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麒麟将  作者: 花鏡
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第十話「生体兵器」

非人道的兵器





「ーーーーーーー!!!!!」


 凄まじい雄叫びとともに集結態は頭部に理気を収束、口から大量の火炎弾を吐き出し始めた。


「っ! なんて火力だ」


 刀身に理気を込め、なんとか火炎弾を弾く冥月と莉乃だったがその空気を焦がすような火力は、短時間で額に汗がにじませるには十分なものである。


「集結態はヒトの型を失ったことと引き換えに五大属性全ての属性攻撃を可能としています」


 アルルの言葉を要約すると、先程の火炎弾ばかりか冥月の雷にヴィルヘルミナの風も使いこなし、挙句ネクロス特有の増大し続ける莫大な理気で火力も底上げしているということだ。


「ノリスめ、とんでもない怪物を生み出したな……!」


 隙のない堅実な動きで冥月は火炎弾を弾き返し、集結態の左手に命中させたが、理気による防御が効いているのかほとんどダメージには至らない。


「冥にい! 早くしないと理力兵器が……!」


 莉乃の言う通りである。先程のロベルトの宣言を信用するならばどこからかは不明だがすでに理力兵器は発射されたと見て良い。

 一発でエリア全域を焦土に変え、そこにいる生命を瞬時に蒸発させるような大量破壊兵器、そんなものを使われてしまえばどうなるかは明白だ。

 つまり早くこの怪物を倒して身を隠さなければ、今度こそなんの痕跡すら残さずに消滅させられることになるということである。


「……っ! 来るぞっ!」


 清白の叫び声に前後して集結態は弾幕を放つかのように口から大量の火炎弾を空中に吐き出し、その合間を縫うようにして両手から雷を連打し始めた。


 これを素早く回避する冥月だったが、弾幕を避けた先、着地点に次々と雷を打ち込まれてしまったため刀を振り上げる形でなんとかこれを弾く。


「これほどの戦略を瞬時に判断して実行するなど、奴の頭の中はどうなっている!」


 理性を感じさせない異様な見た目に反してもっとも的確な攻撃を仕掛けてくる集結態に冥月は血を吐くような口調で毒づいた。


「計算して戦っているのではなく、本能で戦いにおける最適解を導き出しているのです」


「本能、本能だけでこれほど高度な戦いを展開するというのかっ!」


 冥月の後ろでなんとか集結態の猛攻をかわしていたアルルの説明に、莉乃は信じられないとばかりにそう叫ぶ。

 つまり息を吸ったり吐いたり、あるいは歩いたりするのと同レベルのことであの怪物はこれほどの動きを見せているということだ。


「そうなるように調整されています。ですが制御自体は現行の技術では不可能でした」


「あやつら、自分たちの手に余る怪物を我らに押し付けたということか……!」


 理気を使えないため武器で攻撃を弾くことが出来ない清白は持ち前のスピードを活かして回避に専念している。

 だがかわすばかりでは勝利することは出来ないどころか、無尽蔵の理気を持つ集結態が相手ではこちらが先に消耗するのは間違いない。


「っ! この、化け物がっ!」


 隙をついて理気を込めた石斧を集結態めがけて投擲する莉乃。こちらに向けて吐き出されていたいくつもの火炎弾は打ち消すことができたものの、集結態の身体には刺すことすら出来ず弾き返された。


「な、何て硬さだ……!」


 あらためてその理気とそれに伴う防御力を確認したのか、莉乃は愕然とした表情で石斧を握り直す。


「……あれを破るには奴以上の理気を使うしかないが、あるいは……」


 完全に意識の外から不意打ちを仕掛け、理気を練る隙を与えないかの二択。だがこれほどの理気を持つならば索敵も先読みの能力も冥月の遥か上を行くと見て間違いはない。

 どこかに意識を向けさせてその隙に理気を込めた一撃を急所に叩き込めれば勝てるかもしれないが、ここまで実力に差がある状態ではそれも困難だった。


 そこまで考えて冥月の表情に死相が滲み始めるが、集結態を打ち倒し理力兵器から逃れて生き延びるためには死力を尽くして戦う他ない。

 今できる最善を尽くし、やるべきことをやれば必ずや道は開ける。そう信じて戦うしかない。


 またしても弾幕をばら撒き始めた集結態の攻撃をかわしながらそこまで考え、己を奮い立たせることで理気を高めると、冥月は刀にこれを収束させて一撃を放った。


「理力剣っ!」


 刀身から一直線上に伸びた理力剣は命中さえすれば理気による防御を貫くことも可能であろう。

 しかし集結態もその危険性と威力を十分にわかっているのか、あるいは動物的な本能で察したのかは不明だが両手からの雷と口からの衝撃波を合わせてこれを打ち消してしまった。


「属性攻撃のみで理力剣を打ち消すか……!」


 顔つきを神妙なものに変えてそう呟く冥月だったが、属性を絡めた理力剣も理気による攻撃である以上同じ理気で干渉できるのは至極当然のことである。


「いよいよもって不意打ちは難しくなってきたな……」


「冥にい、俺がなんとか活路を開くからその隙に清白とアルルを連れて離脱してくれ」


 集結態の攻撃が止んだ隙にもう一度理気を高めようと意識を集中しているとそんな言葉が冥月の耳に飛び込んできた。


「莉乃……!」


 冥月のすぐ隣に立ち、石斧を構え直すと集結態から一度として目をそらすことなく莉乃は頷く。


「このままじゃジリ貧になって理力兵器でみんな灼かれてしまう。なら誰か一人が囮になって他の人を逃すべきだ」


 莉乃の言うことは確かに的を得ていた。このまま集結態と戦っていればそう遠くない未来理力兵器が着弾する。

 ならば全滅するよりも誰かを犠牲にして残りが生き延びる、小を切り捨てて大を活かすべきではないか?


