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十七 女王、企む?

 ナノマ達、六羽のオウギワシが、弓から放たれた矢のように真っ直ぐに、(からす)の大群に向かって飛んで行く。


「キッテ。私達はどうするの?」


「ナノマ達が出て来てくれたお陰で、手が()いたからな。俺達は、ンテル達をどうにかしよう」


 キッテが、シズク。走るぞ。舌を()んだりしないようにな。と言葉を付け足すように言ってから、走り出す。


「うん。わかっ、ぐがっ」


 ぎええぇぇぇぇ。いったーい。いきなり舌噛んじゃった。シズクは涙目になりながらそう思う。


「シズク。舌噛んだんだろ? 大丈夫か?」


 キッテが足を止めて言った。


「らいひょうふ。ひょほはは、ひっへ」


「大丈夫。このまま行ってって言ったのか?」


「ふん(うん)。んへふになひははっはらはいへんらはら(ンテルに何かあったら大変だから)」


「本当に大丈夫なんだな?」


 シズクは、ふん(うん)。と言って大きく頷いた。


「分かった。じゃあ、行くぞ」


 キッテが再び走り出す。


 六羽のオウギワシの接近に、烏達が気が付いたのか、烏達の激しい鳴き声がし始めた。


 シズクはすぐに顔を、烏の大群の方に向ける。


 六羽のオウギワシが、烏の鳴き声を意にも介さずに、烏の大群の中に突っ込む。烏の大群が、いくつかの塊に分かれるようにして、オウギワシ達から距離をとった。空中で反転したオウギワシ達が、一羽一羽、違う方向に向かって飛んで行き、いくつかに分かれた烏の塊を追いかけ始める。


「凄いな。ナノマシン達にあんな事ができるとは。あの力があれば、他にも、色々とできるかもな」


 キッテが、誰に言うともなく言った。


「キッテ。キッテはあの子達を使っちゃ駄目だからね。もう、私の物なんだから。あの子達は、ええっと、そうだな。王国の、ううんっと、シズク、王国の、えっと、そうだ。兵隊。兵隊にするの。うん。これは、いい考えもかも」


 シズクは、言う事を考えつつ、舌を噛まないようにと、気を付けながら言う。


「兵隊って。シズク。兵隊なんかにして、どうするつもりなんだ?」

 

 キッテが、笑いながら言った。


「んー。戦争? シズク王国以外にも、国があるんだし、それを全部、私の物にしちゃおうかな」


「本気か? それに、さっきから、シズク王国ってなんだ? この国は、そんな名前になったのか?」


「シズク王国って、そんなに変かな」


「変だな」


「じゃあ、決まりで。これからはシズク王国ね。そんでもって、折角、こんな力を手に入れたんだから、使わないなんて、もったいないでしょ? キッテだって、外の世界を見ろみたいな事言ってたじゃない。そのついでだよ。あの子達がいればなんでもできそう」


「ついでってな。そんな、他の国を全部自分の物にするなんて事をしても、いい事なんて何もないし、誰も喜んだりしないぞ」


「誰も~? 私は喜ぶでしょ。そんでもって、たぶん、チュチュとチュチュオネイも喜ぶと思う。後は、ナノマ達も喜ぶだろうな。キッテは? キッテは、そうなっても本当に嬉しくない?」


「嬉しくないに決まってるだろ。そんな事をしてなんになるんだ? 嫌な思いをする奴がいたらかわいそうだ。それに、戦争だぞ? シズクは、本当に、戦争なんてできるのか?」


 キッテが、優しく、諭すように言った。


「キッテだって、昔、戦争に参加していたんでしょ? だったら私がやったっていいじゃん」


「シズクの言う通りだ。俺は、戦争に参加してた。だから、こそ、俺は戦争には、反対なんだ。シズクには、俺のような思いは、して欲しくない、なんて、思っててな」


 キッテの声音の中に、どことなく、悲しそうな色が混じった事に、シズクは気が付いた。


「キッテ」


 シズクはそう言い、少し間を空けてから、ごめん。調子に乗っちゃったみたい。と言った。


「シズク。シズクは優しいからな。信じてる。けど、たまには心配になる事もある。戦争だけは、やめような」


「分かった。戦争はやらない」


 あんな、ちょっと悲しそうな言い方をするキッテは、あんまり見た事がない。いつもなら、戦争の話をしても、あんな言い方はしないのに。私が、戦争をするなんて言ったからかな。と思ってから、シズクは、言葉を出した。


「シズク。ありがとうな」


 キッテが嬉しそうに言ったので、シズクは、うん。と言って、元気よく頷く。


 キッテったら、嬉しそうに、ありがとうな。だって。なんだか、私も嬉しくなっちゃう。あっと。そうだった。烏。烏の事すっかり忘れていた。シズクは、そう思うと、顔を上げて、鳥達の様子を見た。烏達はいよいよ劣勢になっているようで、いくつかの塊に分かれていた烏達が、さらに細かく、散り散りになり、逃げ出している烏もいるのか、明らかに、数が減っていた。


「よし。追い付いたぞ。おい。ンテル。上の状況は見えてるだろ? もう、戦う必要はない。あいつらに、後は任せろ」


 キッテが言いながら、マシーネンゴットソルダットの前に回り込んだ。


「止まれす」


 ンテルの声が、スピーカーらしき物から発せられ、マシーネンゴットソルダットの足が止まる。


「何かあったら、困るから、私達と一緒に、避難して」


 シズクは、マシーネンゴットソルダットの方に顔を向けて言う。


「ンテル様。ここは言う事を聞きましょうさ」


 ンテルとは別の者の声が、スピーカーらしき物から聞こえて来る。


「お前は黙ってろす。余は外に出るす」


「ンテル様。駄目ですさ。中にいて下さいさ」


 マシーネンゴットソルダットの背中の辺りから、金属製の何かが動く音がして、しばしの間を置いてから、ンテルが、マシーネンゴットソルダットの、頭の上に姿を現した。


「ちょっと。何やってんの? 出て来なくっていいのに。危ないでしょ」


「もう、今の、余にできる事は、何もないようだす。だから、せめて、ここで、戦いが終わるまで、余は、戦いを見守るす。余の代わりに戦ってくれている者達に対する、敬意を示したいす」


「ンテル」


 キッテが、呟くように言う。


「もう。なんなの。バカなんじゃないの。あんたなんてね、烏にちょちょちょって(つつ)かれたら大怪我しちゃうんだよ。折角、そういう事がないように、ナノマ達が戦ってくれているのに」


 シズクは言い、大きな溜息を吐いた。

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