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21本目 貴女に青薔薇の祝福を

 場所を変えたいと言ってセシル様に案内されたのは、ローゼブル侯爵家のお庭にある薔薇園でした。

 見渡す限りの青い薔薇。そのどれもが潤い、見事に花を咲かせています。


「まぁ、綺麗……!少し暑くなってきましたけど、この子達はみんな元気に咲いているんですね」

「ああ。うちの薔薇は品種改良を重ねてるから、開花してる時期がかなり長いんだよ」


「庭師のポムじいがいつもここを綺麗にしてくれてるんだ。それに、他の使用人達も。感謝しなくちゃね」と口角を上げたセシル様の表情はとても穏やかで、私はその横顔にふっと微笑みました。


「……セシル様は、いつも私に色んな人のお話を聞かせて下さいますよね」

「あっごめん、つい……。会ったこともない使用人の話なんか聞かされたって面白くもなんともないよな……」

「いいえ。セシル様は気付いていらっしゃらないかもしれませんが、大切な方達のお話をしている時のセシル様の表情、とても優しくて穏やかなんです。私はそんなセシル様を見ているのが好きなので……寧ろ、もっと聞かせていただけると嬉しいです」

「お……っ!?お、おおおぅ……!」


 セシル様が何やら奇妙な鳴き声を発しました。


「セシル様……?」

「……好きって……これって結構いけそうなんじゃない……!?少なくとも嫌われてはいないしもしボクの事恋愛対象として見てなくても温情とロマンチックなシチュエーションのプロポーズに流されて結婚してくれるんじゃ……」