「言っておくけど、俺は犠牲になるつもりはないぜ?」


 鼻をこすりニヤリとシニカルに笑う莉乃。仲間を救うために命をかける姿は、出会ったときからは想像も出来ないほどに人間らしいものだった。


「理力兵器が来るギリギリまで粘ってゲネシスソイミートタワーの地下に逃げ込めれば助かるかもしれないだろ?」


 先刻、崖下に飛び込んだ結果運良く一発目の理力兵器から難を逃れたときのことである。

 ゲネシスソイミートタワーは先程冥月が破壊してしまったが、彼らが飛び込んだ崖はすぐ近くにあるため莉乃の言うとおりギリギリまで継戦出来ればなんとかなるかもしれない。


「駄目だ、あまりにも危険過ぎる。それに誰かを犠牲にするような作戦を認めるわけにはいかない」


「だから俺は犠牲になるつもりはないって言ってるだろ?」


 それでも冥月は大のために小を切り捨てるEMSの行為を散々見てきた後だったため頑なに首を振った。


「それでも、だ。我々は仲間、多数が生き延びる作戦ではなく、全員が助かる道を探す」


「……仲間」


 冥月の言葉を静かに繰り返す莉乃。どうやら捨て身の策をとるのは辞めたらしいがそうなるといよいよ集結態の撃破は難しくなる。


「……綺麗事は結構じゃがな冥月よ、そう言うからには何か手はあるのじゃろうな」


 流石に焦燥感に駆られたのか清白は額に汗を流しながらそう訊ねると、冥月は静かに頷いてみせた。


「……危険な手段だがある」


 集結態の脅威は圧倒的な攻守にこそ存在する。五大属性による攻撃は防御も容易ではなく、近づいて攻撃するにも無制限に打ち出される属性攻撃に阻まれ近づくことも出来ないというまさに攻守一体の力だ。

 しかし逆に言えばこれを抜いて接近さえしてしまえば理気により強化された一撃なら十分に攻撃は通るはず。


 問題は仮に成功したとしても二度目には対策をされるのは間違いないため、一撃で仕留めなければならないことだ。


「私が囮になって属性攻撃を放つ、二人は集結態がこちらに集中してる間に近づいて奴の首を斬れ」


 理気を高める集結態との距離を油断なくはかりながらそう冥月が告げると、莉乃は納得出来ないとばかりに憤慨する。


「っ! 冥にい! 俺のこと止めといて自分はそんな……」


「君たちが仕事をやり切れば私は死なない。二人を信頼するが故の提案だ」


 実際全員で生き残るには集結態を倒すしか方法はなく、そのためにはこの手段がもっとも成功率が高いと思われた。


「じゃがお主、一人で奴の攻撃を捌くつもりか!?」


 心配そうな清白、集結態の力は圧倒的であり作戦を成功させるには可能な限り本気を出させ、こちらに集中させる必要がある。


「囮役は私以外には出来ない、集結態の首を一太刀で刎ねるためには可能な限り攻撃を集中させる必要がある」


 つまり囮を必要最低限にしておかねば、肝心要である奇襲に支障をきたしかねないということだ。


「……しかし」


「逡巡は結構だが莉乃、どうやら相手は待ってくれないらしいぞ?」


 どうやら理気の補充が終わったらしく、集結態は両手の間に雷を集め決定的な一撃を放とうと理気を高める。


「……仕方ないな」


 諦めたように呟くと、莉乃は微かに笑みを浮かべていつでも奇襲に移れるよう石斧を構え直した。


「……頼んだぞ、莉乃、清白」


 次の瞬間集結態から放たれる雷撃。莉乃と清白は即座に散開したが冥月は一人腰を落として攻撃に備える。


「……(私の、持てる全ての力をぶつける……!)」


 揺らめく理気が陽炎のように立ち上るほどに軍刀に理気を収束させ、最大火力となるであろう理力剣が放たれた。


「ぐっ……!」


 集結態の理気は予想を遥かに上回っており、あまりの火力に地面はあちこち赤熱し、空気すらもビリビリと焼け焦げている。

 だが冥月は一度として退くことはせず、ただひたすらに理気を燃やして集結態の攻撃を押し返すことにのみ意識を注いでいた。


「ーーーーーーーーーー!!」


 あまりの理気に先に根を上げ始めたのはむしろ集結態の方である。ビリビリとその巨体を押し返され、どれだけ放出する理気も上げても吹き飛ぶ気配がないばかりか威力を合わせてくる冥月。


 覚悟を決めて理気を燃やし続けるその姿は最早人間の領域とは思えないほどの迫力があり、恐怖心が存在しないはずの集結態すらも焦燥にかられたのか、理気の威力を限界にまで引き上げた。


「……ぐお……!」


 さすがに捌ききれなくなったのかあまりの理気に冥月の両手は震え、軍刀に至っては悲鳴のような音を出し始めている。

 だがこれこそが冥月の待っていたもの。全ての力を攻撃に転用し、防御に集中を回す与力がなくなったときこそが狙い目だ。


「……いけっ! 莉乃、清白っ!」


 瞬間、精妙に振るわれた刀の一撃が豆腐のように集結態の頭を縦に両断する。

 血は全く出なかったが動きが止まった次の瞬間、理気で強化された石斧の一撃が集結態の頭を吹き飛ばした。


「っ! そこだっ!」


 そして集結態の属性攻撃がそれた瞬間、最大火力の理力剣が切り離された頭部とその切断面に命中する。


 絶叫のような不吉な音を残して理力剣の光が失せると完全に頭を吹き飛ばされた集結態が、倒れ伏していた。

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