二十九 チュチュ、空を飛ぶ?
シズクは、キッテ達や国民達と山のようになっている所の外側に出て、ンテル達と烏達が、旅立って行く様子を見送ると、国民達が山のようになっている所の中に入るのを待ってから、自身も国の中に戻った。
「キッテ。なんだか、少し、疲れたかも。部屋に帰って休んでいい?」
シズクは、並んで歩いている、キッテに向かって言う。
「もちろんだ。色々あったからな。ゆっくりした方がいい。そうだ。シズク。いまさらだが、その天使のような格好はなんなんだ?」
キッテが、シズクの頭の上の輪っかを見つめて、そう言った。
「これ? そっか。忘れていた。これはナノマが私を守るためにやってくれたの。頭とか体とかを守るのに都合がいい形なんだって」
「なるほど。頭は輪っかで、体は翼でか。それにしても、シズクが、天使とはな」
キッテが、何かを含んでいるような表情をして、にやにやと笑った。
「あー。キッテ。何その顔。絶対にバカにしている顔だー。もうー。最低」
「そんな事はないぞ。天使とは実にシズクらしいと思ってたんだ。国民達を守る力があるんだからな。シズク王国の守護天使というところだな」
「守護天使?」
「そうだぞ。だから、今以上に頑張るようにな」
シズクはキッテを、わざと大げさに、ぎろりと睨む。
「そんな事言っても休むからね。ごろごろしながら、お菓子を食べつつ、小説読むんだから」
「分かってる。だが、まあ、何かあった時は、呼ぶかも知れないからな。すまないが、その時は、お菓子と小説は我慢してくれ」
「はいはい」
シズクは、返事をすると、肩の上に乗っている烏ちゃんの方を見る。
「烏ちゃんは、どうする? うちに来る?」
「かあー」
烏ちゃんが鳴いて頷く。
「じゃあ、おいで」
「チュチュも行くむぅぅ」
キッテの頭の上に座っていた、チュチュが言った。
「チュチュ。すまないが、チュチュは行かせられないんだ。シズクの部屋には、今のこの世界には存在しない物が色々あってな。それらの物が、チュチュ達によくない影響を与えてしまうかも知れないと、この世界を管理してるAI達から言われててな」
キッテが、チュチュを見ようとしているかのように、両目を上に向けながら言う。
「むゔーん。酷いむぅぅ。チュチュも行くむぅぅ」
チュチュが、キッテの頭の上で、服を脱ぎ始めた。
チュチュったら、また服を脱いで。これはきっとチュチュ汁を出すつもりだ。汚れちゃうから、おっと。そうだ。部屋に来られても、チュチュ汁があるんだもんね。ここは、関わらないようにしておこうっと。とシズクは、チュチュを見ながら思う。
「この世界にはない物があるナノマ? シズクとは、シズクが起きる前から一緒にいるけど、キッテ先輩からの命令があったから、部屋の中とかは、ほとんど見てなかったナノマ。今は、キッテ先輩からの命令がなくなって、自由になってるから、どんな物があるかの見てみたいと考えてるナノマ。ナノマもシズクと一緒に行きたいナノマ」
小さなオウギワシの姿で、シズクの頭の上を飛んでいた、ナノマが言った。
「うん。ナノマもおいで」
「チュチュも~。チュチュも行くむぅぅ」
「チュチュ。キッテ様が駄目だと言ってるめ。我慢しなさいめ」
キッテを挟んで、シズクの反対側を、猫に乗って進んでいた、チュチュオネイが言う。
「いや~あ~。チュチュも行くむぅぅぅ」
チュチュが、キッテの頭の上で横になり、ごろごろと転がり始める。
「チュチュ。俺が好きなだけ遊んでやるから。だから、な。頼むから機嫌を直してくれ」
キッテが優しく言った。
「むうぅぅぅん。でも~。でも~」
「じゃあ、ナノマも、こっちに残るナノマ。一緒に遊ぶナノマ。キッテ先輩の手伝いをするナノマ」
ナノマが言い、キッテの方に飛んで行って、キッテの背中の上にとまった。
「変な鳥はいらないむぅぅ。女王様と一緒がいいむぅぅ」
チュチュの転がる速度が速くなる。
「ねえ、キッテ。どうしても、駄目なの? なんか、このままじゃチュチュがかわいそう」
シズクは、チュチュの事がかわいそうになって来てしまい、思わずそう言ってしまった。
「そんな同情はいらないむぅぅ。女王様は、チュチュの見てない所で、泥棒烏と浮気するつもりなんだむぅぅ。チュチュは捨てられたむぅぅ」
「え? ちょっと、チュチュ?」
不意に烏ちゃんが、かおかあ。と鳴いたので、シズクは、急にどうしたんだろう? と思い、烏ちゃんの方に顔を向けた。烏ちゃんと目が合うと、烏ちゃんがもう一度、かあかあ。と鳴いて、シズクの肩から離れ、キッテの背中にとまった。
「なんだむぅぅ。この泥棒烏めぇぇ、何しに来たむぅぅ」
烏ちゃんが、とんとんとんっと、キッテの背中の上を歩いて、チュチュの傍に行くと、チュチュに向かって、かあかあかあ。と話しかけているかのように鳴く。
「何か文句でもあるむぅぅ?」
チュチュが言い、なぜかスクワットをし始める。
烏ちゃんが、また、かあかあかあ。と鳴く。
「何を言ってるのか全然分からないむぅ」
チュチュがスクワットをやめると、今度は、腕立て伏せをし始める。
烏ちゃんが、またまた、かあかあかあ。と鳴いた。
「しつこい奴むぅぅ。もう、こうなったらこうしてやるむぅ」
チュチュが横になり、烏ちゃんに向かって転がって行く。
烏ちゃんが、自分の前に転がって来たチュチュを、ぱくりと嘴で咥えると、くるっと首を回し、上に向かって放り投げた。
「ぶぼーむーん。何をするむゔぅーん」
叫びながら落下して来たチュチュを、烏ちゃんが背中で受け止め、かあ。かあ。と鳴きつつ、チュチュを乗せたまま、キッテの背中の上を、歩き回り始める。
「むゔぅー。どこに連れて行くむぅぅぅ?」
チュチュが烏ちゃんの背中の上で、器用にもごろごろと転がり始める。
烏ちゃんが、かあかあ。と鳴いて翼をばたばたと動かした。
「何がしたいむぅ? 空でも飛ぶつもりむぅ? そんな事してもちっとも怖くないむぅ」
烏ちゃんが、かかかあ。と鳴き、すっと空に舞い上がる。
「うわーむぅぅ。飛んでるむぅ。凄いむぅ」
チュチュが、はしゃぎながら、大きな声を上げた。




