過去、出会った頃2
「戦士は身体が資本なんだから、気をつけないと」
そう言って、笑う少女。
「…礼を…、こんな物しかないが…、今できるのはこのくらいだ…もらってくれないか?」
懐から取り出す金貨。
それは普通の金貨ではない、通常の金貨のように使う者はいない。
通常の金貨の50倍の価値を持つという、騎士だけが王より名誉と共に賜る、市場では決して出回らない金貨であった。
騎士の証とも言える、金貨。
それは騎士になった証に騎士になった折に称号と共に渡されるものであった。一生に一度しか手に入らない。
その記念を手放す騎士など今まではいなかった。
そんな金貨を、少女に渡そうとしている。
「…それは……、ダメ、受け取れない」
首を振り、金貨を持つ手を押し留める。
少女も金貨の事は知っている。
騎士にとって、命よりも重い、その金貨を。
「だが…俺にはこれくらいしか…」
「礼なんか…別に」
少女が笑いかける。
その甘やかな笑みにデュークスは心を奪われていた。
「では…せめてこれを」
デュークスは一振りの短剣を取り出して、少女に渡そうとした。
実用的にはあるが、装飾の多い、宝石のついた短剣。
確かに、この短剣であれば少女に似合うだろう。
「そんな高そうな物、もらえない」
少女は断る。
「お前は俺の命の恩人だ。
お前が手当してくれなかったら、俺の左腕は腐って落ちただろう。
そうなれば、俺はもう生きていくことは出来なかった」
そうまで言われてしまって、迷う少女。
「名前、聞いていいだろうか、俺はデュークス」
「…アルディス」
「アルディス、受け取ってくれ」
少し、躊躇って妥協案を見つけたのか、その短剣を受け取って微笑む。
「じゃあ、怪我の治療と護符の代金として…」
そう言って、自分の首からペンダントを外す。
アルディスの指先で、金色に光るペンダント。
羽根の形をした金色の台に、青く光る宝石が光っている。
「これが、あなたを守ってくれますように…」
デュークスの首にかけられる金の羽根。
何か温かいものがそのペンダントから流れ込んでくる。
「魔術師だったのか?」
にこ、と笑って肯定する。
「これは今持っている物の中でも最上の物。
命を輝かせ、悪意を跳ね除ける。
これを祝福と共にあなたに」
言葉と一緒に呪文のようなものが織り交ぜられて話される。
なにか聞こえるが、それはデュークスの耳に言葉としては届かない。
おそらく古えの魔力ある言葉なのだろう。
「…ありがとう…」
無意識にアルディスの頬に触れようとしていた自分に気づき、慌ててその手を止める。
美しく微笑むアルディスに、デュークスは心を囚われていた。
「俺は…お前を好きになってしまったらしい…」
「え……?」
いきなりかけられた言葉に目を丸くして驚くアルディス。
頬を赤く染めて、デュークスから目を逸らす。
「もし…、俺が戦士として名のある者になったら…お前を迎えに来てもいいだけろうか…。
俺と、共に同じ道をを歩んで行って欲しいんだ…。
…だめ、か…?」
「い、いきなりそんな事を言われたって…。
今さっき会ったばかりで…」
いきなりの愛の告白。
どう考えても、それは結婚の約束を取り付けようとしている言葉だ。