どうぞご自由にお持ちください(浮気した妻が追い出されるだけ)
補足だけの投稿は申し訳なかったので
ササッと書いた短編です。
いつも女性に甘い話が多いので、
夫に追い出される妻を書きました。
2000文字
苦手な方は回避してください
※誤字の訂正と言い回しを一部変えました。
内容は同じです。
そんなに慌てなくてもいい。
これから男と会うのはわかっているから。
忘れ物をしたふりをして、連絡もなく昼食時に帰宅すると、妻が外出するところだった。
「今日は杉田さんにランチに誘われて、少し遅くなるかも。なんか、相談があるらしくて」
言い訳はいいから、早く出ないと遅れるぞ
あいつに少し遅れると伝えてきてやろうか?
さっきすれ違ったからな。
しかも近所の小田さんに、あれが浮気相手だと教えられたよ。
以前、妻があいつと車内でキスしているのを、中学生の息子さんと一緒にいる時に見たのだそう。
お前、外でキスができる女なんだな
そんなもの、子どもに見せるなよ。
近所のおじさんが寝取られたなんて笑えないだろうが。
小田さんに言われなくても妻の浮気なんてとっくに知っていた。
俺は許すつもりだったんだ。一時的なものだと思っていたから。
だけど、近所の笑い物になったのなら話は別だ。
もちろん全て失ってもいい覚悟だよな?
俺は今が人生で一番苦しいよ。
「朝から頭も痛くてさ」
ためしに言ってみた。
妻の眉の動きで、心の声が聞こえる。こんな時に、と。
「熱ありそう?」
妻はいつもの調子で尋ねてきた。
「首、さわってみて」
わざと、嫌がることを頼む。
あいつと関係を持ち始めた頃からだろうか、俺に触れようとしなくなった。何の義理立てなんだか。
「触ってもわからないよ。体温計持ってくるから待ってて」
「もういいよ、時間ないだろ」
「そう? 本当に大丈夫?」
心配などしていないのがわかるおざなりの言葉。
「寝れば治ると思う」
「じゃあ、行くね」
妻の声が少し弾んだ。
さすがの俺も余裕なフリなんて無理だった。
「もう帰ってこなくていいよ」
「え?」
妻には聞こえなかったようだ。もう気持ちは若い男に向かっているんだな。俺もお前に気持ちはないよ。
「もう、帰ってくるなと言った」
「な、なに言ってるの」
妻の手が微かに震え始めた。
「もう帰ってくるな。離婚もしてやるから出て行け」
「……!」
妻も全て理解したのだろう。
俺に何かを言おうと口を開いた……
その瞬間、携帯の着信音。
妻が携帯を出そうとバッグを開けたので、俺はすかさず妻から携帯を取り上げ、通話を押すと同時にスピーカーにする。
『マミちゃん、遅いよー』
通話になった途端、何も疑わない甘えた声。
「申し訳ない。今たてこんでるんだ」
俺が口を出すと
『あっ! 間違えました!』
電話が一方的に切られた。
「ほら、マミちゃん、電話が切れたからもう一回繋いで。揉めたりしないから」
俺は携帯を妻に渡す。
まさみをマミちゃん呼びか……そんな男がよかったのか。
妻が素直に電話をかけた。もちろんスピーカーにさせる。
長い呼び出し音ののち、
『……はい』
躊躇いがちに男がでた。さすがに逃げなかったか。
「責める気はないから。さっき君を見かけたけれど若いよね? いくつ?」
『……21歳で大学生です』
「本当に若いね」
『はい……すみません』
「謝らなくていい。君に言いたいことがあって」
『はい』
「そんなにかしこまらなくていいよ。あのさ、まさみを外に出しておくから、どうぞご自由にお持ちくださいって言いたかっただけだから」
『……いいんですか?』
――おお? そっちか! 受け入れるのか!!
詫びをいれてくると思ったが、いまどきの奴はやっぱり違う。
想定外すぎて考えていたセリフが全部飛んだ。
「俺はもういらないから」
俺は動揺を悟られないよう、通話を切った。
座りこんでいる妻の前に立つと、妻が怯えた目で俺を見上げてきた。
「行っていいよ」
腕を引っ張って立たせたいところだが、俺から触るのも癪だ。
妻がノロノロと立ち上がり、俯いたまま小さくごめんなさい、と呟いた。
「……何も言わなくていい。早く出て行ってくれ。荷物は全部実家に送ってやるし、離婚届もそこに入れておくから」
「やっぱりわたしっ……!」
「あ、そうそう」
俺は妻の言葉を遮る。
「俺は浮気を許した夫ではなくて、妻を追い出した夫と言われる方を選んだから、出て行ってもらわないと困るんだよ」
妻が持っていたバッグを握りしめる。
若い男と不倫ゴッコして帰ってくるつもりだっただろうにな。
別れ際のキスをまた近所の奴らに見せつけるのか? これ以上は勘弁してくれ。
「もう一回、あいつに電話してここに来てもらうか? それとも自分で出ていけるか?」
俺が本気だと伝わったのだろう。
妻は俺の目を見て、「自分で……」と答えた。
お互い無言のまま、妻は振り返ることなく家をあとにした。
俺も妻に聞こえるように鍵をかけた。
*****
あっさり離婚は成立した。
俺も鬼ではない。貯金は彼女の節約のおかげでできたので、俺は300万円を彼女に渡した。
浮気された方が金を渡すってすごいよな。でも家を追い出した罪悪感もあったから、これで良かったと思う。
一度、偶然2人を見かけた。
隣町のパチンコ屋に朝から2人で並んでいた。小汚い格好だけど仲睦まじく見えた。
――愛ってわかんねぇな
俺にはそれしか感想が思い浮かばなかった。
結局、女性に甘いですかね……
あまり不幸な女性は見たくないです。