 セシル様は私の呼び掛けにも応えず、背中を向けてぶつぶつと呟き、頻りに薔薇を撫でさすり、うんうんと呻き声を上げています。


『ほ、本当に大丈夫なのかしら……』


 そろそろ本気で様子が変です。

 御加減が悪いのでは、お医者様を呼ぶべきでしょうかとおろおろしていると、ようやくセシル様が意を決したようにこちらに向き直りました。


「あ、あのさ……っ!!!」

「はっはい……!」

「さっき言ってた、話の続き、なんだけど……っ」


 盛大に声を裏返しながら叫んだ、その頬に。


 ぽちょん。


「えっ」


 空から降って来た雫が彼の真っ赤に染まった頬を濡らしました。驚いた彼は空を見上げ……、


「……雨だ。嘘でしょ……このタイミングで……?」

「えっ……きゃあっ!?」

「ふぎゃあああ!急に降ってきたぁ!!!は、早く屋根のある所に行くよ!」


 セシル様にぐいっと腕を引かれ、駆け出します。


「全くタイミング悪いったらありゃしないよ!何だってこんな大事な時に!?」

「セシル様……」

「ああもう!無駄に広い庭なんだから!」

『じ、自分の家の庭の広さに憤ってらっしゃるわ……』


 そんな、理不尽な。先程褒められていた庭師のポム爺様が泣いてしまいます。


 ぜぇはぁと息を切らしながら走り、辿り着いたのは庭園の中の小さなガゼボでした。薔薇ではない植物の小さな鉢植えが並んでおりとても可愛らしい印象です。


 私達はガゼボの中のガーデンベンチにどっかりと腰を下ろしました。


「はぁ〜……疲れた……暫くここで雨宿りするか……」

「結局濡れてしまいましたね……」

「グローブの中までびっちょびちょのぐっちょぐちょ……なんだってこんな大事な時に……。ほんと最悪……」


 セシル様がこちらに背中を向け、「うへぇ」と言いながらグローブを外したのでしょう。ぼたぼたと水が垂れて床を濡らしました。相当水浸しだったようです。


『そういえば、私セシル様の素手って見た事ない気が……』


 覗き込もうかとそわそわしているとセシル様はグローブをぎゅっと絞ってまた手に嵌めてしまいました。雨に濡れて気持ち悪いはずなのに、それでも外さない理由とは。


「あんた、大丈……ひうっ!?」


 そんな事をぼんやり考えていると。

 こちらを振り向いた彼の顔がみるみるうちに真っ赤になっていきました。


「?あの……?」

「あばばばば……!あ、あんた、服!服!」


 どうしたのでしょう。セシル様が頻りに私の着ている服を指さしています。疑問に思いつつ視線を下に向けると。


「きゃあっ!?」


 見ると、服が雨に濡れて下着が透けてしまっていました。ワンピースは薄く色も淡いので張り付いて、身体の線も丸分かりです。


「は、早く何か隠すものを……!」

「いやぁ……!見ないで下さいぃ……」

「こうなったらボクのシャツを……っ!ふんっ!」

「きゃあっ!?」

「うわぁっボク今日これ一枚しか着てないんだった!!?ごめん、これ着てて!」


 バサッと投げられたシャツを受け取り、羽織ります。セシル様のシャツ、大きいです。手足が長いので袖が余りまくりです。


「あ、ありがとうございますセシル様……」

「あ、あったブランケット!ほらこれも巻きな!」

「わぷっ」


 またもや間髪入れずに投げ付けられたブランケットを身体に巻きます。温かいです。もこもこです。


「あ、でもセシル様のブランケットが……」

「ボクは男だし一応水属性の魔法持ちだから平気だけど、女の子は身体冷やすといけないだろ」

「…………」


 女の子。セシル様はいつでも私の事を女の子として扱って下さいます。やっぱり好きだなぁと思います。


『……それでも、平気ってことはないんじゃないかしら』


 セシル様は魔力を殆ど持っていないのです。となれば水や寒さに対する抵抗力はそこまで持ち合わせていないのでは……。あっ、セシル様が震えています。やっぱり寒いんじゃありませんか。

