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恋人を前提に友達になってもらえますか?

2022.9/1最終話を作品と差し替えました。


2000文字くらいを目標にしたのに、

4000文字くらいになってしまいました。

ハッピーエンドです。


※少し手直ししました。内容は変えていません。


 


「え?」

 いくらなんでも聞き間違いかと思い聞き返す。

 

 恋人を前提に友達?

 結婚を前提に付き合ってじゃなくて?(それはそれで困るけど)


「恋人を前提に友達になってもらえますか?」

 男はもう一度繰り返した。


 やはり、恋人を前提に友達と言った。


 私は突拍子もないことを言う男を眺める。知り合って10分。男は友人の幼馴染だと名乗った。確かに友人の手紙にもそう書かれていた。 

 友人は携帯を側溝に水没させ、拾おうとしてぎっくり腰になったそうだ。私とランチの約束をしているのに携帯の電源がはいらず連絡ができないので、幼馴染に今日は来られないという伝言を頼んだらしい。


 それはわかった。でも。


「言ってる意味がわかりません」

  

 


 私はモテるタイプではない。物言いは冷たいし、愛想笑いもできない。何より付き合うとか興味ないし、24歳で初恋もまだだ。好きにならないのだからしょうがない。


「アズと一緒にいるのを見たことがあって」

「はぁ…」

「その時からそう思ってた」


 アズとは友人である(あずさ)の愛称だろう。梓を車で送り届けるのに何度も実家の近くまで行ったことがあるから、その際に私を見かけたのであろうが……


(ひとめぼれされる見た目でもないし、女性なら手当たり次第の人かな)


「突然そんなことを言われても困ります。わざわざ伝言を伝えに来てくれて、ありがとうございました」


 話は終わり、という気持ちをこめて礼を言うと、男は残念そうに「そっか、残念」とだけ言った。


 少しだけ、拍子抜けした。




 後日、梓に聞くと、恋人を前提に友達になりたいと言った男は誠一という名で同い年だった。


 そういえば学生時代に、梓が何度か話題にだしていたような気もする。会ってみないかと言われたけど興味がなくて断ったこともあった。いい奴、と梓は言ったけれど、私は「ふうん」としか答えなかった。





 そんな感じでもう会うこともないと思っていたら。





 ――なんなの


 忌々(いまいま)しく思いながら、梓と並んで歩く男の背中を睨みつける。


 梓とは大学時代は疎遠になっていたけど、社会人になってからまたよく会うようになり、最近は週末にお店を調べて食べ歩きをすることが増えた。今日も少し離れた街まで電車を利用して遊びに来た。



 あれから、梓と約束するたびにこの男が現れる。梓の恋人とともに。梓の恋人の親友だからというが……そもそも梓の恋人もほとんど話したことがなく顔見知り程度だ。それなのに毎回待ち合わせ場所に来て、さらに一緒に行動をする。


『私は梓と約束してるのであって、梓の恋人や恋人の親友とは約束してないよ』


 何度か同じことが続いたから梓に告げると、「ごめんね。彼が嫉妬深くて、本当に友達と会うのか疑うの。今だけだから」と謝られた。


(そんな男のどこがいいのだろう)


 さすがにその言葉は口にださなかったが、じゃあ連れのあの男(誠一)は何故来るのかと聞けば、恋人が勝手に連れてくると答える。


 恋人前提の友達を断ったからか、誠一は馴れ馴れしくしてくることはない。それに、はじめの会話こそ癖のある性格に思えたけれど、あれからはマトモ……というか、穏やかで気がきくしハッキリ言って良い人の部類だと思う。


 ――はじめがアレじゃなければ、友達になったのに。いまさら、こっちから友達になんて言えないよ。

 


「あゆみ?」

 

 梓が振り返って私の顔色をうかがっているのがわかる。さすがに大人げない態度か、と少し反省。


「体調が悪い?」

 と、誠一。

 私に直接話しかけるのは珍しい。いつも誰かを挟んで話すことが多いから。


「ううん」

 小さく首を振る。

 体調というか機嫌は悪いけど。そのせいかお腹のあたりがモヤモヤする。


「顔色が悪いよ。本当に大丈夫?」

 誠一が近寄ってきた。

「うん」


 そう言われてみたら――と、突然こみあげる吐き気に思わず口元をおさえる。


「ちょっ、ちょっとトイレ」


 運良くコンビニの前を通りかかっていたから、足早に店内へと飛びこんだ。 


(サイズのキツい服だったのと、最近食欲がなかったのにランチを無理して食べたからかも)

