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一章 二人は出会った。


偶然なのか、必然なのか。

どちらであろうが全くどうだっていいだろうに、教室はそれに一喜一憂する。

つまりは、席替えである。



最も授業中に黄昏るのに適した最後列の窓側の席。

その一つ隣の席というのは中々悪くない。それが斎川の抱いた最初の感想だった。

ただ一つ不満があるとすれば、その選ばれし特等席を、彼女が占めてしまったということだろうか。



篠咲玲香。

今時珍しい腰まで伸ばした長髪に、やや吊り目ながらも完璧な造形の顔立ち。



およそこの世のものと思えない存在感を放つ彼女を、人は深窓の令嬢だの女王などと好き勝手呼ぶ。

事実、常に泰然として人に過剰に関わらず、如何にもな神秘性を漂わせているのだから、そう呼ばれても不思議ではないのだろう。




けれども、我が校の誇る黒を基調とした伝統的制服も、彼女が身に纏えばまるで喪服であるかのような印象を与える。

或いは死に愛された死神か。

故に、斎川だけは密かに彼女を死神様と呼んでいる。



彼女の隣であることの何が問題か。

窓の外を眺め黄昏るのに最適ではないとはいえ、自身の席もまたそれをかろうじて許される位置にある。

しかし、彼女が隣にあって外を眺めることは、まるで彼女に見惚れているかのようにも見える。

そして彼女は見惚れるに足る存在感を惜しみなく放っている。



些細な、大いなる問題。

頭を悩ませながらも、授業は始まる。





「何か悩み事でもあるのかしら、斎川君」



全ての授業とホームルームが終わり、我先にと多くの生徒が飛び出していった教室で、なおも呆けたように座る。

そんな時不意に声がかかったのである。



澄んだ、やや低音の女の声。

それが隣の篠咲のものであると思い出すのには時間を要した。



「な、何かとは?」



この緊急事態には、そう短く返すことが精いっぱいであった。

我ながら動揺があからさまである。



「ぼぅっと。あなたずっとこちらを見ているのだもの。ときめかせてしまったかしら」


「い、いや、そういうわけでは!」


「それはそれで失礼ね」



動揺から勢い余っての否定に、彼女は眉を少し上げてしかめっ面を作る。

そんな些細な動作でさえも絵になってしまうのは、緊急事態のさなかにあっても感心してしまう。

けれども、そんな芸術的なしかめっ面もすぐに彼女自身の笑いによって塗り替えられた。



「わかってるわよ。あなたの目が、あまりにもぼうぅとしていて、とてもじゃないけど私に焦点があってるようには見えなかったし。だから聞いたの。何か悩み事でもあるのかしら。斎川君」



再び、同じ問いかけ。

まっすぐに向けられる瞳は、こちらの内面までものぞき込んでしまっているかのような静謐さをもっている。

月並みではあるが、まさに吸い込まれそうな瞳、なのだろう。

見透かされそうな緊迫感を、無意識のうちに与えられてしまっている。

だから、なのだろう、



「いや、外を眺めるのが癖なだけだから。じゃあ、また明日。しに…篠崎さん」



体の内に溜まったこの汚泥のような思念を、彼女によって曝け出され、そして汚してしまうことの恐怖が、この場からの逃走という選択肢を選ばせた。

あまりにもあからさまな敗走っぷりに、まるで彼女の言ったことが図星であるのを認めているように見えてしまうのは遺憾だが、それでもその追求から逃れたかった。



斜陽差し込む教室の窓際に彼女を残し、学校を後にする。

去り際に視界にかすめた彼女の斜陽に溶け込む姿もまた、絵になってしまうことがなんだか無性に腹が立ってしまった。




少しずつ投稿していきます。

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