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十四 女王、放棄する?

 誰も何も言わず、沈黙という名の、(とばり)のような物が、辺りを包み込む。ンテルがこの場にいる、皆の顔を見るように顔を巡らせると、微かに、目を伏せた。


「人類至上主義は、もう、(すた)れているす。今は、誰もそんな事は言っていないす。実は、昔から、猫が好きな者達が密かにレジスタンス活動をしていたす。それが、近年、国を揺るがすような、大きな運動になっているす。余が党首を務める党が、国を治めているのだが、猫なしでは、もう、国体が維持できないほどになっているす」


 ンテルが言い終えると、伏せていた目を上げる。


「ごめん。そういう話はよく分かんない。猫ちゃんは、外の世界にはいないの? それを捕まえて来るとかは? (あと)は、他の国は? どこか、猫ちゃんをくれる国とかはないの? チュチュオネイ達を説得するより、その方が早いんじゃない?」


 シズクは、言ってから、チュチュオネイの方を見た。


「外の猫は、大き過ぎて、手に負えないす。他の国には、もう行ったす。どこも、猫はあげられないと言っているす」


「女王様。他の国の者達も、第六帝国の事をよく思ってないのですめ。今でこそ、こんな殊勝(しゅしょう)な態度をしてますが、さっきまでは、攻撃をすると脅してたのですめ。そういう連中なのですめ。だから、信用しては駄目ですめ。いつまた態度を変えるか分からない連中なのですめ」


 チュチュオネイが、シズクの目を見つめて言う。


「交渉する時は、強気でいかなければならないと、余の党の前の党首であった、祖父から教えられているす。それで、ああいう態度をしていたす。だが、もう、余には打つ手がないす。今の余の持つ力では、今のこの国を相手に、強気な交渉などは到底できないす。こうなってしまっては、謝るしかないす。今までの非礼(ひれい)を許して欲しいす」


 ンテルが頭を下げた。


「ンテル様。そこまでするなんてさ。僕も、このポンコツを降りて、一緒に頭を下げますさ」


「降りて来なくていいす。これは、余の仕事だす。お前は、お前の仕事に専念しろす」


 ンテルが頭を下げたまま言う。


「ンテル様」


 シズクは、もう。本当に、こんなの困る。どうすればいいの? と思うと、キッテの方に顔を向けた。


「頑張れ!」


 キッテが、また、そう言っているように、口だけを動かした。


「死ね。今すぐに死んでしまえ」


 シズクは、叩き付けるように言い、しおしおと、(しぼ)むように、悲しそうな表情になったキッテから、顔を背けるように、ぷいっと、顔を横に向ける。


「もう、猫の事は諦めて、国に帰るむ。これ以上、何をして無駄む。女王様が困ってるむ」

 

 相変わらず全裸のままのチュチュが言いながら、シズクを庇うようにシズクの前に立った。


「だから、お前はいい加減服を着ろ」


「ぶむひぃぃ〜。なんか女王様のその冷たい感じがくせになって来たみたいむぅぅ。もっとぉ、もっとぉ、むゔゔ」


 シズクは、怖い。もう、なんか、また色々通り越して、恐怖心が湧いて来た。と思いつつ、チュチュを、(さげす)むような目で見た。


「さっきは、言い方が悪かったす。今度は、お願いさせて欲しいす。頼むす。一度だけでいいす。一緒に国に来て欲しいす。そうすればきっと気が変わるはずす。余の事が気に入らなくても、国民達の事なら気に入ると思うす」


 ンテルが頭を上げて言い、言い終えると、もう一度頭を下げた。


「シズク。どうだ? 一度、外の世界を見がてら、行ってみないか?」


 ここまで、何も口を挟まなかったキッテが、そう言った。


「はあ?」


 シズクは露骨(ろこつ)に嫌そうな顔をする。


「シズク。そんな不良みたいな態度をしちゃ、駄目じゃないか」


「不良でもなんでもいいけどさ。今まで、散々、困っている私の事、放っておいたのに、急に、そんな事言って。それって、どういう事? ……。あーあ。なんか、もう、全部嫌になって来た。……。行かない。絶対に行かない。それに。もう何もしたくなくなった。全部面倒臭くなったから、部屋に帰る。チュチュオネイ。後はお願い。女王の頼みだから。ちゃんとやっておいて」


 シズクは、キッテに当て付けるように言うと、くるりと体の向きを変え、部屋のある方向に向かって歩き出した。

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