   

 胃が弱い方なので、珍しいことではない。鏡を見れば、確かに蒼白な顔色をしていた。


(今日は帰ろう) 


 ランチのあとは、梓の買い物に付き合う予定だったけれど、恋人がいるなら勝手にデートすればいい。



 コンビニから出ると、梓と恋人の姿はなく、誠一が心配そうな顔をして待っていた。

「大丈夫?」

 とペットボトルの水を差し出された。 

「ありがとう。でも私もいま買ったから」

 買ったばかりの水を見せると男はうなずいた。

「アズたちは先に行ったとこで待ってるけど、石川さんはどうする? 体調悪いなら帰る?」


「うん。そうするつもりだった」

「そっか。じゃあ駅まで送ろうか?」 

「大丈夫だから」

「わかった」 


 誠一はまだ心配そうな顔だけれど、「気をつけてね」とあっさりと手を振った。


 また、少し拍子抜け。

 

 はじめは、気を引くための態度かと思ったけれど、あまりにもアプローチがないので、やはり冗談だったのだろう。間に受けて恥ずかしい。


 ――それに、恋人なんて面倒なだけ。梓だって束縛がすごいし。



 駅にもうすぐ着くというところで「亜由美?」と名を呼ばれた。

 振り向くと、どこかで見た顔。高校時代に少し遊んだりした気がする。名前はなんだっけ。


「ああ……久しぶり」

「まぁた、適当な返事して。オリエだよ。覚えてる?」

(思い出した。オリエちゃんだ)

「うん、元気?」

「元気だよー、亜由美はデートの待ち合わせ?」


「違う。梓と会ってたけど体調が悪くて帰るとこ」

「なんだ梓か。スカート姿なんて初めて見たから、やっと亜由美にもいい人がって思ったのにー」

 オリエは愛らしい見た目の割に肉食なので、学生時代から途切れずに恋人がいるタイプだ。いまも少し離れて恋人らしき男がこちらを見ている。


「うん……最近穿くようになったかな」

「亜由美は脚がキレイだからいいよね。わたしなんてちょっとO脚だからさぁ……あ、彼を待たせてたんだった。もう行くね。また連絡していい? 今度飲もうよ」

「うん」



 オリエ達が去るのを見送り、視線を下にさげる。


 最近増えたスカートや淡い色の服。パンプス。


 ――わたし、いつのまにか可愛く見せようとしてた?


 ――……だれに?


 ――そんなの一人しかいないじゃない。


 誠一の顔を思い浮かべたとたん、

 ドクンッ、と心臓が脈打つ。 


(やだ、ちょっとそれっぽいことを言われたからって、ちょろすぎない?)


「あ、追いついてよかった! 石川さん!」

 

 うしろから、今考えていた男の声。熱が顔にあつまるのがわかる。


「アズが石川さんの車のキーを持ってて、さっきから電話してるのにでないから、追いかけてきたんだけど――あれ顔が赤いよ。熱があるんじゃないかな。運転できる?」 

「あ、これは、ちが……」 

「いや真っ赤だから」

 

 誠一が心配そうに手のひらを額にあてた。

 

 ――触るのは、ナシじゃない!?


 全く免疫のない行為に、肩をすくめて目をギュッと閉じてしまった。


「あ、ごめん。急に触られたらイヤだよね」

 誠一がパッと手を離す。

 

 ――こんなこと、二度とない……かも


 ふと、そんなふうに思ってしまった。

 だから、とっさに


「イヤじゃないからっ」


 と答えていた。


 誠一が驚いた顔で私を見て、理由に思い至ったのか、さらに目を見開いた。

 

「……それって――」  

 

「ま……前は断ったけど、あれから何度か会ううちに、あなたのことが気になってるみたい。だからっ、恋人を前提に友達になってもらえたら、嬉しい………かな」



 恥ずかしさの上塗りというか、アクセルを踏んで止まれなかったというか。とにかく思ったことを言い募るうちに、告白のようなものまでしてしまった。


 すぐに後悔。

 心臓が痛い。

 顔があげられない。


 すぐにはお互いに言葉はなくて、

 しばらくしてから

 


「……ごめん……それは、ムリ……」


 誠一がたどたどしく言葉を紡いだ。



 ――ムリ、か……そうだよね。


 心臓の痛みが、えぐられるような痛さになる。

 なんでハッピーエンドだけを想像したんだろう。


 

