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汚部屋でも可愛い白石さん

男性視点です。

仕事完璧で隙のない白石さんが

汚部屋の住人でした。

そんな彼女も可愛くて好きだというお話。

2500文字弱です

※不揃いの部分を揃えたり、少し加筆しました。内容は変えていません。


仕事は完璧、冷静沈着で隙のない白石さん。

いつも長い髪を後ろに一本でくくり、クールな目元に、余裕な笑みを浮かべる口元――の彼女がいま俺の背中で眠っている。


 

 ずっと憧れていた人だ。

 こんな無防備な姿を見せられたら

 止まれと言われても止まれない――

 

 と、思っていたけれど。

 

 俺は、人生最大の難問に直面している。



 彼女がお酒に弱いのは知っていた。

 飲ませたのは俺。

 眠ってしまった彼女を家が近いからとタクシーに乗せたのも俺。


 歩けない彼女を背負って彼女の住むマンション…というよりアパートだなこれは……のドアを開け、俺はフリーズした。



 ――ここでは無理だ。俺でも無理だ



 白石さんの思ったより柔らかい感触を背中で感じ、この後をシミュレーションして臨戦態勢に入っていた俺が、 どう考えても今はことに及べない、と答えを出さざるを得なかった理由が目の前にある。




 テレビで見たことがある。

 ゴミで足の踏み場もない部屋。

 汚部屋、と呼ばれる空間が目の前に広がっていた。

 

 とりあえず俺は踵を返し、俺の家へと行き先を変更した。





****


「……白石さんが僕のベッドで寝ていた理由は理解しましたか?」


 俺が掃除道具を抱えて自宅に戻ると、白石さんが私に何をした? と喰ってかかってきた。だから俺は、汚部屋を掃除してきた人間にその態度はどうかと思う、と反論したところだ。


 彼女は涼しい顔で「それは悪かった」と言ったが、耳が真っ赤になっている。


 可愛い。恥ずかしいよな、あの部屋を見られたら。




 あの後……白石さんを俺のベッドに寝かせ、俺だけ掃除道具を持ってまた白石さんの部屋に向かった。 大掃除をするためだ。 もう、イイことしようなんて気持ちより、片付けたい気持ちが勝っていた。 綺麗好きの俺に、あの部屋は耐えられない。



 23時過ぎていたが、ちょうど出くわした隣人に掃除するから少し煩くなると伝えたところ、ベランダもゴミだらけで臭うし助かる、音は気にしない、と感謝された。


 数時間でできることは少ないが、とりあえず寝床と動線は確保した。一旦そこで切り上げて戻ってきた。




「もう全部見ましたから、恥ずかしくないですよ。隣人さんも困っていましたから、片付け手伝います」

「……助かる」

 またクールに返してるつもりの涙目の彼女。だから可愛すぎます。



 土曜なので仕事は休み。

 白石さんが俺のベッドで真っ赤になって涙目とか、

このまま押し倒していいですか?

 ――まだ我慢まだ我慢。



「少し仮眠します。コンビニでサンドイッチ買ってきたので良かったら」

「いつも矢野は気がきくな。でもシャワーを浴びたいから帰らせてもらう」

「分かりました。じゃあ、またあとで伺います」


 俺は素直に引き下がる。

 白石さんの部屋への通行手形(掃除要員ではあるけれど)が出たから気持ちに余裕がある。いつでも手が届く。


 高嶺の花というより、高潔で手を出してはいけない雰囲気の人で、俺はずっと尻込みをしていた。


 けれど、こんな姿を見たら。

 思いきりかまい倒していい存在だと知ってしまったら。


 ――あぁマジ可愛い。絶対俺が手にいれる。




****



 ――だがこれはやはり……


 わかっていても盛り上がっていた気持ちが少し冷める。

 百歩譲ってゴミはいい。捨てそびれて溜まる事はある。だが脱ぎ散らかした服は違う。これは性格だ。かなりズボラなのだろう。


 仕事完璧で隙がない彼女からは想像もしなかった。

 ギャップ萌え……いや萌えはない。

  

 でも恥ずかしそうに下着を俺から奪う白石さんには萌えしかない。


「下着、パステルカラーが好きなんですね」

「お前は最低だなっ」

 顔を赤くして怒る。ヤバイ、セクハラおっさんの気持ちが理解できる。でもこれ以上は嫌われるから我慢だ。

「すみません、デリカシーなさすぎました」

「べ…別に謝らなくていい。私が女性失格なだけだから」

「性別は関係ないですよ。片付ける習慣をつければいいだけです」

「自分でもわかってはいる……」

 白石さんが下着をモジモジといじりながら言う。


 ――恥ずかしがる所がずれてるところも可愛い


「仕事では今日の仕事は明日に残さない!! とかキッチリしているに不思議ですよね」

「家に帰ると、何もやる気がなくなってしまって……気がついたらこうなってた」


 現在、白石さんは丸まったストッキング、どれだけあるんだというフェイスタオル、あちこちに散らばっている洋服を集めている。


 俺はまず流しのスペースを確保し、散乱するペットボトルやビールの缶を集め中身を流す作業中。

 あとは洗って潰して袋にまとめて、と考えていると、「休憩するか?」と白石さんからお茶のペットボトルを差し出された。


 ――優しい……が、またゴミが増えるし、まだ休憩には早い。


「ひと段落つくまでやっちゃいます。白石さんは休んでいて大丈夫ですよ。昨日のお酒、まだ残ってるんじゃないですか? 」


「ごめん、少し休ませてもらおうかな」

 白石さんはバツの悪そうな顔で、スペースが空いたベッドに腰をおろす。


 俺は、においが出る系の片付けをまず終わらせ、残飯は何重にも袋を重ね、においが漏れないようにした。


 その間、白石さんは俺をチラチラと見ていたようだ。たまに視線が合う。彼女はすぐに目を逸らすが。



 ――可愛い可愛い。もう可愛いしか言葉がでないわ


 俺は完全に白石さんに堕ちたのを自覚する。



 夕方には、床がだいぶ見えるようになった。

 今日はここまで、と部屋を見渡す。


「矢野、夕飯はどうする?」

「今日は疲れたから、弁当買って帰る感じです」

「……疲れたからって事は、いつも自炊か?」

「まあ、簡単にですけど」

 大体は焼いたり炒めたりだ。


「矢野はなんでもできてすごいなっ」


 白石さんのキラキラした瞳と笑顔に、俺はまた堕ちた。

「良かったら、今から作りましょうか? キッチンもスペースあいたし」

「た、食べてみたいが、疲れてるだろうから今日はいい。弁当なら私が買ってくる」


 ――あれ? 一緒にここで食べる流れ? もしかしてこれって……


「じゃあ、お言葉に甘えます。明日、つくりますよ。楽しみにしていてください」



 きっと、ここに頻繁に来るようになるだろう。

 またすぐに散らかる部屋を文句言いながら片付けるだろう。きっとその時には2人の距離も縮まっているだろう。



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