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番外編 セシルとルートの熱砂訪問②

 一歩外に出れば一面の砂漠が広がる国、トウカ国。

 砂漠を移動し生活していたとある民族がオアシスを拠点とし、そこを中心に拡大していった砂漠都市である。

 1つのオアシスから土地を発展させたという実績からも分かる通り知恵の回るものが多く、今や近隣諸国をも凌ぐ勢いで発展している独立国だ。未来ある若者を様々な国に留学生として派遣し、更なる国の発展に燃えている。


 そしてそんなトウカ国には、代々王の宰相としてその地位を不動のものとしている一族がいた。熱砂の頭脳、ロータス一族だ。


「む?来たな!セシル!」


 馬車の外でぶんぶんと手を振っている人物がその一族の長男である。

 ゾノ・レガーシャ・ロータス……本日の案内人でボクの友人。後のこの国の宰相――になる予定の男である。


「待たせたね」


 いつ見ても立派な筋肉だ。一応平均的な男性の身長より高いはずの僕ですら見上げるほどの背丈。なんだったら宰相になるよりも護衛になって刺客の頭蓋骨をリンゴのように握り潰して粉砕する方が向いているんじゃないかと思う。


 馬車から降りて軽く挨拶の言葉を述べれば「ああ、待っていた!朝からな!」と犬でもそんなに待たないんじゃないかという返答が返ってきた。


「朝って……バカだねあんたは!今までここでいったい何してたのさ!?」

「筋トレだ!」

「脳みそまで全部筋肉なんじゃないの!?」


 今は夜だ。今日はこのままこちらで泊まって明日のコンサートに備えるとゾノにもちゃんと伝えておいたはずなのに。

 幾ら説明しても理解しない筋金入りのバカを相手にしたあの地獄のような勉強会を思い出し、唸りを上げて頭を手で押さえる。

 ゾノは「家の中でするのも外でするのも一緒だろ?」と首を傾げた。これを本気で言っているのだからタチが悪い。


「あんたって……ほんと相変わらずだよね」

「ふふっ……それほどでもあるがな!」


 別に褒めてないし実を言うとかなり呆れているんだけども。

 ボクの発言を相変わらず元気で素晴らしいとでも解釈したのか、ゾノは表情を輝かせた。髪も金髪なのにこれ以上眩しくならないでほしい。


「ゾノさん、お久しぶりです!」

「ルート!久しぶりだな!元気にしていたか?」

「はい!元気です!」

「うむ!!!」


 馬車から降りて来たルートをガシッと抱き締め、熱い抱擁を交わす。そしてぐるぐると回り出した。暑苦しい奴だなと思いながらその様子を眺めていると「そういえばセシルにはしてなかったな!」と腕を広げられたので「結構だよ!」と全力で拒んでおく。


「何処かのホテルに泊まれたら良いんだけど、あんた予約取ってくれてたりする?」


 そんな気の利く奴じゃないことは重々承知しつつも問い掛ける。と、「お前達が今日泊まるのはホテルじゃないぞ?」と首を傾げられた。


「今日はうちの賓客として、うちの屋敷に泊まってもらう!歌に踊りにご馳走もあるぞ!」

「トウカ国の伝統的な歌!僕とっても楽しみです!」


 早くもズンチャカズンチャカと踊り出したゾノとルートに呆れつつ、そういえばと思い出す。


「母さんがアベルきゅんとヒロインちゃんによろしく伝えてって言ってたよ。これ2人にお土産だって」

「ああ、うちの父と母のことだな。伝えておこう」


 母さんはゾノの両親と学園で同級生だったらしく、ゾノが家に遊びに来た時はそれはもう飛んで跳ねて喜んだ。「続編キター!!」とか「ヒロインちゃんとアベルきゅんの息子……!こんなに立派に育って!!!」とか叫びながら父さんを巻き込んでドタバタと。あの時のゾノが珍しく「お前の母親は、その……少し変わっているな……」と引いていたのが印象的だった。


「またいつでも遊びにいらっしゃいってさ」

「うむ、いつでも行かせてもらう!」


 ムキッと音の鳴りそうな丸太のように太い腕を突き出し、グッと立てられる親指。そんなに来なくていい。年に一回来るか来ないかでいい。暑苦しいことこの上ない。


「とにもかくにも、まずは飯だ!行くぞ!」

「ぎゃあああ!?やめろ!自分で歩けるって!」


 ガシッと腰に腕を回され、そのままひょいと小脇に抱えられる。

 ルートは隣で同じように抱えられ、「わぁい、めっちゃ楽〜」と嬉しそうだ。冗談じゃない。筋肉の圧が凄い。人間の腕の硬さじゃない。


「離せよ!離せったらー!」

「相変わらずセシルは軽いな。ちゃんと食べているのか?」

「食べてるよ!!!」


「美食家を舐めるな!」とズシンズシンと運ばれながらぎゃんぎゃんと喚いたが、はっはっはと笑われただけで相手にされなかった。



 ✧︎‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦‧✧‧✦



「ぎゃあああ!!!水水水!!!!」


「トウカ国の伝統料理だ。美味いぞ!」と言って出された食べ物に手を付けたのが運の尽き。大量の香辛料とトウガラシに一瞬で喉を焼かれた。全身から汗が吹き出し、コップの水を飲み干すがまだ足りない。