 などと思っていたら、セシル様が掛かっていたカーテンを無理やり引きちぎって身体に巻き付けました。


「…………」


 ……上半身裸で赤いマントを着た黒手袋の長髪の男性が出来上がってしまいました。


「……ごめんシャツ返してもらっていい?」

「ふっ……!はい……ふふっ」

「笑うな!」

「すみません……ふふふふっ」


 私は笑いを堪えつつシャツをセシル様に渡します。あ、いけませんどうしても笑ってしまいます。


「ったくもう……」


 ぶつぶつ言いながらセシル様がシャツを着るので後ろを向きます。上半身裸にマントを組み合わせるととんでもないことになってしまうのですね。勉強になりました。


 ……それにしても、あんな薄手のカーテンで寒さを防げるのでしょうか。やっぱりブランケットがもう一枚あればいいのですが……。


「あっ、それじゃあ……」


 身体に巻いたブランケットをばさりと広げます。かなり大きめなので二人でもすっぽり包まれそうです。


「セシル様、これ一緒に使いま……」

「あんたバカ!?ほんとバカ!?ボクのことはいいから!あんた一人で使えよ!!!」

「…………」


 そんなに怒らなくても……。


 セシル様も濡れて寒いはずですのに。でも、もしセシル様が風邪を引いてしまったら……。

 いけません、私はいかなる危険からもセシル様を守ると決めているのです。


「な、なんだよその顔……」


 きゅっと唇を噛み締め、すすすと近付き。

 私は彼の隣に腰を下ろすと、ブランケットごとセシル様をぎゅっと抱き締めました。


「ほあっ!?こここここコレット嬢!?」

「ごめんなさいセシル様……。でも、風邪を引いてしまうので一緒に温まりましょう?こうして身体を寄せ合っていればきっと寒さも和らいでくるはずですので……」


 私は体温が高いのです。私とくっ付いていればきっと風邪も引かないはず……


「くきゅっ」


 ……セシル様の喉から変な声が出ました。


「あの、今何か変な声が……」

「……無理……脳が焼き切れそう……」

「えっ!?す、すみませんそんなに怒らせてしまうだなんて思わなくて……!す、すぐ離れま……」


 あの変な声は怒りで頭がプッツンしてしまう前兆だったとは。


 慌てて離れようとしてちらりとシャツの隙間から見えてしまったものに、私は目を見張りました。


「……セシル様……この怪我、どうしたんですか……?」


 美しい彼の身体についた、無数の傷痕。

 かなり古いものから最近出来たと思われる新しいものまで、大小様々な大きさの痛々しい傷痕が彼の身体を埋めつくしていました。


「あ……」


 ばっ、とシャツの前を閉じた彼の表情は強ばっていて。私は見てはいけないものを見てしまったのだと理解しました。


「セシル様……」

「見るな……」

「………!」


 私は蚊の鳴くような声で「ごめんなさい」と謝って、顔を伏せました。


 やってしまった。


 俯いた先でセシル様の、シャツを掴む手がぎゅっと握られました。


「貴族のご令嬢が見てて気持ちいい物じゃないだろ。……いつもは隠してるけど、服の下はこのとおり傷だらけなんだ。……そりゃいつかはバレるとは思ってたけど……」


「嫌なもの見せて、ごめん」と身を隠すように己の身体を抱きしめたセシル様。


『もしかして、セシル様がずっと長袖のシャツを着込んで、グローブを着けていたのって……』


 私は手を伸ばし、彼の傷を指でなぞりました。びくりと彼の肩が揺れます。


「あ、あんた何して……っ!」

「この、傷は……?」

「……これは、水路に仔猫が落ちたのを助けた時に引っ掻かれたやつだよ。まだ小さくて目も開いてなくてね。バイ菌が入って化膿して痕になっちゃったけど、大した事ないから大丈夫」

「これは」

「倒れてきた看板の下に居た人を庇った時のやつかな。……無事でよかったよ」

「……この、一番大きなお腹の傷は」

「……この街をウロウロしてた密売人を追い詰めた時。逆上した敵に、グサッと……」

『……それって……』


 全部、全部。誰かを助けた時にできた傷じゃないですか。


 少し暑がりの私はいつも半袖に変えるのが普通の人よりやや早いので気付かなかったのですが、既に街ゆく人達が半袖を着ている中で彼だけはずっと長袖のシャツを着込んでいました。荷車を押して、暑さに汗をかいて。それでも、襟元を緩めることはあれど、決して袖を捲ることはありませんでした。


 それはきっと、この傷を見た領民達に罪悪感を抱かせないため。


 自分の事は二の次で、いつだって自分以外の誰かのことを優先して。


『ああ、どうしてあなたはそんなに……』


 視界が滲んで、涙が溢れて。私はセシル様の手を取り、グローブを外しました。


「コレッ……」

「気持ち悪いなんて、思うわけないじゃありませんか……!これはあなたが街の人達を守ろうと、命を懸けて戦ってきた証です。気持ち悪いだなんて……」


 傷だらけだけど、指の長い大きな手。この手で彼はこの地をずっと守って来たのです。私は両手でぎゅっと包み込むように握りました。

 大切で、尊くて、世界一美しいその手を。


「傷だらけの身体も含めて、全てがあなたなんです。あなたの大切なものを守ろうと頑張ってきたその誇り高い証を、そんなふうに言わないで下さい……」

「…………」


 初めて触れた、手の温もり。ずっと知らなかった、彼の体温。

 それが私と一緒だったという事実が、どうしようもなく嬉しくて。


『ああ、セシル様の手って、こんなにもあたたかかったんですね』


 セシル様の瞳が潤み、俯きます。


「あんたは、ボクの全部を受け入れてくれるんだ」

「はい」

「こんなへっぽこで、おっちょこちょいで、傷だらけのボクでも……?」

「世界一かっこよくて美しくて素敵です……!」

「あんたはボクの事……好き?」

「当たり前じゃないですか……!セシル様の事が嫌いな人なんてどこにも居る訳ないですもの……!」

「……そっか……」


 セシル様がもう片方のグローブをぐいっと噛んで外します。そして……、


「きゃっ」


 ぐいっと抱き寄せられました。

 一瞬ドキリと胸が高鳴りましたが、ぐりぐりと肩に頭を擦り付けて甘える子どものような仕草にふふっと笑みが零れます。つい弟にするみたいによしよしと頭を撫でてしまいます。弟と違う、さらりとした少し濡れた長い髪が指の間を流れました。


