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二十八 烏ちゃん達

 シズクは足を止めると、顔をチュチュオネイ達の声がした方向に向けた。


 猫に乗って走って来ている騎士団と、その背後から、自分の足で、猛烈な勢いで、やっぱり走って来ているチュチュと、さらに、その背後から、走って来ていた、キッテの巨体が、シズクの視界に入って来る。


「皆。たっだいまー」


 シズクは大きな声で言い、右手を上げて、手を振った。


「お帰りなさいめ」


「チュチュは、お帰りなさいなんて言わないむぅ。そんなにちょろい女じゃないむぅぅ」


「シズク。どうしたんだ? 烏が増えてるじゃないか」


 シズクの言葉に、三者三様の言葉が返って来る。


「ああ。そうだ。烏ちゃん達の事、説明しないと」


 シズクは言って、走って来ている皆が、傍まで来るのを待つ。


「女王様。改めて、お帰りなさいめ。騎士団一同、女王様のご帰還を、心から喜んでいますめ」


 チュチュオネイ達騎士団が、近くに来ると、チュチュオネイが言って、騎士団の全員が猫から降りて、地面に片膝を突き、頭を下げた。


「ありがとう。皆、立って、それで、頭を上げて」


「女王様。これからどうしますかめ? 何か騎士団にできる事はありますかめ?」


 立ち上がり、頭を上げたチュチュオネイが、シズクを見上げて言う。


「女王様。説明をして欲しいむぅぅ。その泥棒烏達は何者むぅぅ」


 チュチュが、チュチュオネイ達の前に(おど)り出て、大きな声を上げる。


「シズク。なんだか大変そうだな」


 チュチュオネイ達の後ろに、お座りをした、キッテが言って微笑む。


「シズク。ここは、早速、手伝うナノマ。ナノマが説明するナノマ」


 シズクとチュチュ達との間に、降り立ったナノマがそう言った。


「なるほど。そういう事か。シズク。ちゃんと世話はできるのか?」


 ナノマが説明を終えると、キッテがシズクの顔をじっと見つめて言う。


「ナノマにも手伝ってもらうけど、頑張ってやってみる」


 シズクは、キッテの目を見て言った。


「騎士団全員も手伝いますめ」


「チュチュは、反対むぅ。女王様が忙しくなったら」


 チュチュオネイの言葉に続けるようにして、チュチュが口を開いたが、そこまで言って、慌てた様子で口を閉じる。


「シズク。少し見ない間に、なんだか、頼もしくなった気がするな。これが、人が成長するという事、なのかも知れないな」


 キッテが言い、目を潤ませる。


「え? ちょっと、キッテ?」


 シズクは、もう、キッテは大げさなんだから。と思う。


談笑(だんしょう)中にすまないす。余からお願いがあるす」


 いつの間に、近くまで来ていたのか、キッテの横にちょこんと姿を現した、ンテルが言った。


「お願いって、烏ちゃんに何かしたら怒るからね」


 シズクは、まだ、帰ってなかったんだ。と思いながら言う。


「あほーあほー」


 ンテルの方を見た烏ちゃんと、その仲間達が、一斉に鳴き声を上げた。


「何もする気はないす。ただ、その烏達を、余に、余の国に、与えて欲しいす」


「へ? 何言ってんの?」


「その数の烏達の面倒を見るのは、大変だと思うす。資源の問題なども、発生すると思うす。だが、余の国なら、猫達を飼うために準備した、資源があるす。国民全員をあげて、飼うす。だから、どうか、お願いするす」


 ンテルが深く頭を下げる。


「頭を上げて。そんなふうに頼まれても、この子達をあげるなんてできない」


 シズクは、そんな事駄目に決まっているじゃない。烏ちゃん達を、人にあげるなんて、できるわけないじゃん。と思う。


 烏達が、何やら話をしているかのように、顔を突き合わせて鳴き始め、しばらくの間、鳴き続けていたが、一斉に鳴き止むと、烏ちゃん以外のすべての烏達が、シズクの周囲から離れて、ンテルの方に飛んで行った。


「かあかかかかあ」


 シズクの肩に乗っている烏ちゃんが、シズクに向かって鳴く。


「烏ちゃん?」


「これは、余の国に、来てくれるという事かす?」


 ンテルが頭を上げて言う。


「かあーかあー」


 ンテルの方に行った烏達が、一斉に鳴いた。


「これって、烏ちゃん以外の子は、行っちゃうって事、なの? 離れ離れになっちゃうんだよ? 寂しくないの? それで、本当にいいの? 皆、遠慮とかしないでいいんだよ? ここに残っていいんだよ? ちゃんと世話はするんだから」


 シズクは、烏ちゃんと、その仲間達の顔を見ながら言う。


 ンテルの傍に行った烏達のうちの一羽が、ンテルに近付き、ンテルを(くちばし)(くわ)えると、くるっと、頭を回して上に放り投げ、ンテルを自分の背中に乗せて、かあかあかあ。と鳴いた。


「びっくりしたす。だが、烏よす。ありがとうす。帰りたくなったら、この国に、いつでも帰ればいいす。国の間の移動に、制限などを設けるつもりはないす。だから女王。お願いするす」


 烏の背に乗ったままのンテルが、烏の体を撫でながら言って、もう一度、頭を下げた。


「頭を上げて。私に、お願いなんて、しなくていい。烏ちゃん達が、これでいいって、言うのなら、私は、それでいい。ただ、一つだけ、お願い。その子達を、大事にしてあげて」

 

 シズクは言い、烏ちゃん達が、それでいいなら、私が、これ以上、何かを言う事は、ないよね。でも、皆が、行っちゃうのは、少し、んーん。かなり、寂しいかも。と思いながら、烏ちゃんの頭を撫でた。

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