「『ウチナルモノ』」
いつだったか忘れたが、俺は同族や他種族のバカ共に罵られていた。
なんでもこの俺が世間や常識を知らない愚か者なのだと。
しかし俺は選ばれた。
選ばれし俺は、このクソみたいな世界から解放されて新たなる世界の王となった。
王である俺の暮らしは当然、豪華絢爛だ。
美しい装飾が施された家。飲食は常にあり、掃除も一日三回。召使いである巨人がすべて行っている。
そして時々巨人の召使い達に一言二言言ってやれば喜ぶのだ。
なんて単純な奴らなのだろう。
ただ一つ、こんな俺様にも叶えられないことがあるとするならば…………それは自由だ。
家の外に最後に出たのはいつだろう。もう思い出せない。
いつからか召使いが来なくなり、外から大きな音が絶え間なく聞こえるようになった。
音は前に比べて静かになった。
水が澱んでいる。食べ物はほとんどない。
水も食料もない。
必死に召使いを呼ぶが、誰も来ない。
この頃は家の下に食料が通ることが多くなった。食料からこちらに近付くこともある。
だけれど身体が…………お腹すいた。
「…………」
「ねぇ、僕を食べないかい?」
「…………なんだ、種か」
「そうです。種です」
「…………」
「だいぶボロボロ……この家と同じだね」
「…………」
「ねぇオウムさん。空、最期に見てみたくない?」
「ッ!? 出来るのか?」
「僕を食べれば力が出るよ。力が出れば外に行けるよ」
王と呼ばれた俺様が唯一手に入れることが出来なかった自由。
それが今、目の前に。
目の前の種を食べた。
久しぶりの食料に全身の毛が逆立ち、喜びと共にみなぎる灼熱が全身を巡る。
目を閉じれば、そこには美しい天空が待っていた。
「あ~あ、バカで助かった」
他の連中より遅れちまったが、まぁいい。
この家も母さんの身体で崩壊するだろうし。
それにしてもあのオウム、自分の事を『王』だと思ってたなんてバカだよなぁ。王じゃなくてオウムだっての。まぁ、結局俺の養分になってくれたからどうでもいいか。
第一世代の母さんも俺の養分にしてやる。
「よいしょっと…………」
「なっ!?」
「あれぇ? こんなところに第二世代がいるんだけどぉ」
家を破壊された!? 俺よりも大きい個体が二体!? どうする? どうする? どうする?
「マジで? うっわマジじゃん。しかもチビなんだけど」
「それなぁ! 私らより先に侵略しといてまだ進化できてないとかゴミでしょ」
「マジ正論過ぎて泣ける」
「つぅ~訳でぇ、チビちゃんは私らの養分にでもなって侵略生物族の糧になってね☆」
鳥籠の王。
家の中での支配者。
生物の頂点。
力ある大多数の養分。
コラテラルダメージ。
他者から逃げるか。
他者を消すか。
一塊になるか。
一つしか残さないか。
抑圧によって生まれる秩序と理不尽。
平和によって生まれる平等・無個性。
内なる残虐性は小さな隙間から圧縮されて…………噴出して…………。
その残虐性が一点に集まり…………射殺す。
開放せよ。
恥を知り、世を知る。
傷跡はいずれナニカと接合され、アナタは大きくなる。
自己を失う程のモノを見つけるか、考えるか。
その時アナタはすべてを失い、真っ白な【無】に帰る。
井の中の蛙大海を知らず。