「……あんたがボクの事、何とも思ってないのはよく分かったよ」

「そんな事……」

「でも、あんたはもう逃がしてあげられない」

「えっと……それはどういう……」


「目、閉じてて」と言われてぎゅっと目を瞑ると「そう、そのまま」と彼が離れて行く気配がしました。


「これがいいかな……いや、やっぱりこれ……うーんこっちも捨て難い……。……ん?あ、これだ……これにしよう!よ〜し、そーっと……そーっと……」


 少し離れた所からパチン、と何かが弾けるような音がして、彼の足音が戻って来ました。

 そして。


「コレット、瞳を開けて」


 ゆっくりと瞼を開けた私の瞳に飛び込んで来たものは。


「…………っ!」

「貴女に、青薔薇の祝福を」


 私の前に跪き、青い薔薇を差し出すセシル様の姿でした。


 身体に巻いたカーテンがマントのように揺れて、まるでお姫様に跪いて愛を乞う絵本の中の王子様のようで。


「……青薔薇の祝福……セシル様、それは……」


 広場で見た、ローゼブル侯爵領の伝統のプロポーズ。素敵だと私が言って、セシル様がそれに案外近くに居る人がするかもよ、なんて言って。

 あの日まさかと笑ったけれど心のどこかで期待して、でも私なんかと諦めていた。


 いつか自分もと憧れ期待しては、誰かに好かれるなんて夢のまた夢だと思っていたプロポーズ。

 それを、大好きなひとからして貰えるなんて。


 ……ええ、夢ですね。


 私は思いっ切り自分の頬っぺたを抓りました。


「……いひゃい……!え、夢じゃない……どうして……?」

「何してんの、夢じゃないよ。……ボクは人よりそそっかしくて頼りないかもしれないけどさ。絶対絶対、あんたのことを誰よりも、何よりも大切にするって約束する。だからさ、ずっとずっとボクの隣で笑っててよ」

「ええと……」

「これ、早く受け取ってくれる?」

「あ、はい」


 訳の分からないまま青い薔薇を受け取りましたが、おそらく今私の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいることでしょう。


 これって一体どういう状況ですか?


「よーしロマンチックなシチュエーションに流されてオッケーしてくれたぞ!……いやあんたちょろ過ぎじゃない?大丈夫?」

「ええと、セシル様これって……」

「何って、プロポーズだけど」

「プロポーズ……どうしてですか?」


 何故セシル様が私にプロポーズを。


「どうしてって……あんたの事が好きだからに決まってるだろ」


 セシル様が、私を好き?いいえ、何かの間違いでしょう。こんな至近距離で聞き間違いなどあるはずもありませんがきっと何かの間違いです。

 だって、セシル様はどんな美女も選び放題なのです。わざわざこんなぽっちゃりした田舎の伯爵令嬢を選ぶ理由なんて……。


「……好き。好きだよ、コレット。ボクのものになって」


 やっぱり聞き間違いじゃありませんでした。


 ひゃっ、セシル様が縋るような瞳で見つめて来ます。だめですこんなのどきどきし過ぎておかしくなってしまいます……!


「マルシェで初めて会った日からずっと好きだったんだ。ほんとはちゃんと振り向かせてからにしたかったけど……ぐずぐずしてたらあんた、他のとこにお嫁に行っちゃうだろ。今頃ボクの家からあんたの家に縁談が行ってるはず。男爵家や年寄りの看取り役に比べたら交易盛んで栄えてるローゼブル侯爵家の跡取り息子との縁談なんて断る理由なんて無いはずだよ」

「せ、セシル様……冗談ですよね?私の事が好きだなんて……」

「冗談でこんなこと言うわけないだろ。ボクの事はそんなふうには見れないかもしれないけど、会ったこともない全然知らない奴に比べたらましだろ。一生大切にするからもう諦めて、ボクと結婚して。これからじっくり時間を掛けてボクの事ほんとの意味で好きになってもらうから覚悟して……」

