アルディスの思い出3
微笑んで、そっと髪を撫でる。
「…うん……ありがとう…」
ちゃんと話をしてみよう、デュークスと。
それでも、思い出してもらえないなら、それはその時に考えよう。
アルディスはそう思った。
グラスを傾けて、中の酒を飲み干す。
「…俺らしくねぇよな、こんなの」
いつものように笑って見せる。
自信家で我儘な、美しい魔術師の顔で。
「やっといつものお前に戻ったな」
サフィールもアルディスにつられて、頬笑む。
「いつまでもくよくよしてらんねーよ、明日にゃ店もいつものように開けなきゃいけねーし、仕事は山程残ってんだ」
「そうだな。
ここにはお前以外に魔術師はいないからな、大変だろう?」
「あー、そーでもねぇよ。
俺、この町けっこ好きだし。
大変なのは都用の仕事。
結構我儘な客多くてさー、そっちのが大変なわけ。
ここの暮らしはのんびり出来て好きだぜ」
この小さな町が好きだ、と笑うアルディス。
「俺は、出来ればお前にずっとこの町に居て欲しいが、お前はいつか出て行くのだろう?
お前ほどの魔術師がこんな町で燻っているのはもったいないからな…」
そう言って微笑むサフィール。
「…だとしても、ずっと先の事だ。
今の俺には名声も地位も必要ない」
今はただ、日々を自分らしく生きていたいだけだ、と答えるアルディス。
カラン、とグラスの中で氷が鳴った。
「もう、こんな時間か。
じゃあ、また明日」
グラスをテーブルに置き、立ち上がるサフィール。
「ああ、また明日…、送らねぇぜ?」
「いいよ、別に。
ドアはすぐそこじゃないか」
笑いながらアルディスのて頭を軽く撫でると、そのまま立ち去っていく。
しばらくして、店のドアが閉まる音がして、サフィールが出て行った事が分かった。
「…優しいよな、あいつ」
苦笑しながら、ドアの方に向かってグラスを挙げる。
「…サンキュ…」