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十六 女王、新しい力を得る?

 キッテがシズクの目をじっと見つめ、何かを言おうとするかのように、口を動かしかけたが、何も言わずに、すぐに口を閉じる。


「チュチュオネイ。チュチュ。早く行って」


 シズクは、自分の方に顔を向け、動かないでいる二人に言い、黒い塊のような物、烏の大群の方に顔を向けた。


「お前達は何もするなす。あの烏の大群は、余を狙って来たのだろうからなす」


 山のようになっている所から離れ、歩き去って行っていたマシーネンゴッドソルダットが、いつの間にか足を止めていて、スピーカーを通しているらしい、ンテルの声が聞こえて来た。


「第六帝国のンテル。そのロボットだけでは、あの数を相手にするのは無理だ。俺に、いや、俺達に任せろ」


 マシーネンゴットソルダットの方を見て、キッテが言い、言い終えると、キッテがシズクの方に、顔の向きを戻した。


「キッテ」


 シズクはキッテの傍に行く。


「女王様の命令だからな。シズク。俺の背中に乗ってくれ」


 シズクは、うん。と言って大きく頷くと、伏せをしたキッテの背中に乗った。


「何もするなと言っているす。自分のした事の後始末くらいは自分でできるす」


 ンテルが言い、マシーネンゴッドソルダットが、再び前進を開始した。


「あの数に本当に勝てると思ってるの? 何かあってからじゃ遅いんだから」


 シズクは大きな声を出す。


「勝てる勝てないの問題ではないす。同じ状況だったら、女王よす。お前ならどうするす? 黙って引き下がったりするのかす?」


 シズクは、なんで、素直に言う事を聞かないかな。私だったら、すぐに、言う通りにして逃げるけどな。と思う。


「私なら、黙って引き下がる。だって、勝てないって分かるもん。それに。私とキッテだったら勝てるから。無駄な事はしない」


 マシーネンゴットソルダットの足が止まり、シズク達の方に体の正面を向けた。


「女王。お前は、滅茶苦茶だなす。そんな事を言う奴は、初めてだす。意地。信念。矜持(きょうじ)。そういう物があるだろうす?」


「ん? ああ。えっと、そういうのって私にあるのかな? でも、たぶん、あったとしても、今なら捨てる。そんな物の為に、怪我(けが)なんてしたくないし、誰かを心配とかさせたくない」


 シズクは、キッテの顔を見るように視線を落とす。


「シズク。今の言葉は、おかしい。俺は、今、猛烈に心配してるんだからな」


「また、そういう事を言って。さっき一緒に行くみたいになったじゃん。それに、今の私は、強いんでしょ?」


「それは、そうだが。……。そうか。分かった。俺が悪いんだな。これが終わったら、シズクを守ってるナノマシンを」


 キッテがそこで言葉を切る。


「どうしたの?」


「いや。そういえば、ナノマシンを自立型に変えてしまったんだった。俺の命令を、もう一度、聞かせるには、ちょっと手間がかかるなと思ってな」


「ふーん。じゃあ、今は、自立したナノマシン達は、私の言いなりになったりするのかな? ねえ、ナノマシン達。これからは、私があなた達に命令する。いい?」


 シズクは、冗談めかして言ってみた。


 何もなかったシズクの眼前の虚空(こくう)に、突如として、緑色の雲のような物が出現し、それが、何かを形作り始めたと思うと、了解ナノマ。という文字の形になった。


「え? 何これ?」


「これは。これは、凄いな。シズク。もう一度何か言ってみろ」


「キッテ? 何を言っているの?」


「この文字になってる物体は、恐らくだが、シズクの体を覆っていたナノマシン達だ」


「それって、今の、私の言葉に、ナノマシン達が、返事をくれたって事?」


「ああ。そうだと思う」


 シズクは、これって、私の思い通りに動いてくれたりするって事なのかな? そうだったら、やばいかも。私、もっと強くなっちゃたりするんじゃない? と思うと、緑色の雲のような物をじっと見つめた。


