表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/74

十九 大きなお世話

 ンテルの乗るマシーネンゴットソルダットが、シズクの乗るキッテの傍に来て足を止める。


「その烏は周りにいる仲間達が逃げ惑う中、一羽だけで、あの自身よりも、大きな鳥に向かって行ったのだす。気高く強い心を持った烏なのだす」


「そこは、そうかも知れないけど、あんなにたくさん仲間を連れて来ていたんだよ? 本当に強い子だったら一人で戻って来ると思うけど。それに。元々は、あんたが悪いんでしょ。なんでそんなに偉そうなの」 


 シズクは言い、ンテルの方に顔を向けた。


「女王。お前はどうしてそうなんだす? 確かに、お前の言う事は、道理を得ているような気はするす。だが、なんというのか、物事というのは、そんな、簡単に、決め付ける事ができる物ではないはずだす」


「どうしてそうなのか、なんて、言われても分かんない。私は、ただ、思った事を、そのまま言っているだけだもん」


 ンテルが、片手の指と(てのひら)を、自身の(あご)と、唇の辺りに当てる。


「女王よす。もっと、色々な可能性の事を考えてみたらどうだす? 今ならば、その烏の事や、余の事でだす。その烏の行動から、何かしらを想像する事はできるはずだす。余の事もそうだす。様々な事を想像してみれば、考えてみれば、また、違った言葉が、頭の中に浮かんで来ると思うす」


「色々な可能性?」


「そうだす。女王よす。お前の頭は固いと思うす。もっと柔軟に、物事を考えた方がいいと思うす」


「そんな事をして、私になんの得があるの?」


「損か、得かかす。損も得もないのだがなす」


「何それ? もう、何が言いたいのか全然分かんない」


 シズクは、もう。面倒臭いな。と思う。


「女王よす。今の固い頭のお前の言葉には、余裕や、相手に対する気遣いみたいな物が、ないような気がするのだす。女王なら、そういう事も大事だす。ただ、自分が正しいと思っている事だけを、そのままの言葉で、言っているだけでは、民達はついては来ないす」


「大きなお世話だと思うんだけど」


 シズクは唇を尖らせる。


「確かに、その通りかも知れないなす。だが、余も、お前と同じような立場にいるからなす。どうも、お前を見ていると、色々と言いたくなってしまうようだす。女王よす。お前のその不慣れな様子というか、幼い様子というか、そういう物が、余の昔の姿に重なっているような気がしてなす。ついつい、余計な事をしてしまっているのかも知れないす」


「そんなふうに言われると、なんか、文句が言い辛くなる」


「シズク。ンテルの話を聞くのは、シズクの勉強になるかもな」


 キッテが言ったので、キッテの顔の方に目を向けると、キッテが、優しい目をシズクに向けて来る。


「勉強って。勉強なんてする意味ある? こんな世界なのに?」


「キッテ。女王。お前達には、大きな借りができてしまっているす。余にできる事ならなんでも協力するす」


 シズクは、もう。何よ。二人して。私は勉強なんてしたくないんだから。と思い、ぷいっと、キッテの目から視線を外して、なんとなく、烏の顔を見た。


 烏がむくりと体を起こすと、シズクの顔を、漆黒(しっこく)の羽よりも黒い瞳で、じっと見つめて来る。


「ちょちょ、ちょっと。キッテ。烏が、烏が」


 シズクは、烏の瞳に見据えられ、その瞳から目を離せなくなりながら、必死に声を絞り出した。


「烏よす。お前の相手は余のはずだす。こっちに来いす」


 ンテルの、勇ましくも、畏敬(いけい)の念の混じった声が、響く。


 烏が、ゆっくりと、ンテルの方に顔を向けた。


「だ、駄目よ。あんたの相手は、私。あっちに行っちゃ駄目」


 シズクは、行かせちゃ駄目だ。烏の方がンテルよりも絶対に強いもん。この烏が落ちて来る時は何もできなかったけど、今回は、なんでもいいから、やるんだ。と思うと、両手を伸ばし、烏の体を左右から挟むようにして掴んだ。


 烏がシズクの手の中から抜け出ようとして、激しく体を動かす。


「あ、あの、駄目。暴れないで」


 烏の(くちばし)が、シズクの手を(つつ)こうとする。シズクは、襲って来るであろう痛みに耐える為に、目を閉じて、体を強張らせる。


「ん? あれ?」

 

 痛みは襲っては来ず、手の中にいるはずの烏の動きも感じられなくなったので、シズクは、言いながら、目を開けた。シズクの手と烏が、緑色の雲のような物に覆われていて、烏の体の動きも、その雲のような物が、しっかりと押さえ込んでいる様子が、シズクの視界の中に入って来る。


「ナノマ。いい仕事だ」


「キッテ。ナノマが、まだ、ちゃんと守ってくれているって、知っていたの?」


「もちろんだ」


「もう。それならそうと言ってくれればいいのに。キッテの意地悪」


 シズクはそう言ってから、ナノマ。ありがとう。と、手と烏を覆っている、緑色の雲のような物に向かって言った。


「女王。怪我をしなくてよかったす。それと、余の為に、ありがとうす」


 ンテルが言って、頭を下げた。


「べ、別に、あんたの為なんかじゃない」


 シズクは、照れ臭くなって、ぷいっと顔を横に向ける。


「ンテル。何かあっても困るから、念の為に、すぐにロボットの中に戻ってくれ。ナノマ。悪いが、そのままその烏をどこか、遠くまで、連れて行ってくれないか? いつまでも、シズクに烏を持たせてるわけにもいかないからな」


「いや。余はここにいるす。烏の方は、その場で放して欲しいす」


「ちょっと。いい加減にしてよ。なんで、そんなわがままばっかり言うの」


 シズクは、もう。本当に、意味分かんない。と思うと、物凄く、不機嫌になった。


「すまんす。女王よす。これだけは、譲れないす」


「ンテル。分かった。烏を放す。だが、悪いが、こっちも、これだけは、譲れない。ロボットの中に戻ってくれ。」


「キッテ?」


 シズクは、キッテの顔をじっと見つめる。


「このままだと、シズクにもその烏にもよくないからな。大丈夫だ。ンテルか烏のどちらかが怪我をしそうになったら、すぐに俺が止めに入る」


「何を言っているの? 戦わせる気なの?」


 シズクは、絶対に戦わせたりなんてしないんだから。と思いながら言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