「ルート水出して!早く!」

「えー自分で出しなよ」

「出せないんだってば!!!」

「しょうがないなー」


 大量の冷水をバシャンと頭からぶっ掛けられ、「ぎゃっ!冷た!」と叫ぶ。


「ルート〜……?」


 ギロリと目を剥くと「だって暑そうだったから」と肩を竦められた。じっと睨み続けていると、申し訳程度に「はい」と水が入った泡を浮かべられた。ごくりとそれを飲み込んで事なきを得る。


「服びっしょびしょなんだけど……?」

「そのうち乾くでしょ」


「美味しい」と子ども用の味付けがされたものを食べながらルートは涼しい顔だ。全然反省していない。ていっと頭を叩くと「わっ、虐待!」と言って逃げられた。逃げ足が早い。


「はぁ……あいつは全く……」


 弟の反抗期を心の底から恨みつつ他の料理を口にする。さっき食べたやつほどじゃないけど辛い。でもルートが掛けた冷水のおかげであまり暑さは感じなかった。


「結構いい仕事するじゃん……」


 さすがボクの弟だと関心していると、諸悪の根源が「口に合わなかったか」と言いながらひょいと顔を出した。


「口に合う合わないの問題じゃなくこれは人間の食べ物じゃないよ!」

「香辛料は多ければ多い程旨い!」

「寝込むよ!?」


 学園の食堂のメニューにあるものの、罰ゲームでもない限り誰一人頼まない【辛さ10倍デスカレー】。ゾノはそれを旨い旨いと言って毎日注文し、2年目にはあろう事か「辛味が足りないな!」と追いトウガラシを掛けて食べていた筋金入りの辛党である。甘党のボクは隣でパフェを食べながらその様子を唖然として見ていた。ゾノがおかしいだけだと思っていたけどこれはお国柄だったのか。

「大量のコショウは歓迎の印だ!」と言われ「気持ちだけ受け取っておくよ」とデザートに手を付ける。


「ん、デザートは美味しい……」

「ココナッツのパンナコッタだな。澄んだ水の湧いたオアシスで採れる。旨いか?」

「うん」


「輸入したいね」と言うと「行商人に話を通しておくか?」と聞かれて頷く。こういうところは頼りになるのだ。

「最大限安くなるよう交渉しよう!」と言われ、「頼りになるじゃん」と笑ってむきっと腕を曲げる。ゾノもふっと笑うとムキキッと腕を曲げた。細い木と大木が並んだみたいだ。


「それにしても、メイは遅いな。前日練習が長引いているようだ」

「練習熱心だね」

「メイは努力家だからな!練習の疲れも吹っ飛ぶくらい、盛大に出迎えてやろう!」

「歌って踊りましょう!」


 皿を手に踊り出したルートを「こら、行儀悪いでしょ!」と諌めるが「俺も負けてない!」と妙な対抗心を燃やしたゾノも一緒になって踊り出した。この国の行く末が不安だ。


「ゾノ様、メイ様がお帰りになられました」

「む?帰って来たか」


 そう言ってゾノが振り向いた瞬間、バーン!と両開きの扉が勢い良く開け放たれた。ヒールの踵を鳴らす音が響き、豊かな黒髪を靡かせた褐色肌の美女が現れる。


「帰ったわよ」


ボクのもう一人の学友、メイである。


「メイ!待っていたぞ!」

「メイさん!お久しぶりです〜!」

「ルート!来てくれて嬉しいわ」


 カッカッカッとハイヒールの音を響かせながら歩み寄り、がばっとルートと熱い抱擁を交わすメイ。豊満な胸がばいんとルートの顔面を直撃した。割とよく見る光景だ。


「羨ましいか?」

「いや別に」

「俺は正直羨ましい」


 それは兄としてどうなんだ。


「挨拶して来たらどうだ」と骨付き肉にかぶりつくゾノ。ルートの頭を撫でながら微笑んで2ヶ月ぶりの再会を喜んでいるメイの方へ歩み寄ると、切れ長のルビーのような瞳がついとこちらに流れて……ふっと笑われた。


「あら、アンタも来てたの。おかしいわね、アンタを招待したつもりはなかったんだけど何を勘違いしてノコノコやって来たのかしら?」

「ルートの付き添いだよ!それより、久しぶりに会ったボクに歓迎の挨拶は無いわけ?」

「ハン!」

「は、鼻で笑われた……!」


「信じらんない!普通鼻で笑う!?久しぶりに会った友人に対してそんな挨拶の仕方ってないだろ!?」と吠えるがメイは気にもとめず、「うるさいわね、今ルートと話してるの。邪魔しないで頂戴」と一蹴された。あんまりだ。ルートとボクとで対応の差が激し過ぎる。


「残念だったな!よしよし!」

「いらないよあんたの慰めなんか!」


 ゾノに横から肩を組まれ、「やめろ!」と振り払おうとするが振り解けない。力が強過ぎる。

「離せええぇ」とじたばたしていたら「まあまあ、これでも食え」と口に何か突っ込まれた。


 ボクは口から火を吹いた。


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