「じゃあ、ね。どうしようかな」


「なんでもするナノマ」


 シズクの言葉に答えるように、また、虚空に、文字が書かれる。


「うっわ。何これ。なんか、すっごい興奮する」


「ナノマ達もなんだかわくわくしてるナノマ」


 ナノマって自分達の事言うんだ。かわいいかも。でも、やっぱり語尾は付いているんだ。シズクは、そう思い、んふふふっと笑いながら、目をきらきらと輝かせた。


「烏達を、この場所からできるだけ引き離すす。マシーネンゴットソルダット。全速前進す」


 ンテルが声を上げ、マシーネンゴットソルダットが、踵を返して走り出す。


「お、おい。待て」


 キッテが大きな声で言った。


「もう。どうして、無茶するかな。ねえ、ナノマ。あの烏達を止められる?」


「止めるナノマ? 動けなくすればいいのかナノマ?」


「うーん。そうなんだけど、怪我とかはさせたくないかな」


「烏の天敵である、猛禽類(もうきんるい)なんかを連れて来て、威嚇(いかく)だけでもさせられればいいんだがな。まあ、そんな事は簡単ではないから、現実的ではないな」


 シズクは、キッテの言葉を聞いて、猛禽類って、確か、(たか)とか(わし)とかの強い鳥の事だよね? と思う。


「じゃあ、ナノマ。猛禽類になれる? 種類は、詳しくは、よく分かんないから、なんか強そうな奴」


 シズクは、言いながら、やっぱり変身とかは無理かな? でも、さっき、なんでもするナノマって言っていたし。と思った。


「ちょっと待つナノマ。データベースに聞いてみるナノマ」


 虚空に書かれていた文字が、交信中という文字に代わる。


「分かったナノマ。オウギワシというのが最強らしいのでそれに変形するナノマ」


 文字が消えると、緑色の雲のような物が、鳥の形に変形した。


「大きいん、だね」


 凄い。本当に変身した。色は緑色のままだけど、完璧に鳥になっている。と思って、シズクは、驚きながら言う。


「データでは、最大で体長が一メートルくらいになるとあったナノマ。なので、もっと大きくしてみたナノマ。二メートルナノマ」


 オウギワシが、冠毛(かんもう)が逆立っていて、ちょっとかわいく見える顔を、シズクに向けて言った。


「言葉話せるんだ?」


「この方がシズクとのコミュニケーションが簡単になると思ったので、話せるようにしてみたナノマ」


 オウギワシがどこか誇らし気な顔をする。


「ねえねえ。それって、私、乗れる?」


「乗れるナノマ。一緒に行くナノマ?」


 オウギワシが嬉しそうな顔をする。


「おいおいおい。駄目だ。駄目駄目。ナノマだっけ? シズクを守るのが一番大事な仕事なんだぞ。シズクと一緒になって危ない事をやってどうするんだ」


 キッテが叱るように言った。


「キッテ先輩(せんぱい)は、頭が固いナノマ。それに、危険はないナノマ」


 オウギワシが言うと、オウギワシの周りに、五羽のオウギワシが出現する。


「何々? これ、どういう事?」


 シズクは、興奮して大きな声を出す。


「空気中に漂ってるナノマシン達に声をかけて協力してもらったナノマ。ナノマ達は先輩と違って、圧倒的に数が多いナノマ。変形もすぐにできるし、はっきり言って万能ナノマ」


「ねえ、ナノマ。キッテの事嫌いなの?」


 シズクは、キッテの事をバカにされているような気がして来て、ちょっと、悲しくなった。


「そんな事ないナノマ。少し調子に乗ってしまったナノマ。先輩ごめんなさいナノマ」


「いや、別に、それはいいんだが、それにしても、先輩って。俺は、なんで先輩なんだ?」


「シズクを先に守ってたからナノマ」


「そうか。それなら、後輩(こうはい)。シズクの事をちゃんと守ってやってくれよ」


「了解ナノマ」


「キッテ。なんか、そういうのは、寂しいんだけど」


「じゃあ、このまま、俺と一緒に来てくれるか?」


 シズクは、キッテとナノマの顔を交互に見た。


「もうしょうがないな。キッテは。ナノマ。ごめん。やっぱりキッテと一緒に行く」


「了解ナノマ。では、ナノマ達は、先に言って、先輩よりも活躍しちゃうナノマ」


 その言葉を合図にしたように、一斉に六羽のオウギワシが飛び立って行った。

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