アルディスの思い出2
あの日、初めて好きだ、と言われて、とてもうれしかったのを覚えている。
手も触れず、約束のキスなども、もちろん無く、別れたが、ずっと覚えていよう、待っていよう、と誓ったあの日…。
あの好きだ、と言った青い瞳が忘れられなかった。
自分があげたあの護符がある限り、彼に万が一のことがあれば、自分に伝わるはずであったので、いずれ会えると信じていた。
会えた時には、あの時の約束の答えを彼に、デュークスに告げようと、アルディスは思っていた。
「俺…嬉しかったのに……」
なのに、二年ぶりに再会したデュークスは自分の事などすっかり忘れ、知らない者を見るように、自分を見ていた。
二年前、好きだ、と言われた時は、戸惑いの方が先だった。
少しずつ、二年かけて、思いを育てて来たアルディス。
なのに、デュークスは自分を知らないと言った。
約束も覚えてないと、そう告げられた。
この行き場のない思いはどこに行けばいいのだろう。
「…酒…」
酒でも飲んで気を紛らわそう、と思ったが、買い置きの酒は棚にはなかった。
酒場には…、デュークスがいるから行きたくなかった。
「ふー…仕方ねーな…」
酒の代わりにハーブティーでも飲もう、と用意をしていたら、店の戸を叩く音がした。
「誰だよ…閉店だぜ、今日は」
かったるそうに歩いて、鍵を外して戸を開ける。
「…飲まないか?」
戸の前の男が酒の瓶を揚げて、頬笑む。
「な…んで…」
「お前と飲みたいなと、思って…」
柔らかく微笑む、その笑顔に苦笑するアルディス。
「まいったな…いいよ、入れよ。
ちょうど俺も飲みたいな、と思ってたんだ」
「ありがとう、入らせてもらうよ」
「…礼を言うのは、俺の方だよ…。
ありがとう…サフィール」
さっきも、この男には助けられた、この何も聞かない優しい友達に。
「つまみ、何もねーけど、それでもいいか?」
店に招き入れながら聞くと、笑って左手にもった包みを見せるサフィール。
「大丈夫、それも持ってきた」
「用意がいいなぁ」
笑って、店の奥のテーブルを指す。
「俺の作業場の机しかねーけど、そこに座ってくれ。
客用のテーブルなんてねーからさ」
テーブルにグラスを二個並べ、椅子に促す。
グラスに注がれた酒は蜂蜜色をして、ほんのり花のような香りがしていた。
「いい香りだな、これ」
「ああ、南の方の酒らしい。
燻製も美味いぞ、食べてるか?」
つまみの鶏肉の燻製をつまみながら、グラスを口に運ぶサフィール。
数敗、グラスを重ねて、まじまじとサフィールの顔を見るアルディス。
「…お前、ほんっとに何も聞かねーよな……。
これってさ、慰めてくれよーとしてんだろ?」そう言って笑う。
「別に…そういうわけじゃないさ」微笑むサフィール。
「俺さー、フラれちゃったんだ……」
グラスを見つめながら、ポツリと呟くアルディス。
「…お前にそんな仲の奴がいたとは知らなかったよ」
「…そりゃ知らないだろうなぁ…
だって、恥じめてあったのは二年前で、今日再会したばっかだからさ」
苦笑しながら、サフィールに告げる。
二年前の約束の事、そして今日の事を。
「俺…待ってたんだよな…、忘れたフリして、本当はずっと待ってた…」
そっとアルディスの肩を抱き、その華奢な身体を自分の肩に引き寄せる。
肩に感じるアルディスの涙。
俯いたアルディスの顔を見ないように、肩を抱く手の力を強くした。
「…待ってたんだ……」
か細く、呟かれるアルディスの声だけが静かな部屋の中に響いた。
「…アルディス…」
「…バカ…だよな…、俺…」
「そんなに、好き?」
アルディスの髪を撫でながら尋ねる。
「…わからない…、でも忘れられた事がとても辛い…」
「…好きなんだね…」
優しい微笑みを浮かべながら、抱きしめる。
「サフィール……」
抱きしめられて、服をぎゅっと握り締める。
「俺は…、どうしたらいいんだろう……」
「彼の人を忘れて、新しい恋をする?
…でも、アルディスは彼の事がまだ好きだろ?」
「…好き……、うん…」
「なら、あきらめないで…」
そっとアルディスの頬に慰めのキスを送る。
「いつもの元気なアルディスが俺は好きだよ」
「…サフィール」
「泣きたい時はいつでも泣いていいから…」