「違います、好きです。あなたの全てを愛しています。私、セシル様の事を心の底からお慕いしております」

「……は?」


 暫し見つめ合い、ぱちくりと瞳を瞬かせます。

 ぱちぱちと数回瞬きしたところで待ったが入りました。


「愛し……ちょっと待って?意味が分かんないんだけど」

「わ、私もよく意味が分かっていません……私がセシル様の事を何とも思っていないだなんてどこからそんな考えが……?」

「だって、あんたはいつもボクの事芸術品かなんかを眺めるような目とか孫を可愛がるおばあちゃんみたいな目して見つめてくるしボクの事男だって全然思ってないような素振りで……!」

「わ、私がセシル様と釣り合うわけないじゃないですか……!」


 だからこの気持ちも伝えないまま素敵な思い出として昇華しようとしていたと告げればセシル様は。


「ばかっ!自信持ちなよ!可愛いんだからあんた!」


 励まされてしまいました。いえでも私白豚だの家畜だの散々言われながら社交界で生きてきたのです。それで王国一の美貌の貴公子を射止めようと息巻けますか?無理でしょう。それならせめて好きな人のお役に立ちたいと思うのも道理ではないでしょうか。


「うふふ、ご冗談を。私視界に入るだけで不快にさせてしまう家畜令嬢ですもの。ちゃんと弁えておりますのでご心配なく……」

「誰だよ家畜令嬢とか言ったやつ教えなよ今すぐボクがぶっ飛ばして来てやる」

「えっ!?待って下さい落ち着いて下さい……!」

「許せないよ!このふくふくとした白くて丸い最高のもちぷにボディをあろう事か家畜だって!?冗談じゃないよそいつ豚箱にぶち込んで一生草だけ貪り食わしてやる!」

「セシル様……?」


 セシル様、まさかまさかの私のこのぽっちゃり体型も含めて好いてくださっていました。


『そういえば食べ物の中でおもちが一番好きだと言っていたような……』


 なんということでしょう。たしかに私はおもちの擬人化と言っても過言ではないでしょう。どこもかしこももちもちのぷにぷにですもの。


『セシル様は変わった趣味をお持ちの方だったのね……』


 最初会った時もスリムな美女達の事を骸骨だとか魑魅魍魎だとか言っていました。……あー。


「……色々合点がいきました」

「……分かってくれた?あんたが好きだって」

「ええ、今でも信じられませんが……」

「いいよ、別に。これからじっくり分からせてあげる。……はは、やっと掴まえた」


 顔を上げると、セシル様が笑っていました。


 甘いお菓子を手に入れた時の、子どもみたいな笑顔で。


「じゃ、いただいちゃうね」

「……!」


 グローブ越しじゃない彼の手のひらが私の頬を包み込み、柔らかな感触が唇に触れました。

 彼に触れられたところから熱が広がっていくような、心がほろほろと溶かされていくような感覚。


『ああ、私お菓子になってしまったんじゃないかしら』


 この人に食べられるのなら、このまま溶けてなくなってしまっても良いかもしれません。


 ブランケットを広げて彼を包み込み、細いけれど少し逞しい背中に手を回すと、セシル様の瞳が潤み、微笑まれました。


 そして、ふっと離れて。


「温かいですね」

「……うん」


「あったかい」という耳元で囁かれた声はとても幸せそうで、穏やかで。


『ひとりでは寒いかもしれないけど、ふたりなら』


 こうして寄り添っていれば、これからもずっと温かな気持ちでいられるのではないでしょうか。


「……あ、雨が上がったみたい」

「まぁ……!」


 雨が止み、からりと晴れた空に美しい虹が。


「綺麗……」


 ふたりの熱が合わさった温もりの中で、私は微笑みました。


「とってもロマンチックなシチュエーションのプロポーズ……ですね?」

「まっ……まあ当然?これも全部込みで計算済みっていうか?…………運がいいのか悪いのか……」

「ふふっ。とっても素敵でしたよ。……愛しています、セシル様」


 私は少し乾いた彼の唇にそっと口付けました。


 彼は驚いたように目を丸くして、それからーー。




サブタイトルより、21本の薔薇の花言葉=真実の愛。


これにて完結です。

セシル様が最後どんな行動をとったのかは読者の皆様のご想像にお任せしたいと思います。


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