」


「あら。まあ。正直ですわね」


 AIの不格好な顔の部品が動き、笑ったような表情になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