「あ、謝らないで! いまさら調子いいよねっ。変なこと言ってごめん」 

 私も慌てて謝罪する。誠一にその気がないのをわかっていたのに、舞い上がって変なことを言ってしまった。

 

 誠一がため息のように深く息を吐き出した。

 呆れられたのだろう。

 今すぐこの場から逃げ出したい。


 私が一歩後退すると、誠一が勢いよく顔をあげた。


「違う、ごめん! 違うんだ。ビックリして言葉が続かなかっただけだから、早とちりしないで! もう友達からは無理っていう意味のゴメンだから!」

 

「……え?」


「じつは……石川さんのこと、学生の頃からアズに話を聞いたり写真や動画で見てたからよく知ってて、

 すごく優しい笑顔の子だなって思ってた。

 でも親しい人以外には別人みたいに愛想がないって聞いてたから、どうしたら仲良くなれるか考えたりしていたんだ。知り合ってもいないのに」 


「そう、なんだ」


「いつか、僕も親しい人になってあの笑顔を向けてほしいって……きっとあの頃から恋をしていたのかも。

 実際に会ってみたら頭が真っ白になって、初対面なのにあんなことを言ってた。そのせいで嫌われたからショックでそれからは話しかけるのも怖くなって」


「ごめん……わたし、ほんとに愛想がないから」


「……でもいつのまにか通じ合ってたから、なんか棚ぼたみたいでまだ信じられなくて。でも本当なら、友達からは無理だから、恋人から始めたい。いいかな?」


「わ、私で良ければ」


「いま、あゆみって呼んでハグするのは?」

「えっ、もう!?」

「そっか、人通りが多いな」

「そ、そう」

 (そういう問題じゃないけど)

「あゆみって呼ぶのは?」

 私はコクンと頷く。


「じゃあ改めて。あゆみ、僕と付き合ってください」   


 数秒、見つめ合う。私はもう一度頷いて、

「こちらこそお願いします」と初めて彼に笑顔を向ける。


「結婚を前提に」

「……は?」


「ここでその顔はずるい!」

「な、何の話?」

「鈍感なのもずるい!」

「意味がわからない」


「意味が知りたいなら、僕のこと未来の夫って意識して付き合ってくれるなら、説明してあげる」

「……善処します」


 


 


 



読んでいただきありがとうございました。

最近のかけおち短編、ヤンデレ短編は、ここの最終話用に書いていたものだったのですが、なんか違う気がしてやめていたので単発が続きました。

文字数はいつもより多いですが、この連載ぽい作品が書けたかな、という感じです。


 




※【差し替え前の最終話】私の泣きごとですが、これもまた覚えておきたい気持ちなので残しておきます(^_^;)



『ごめんなさい最後の一編書かないまま終わります』


誰も知らないかもしれませんが、この連載を再開する時に、活動報告に全部で15編になったら終わろうかな、と書きました。


 私なりに頑張ったつもりでしたが、あと1編となったところで、あれ?もう書くことないな……と気がついてしまいました。


 青春、不倫系ドロドロ、変態まで書いたところで、アイデアの泉が枯渇してしまったようです。


 ……今、笑えるくらい何も思いつきません。


 なので休むか終わるか迷ったのですが、終わらせることにしました。


  

 目を通してくださった方は少ないとは思いますが、

感謝しかありません。


 本当にありがとうございました!!




 

 本音を言えば、連載を終わらせたくない気持ちもあります。


 また短編に一本一本投稿するのもキツいので。

 

 自分の作風が場違いだなぁと感じることも多くなって、ちょっと気が引けてるところもありますし。



 なんだか最後をしめくくるはずが、

 ちょっと愚痴みたいになってしまいました。


 

 

 作品を振り返るタイプでもないですし、この連載で言いたかったことは何かと聞かれても、恋も愛も色々あって大変だよね、としか言うことがないです。

 


 もう、本当に締めくくりたいけれど……物語と違って、こういう時どうすればいいんだろう。


  また会いましょう、で終わり?


  精進します、とかかな。


 

  ……そんな感じです。これで失礼いたします。


  ここまでお付き合いいただきありがとうございました。


ありがとうございました。


※後書きも残しておきます。


追記…お恥ずかしいことに、最後の1編ではなく、

残り2編でした。

むちゃくちゃ恥ずかしいです……


 

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