アルディスの思い出
怒りながら、道を歩くアルディス。
こんな時は酒でも飲むのが一番なのだが、その酒場に原因がいるのだから、仕方がない。
行く当てもなく、ただ、気を落ち着かせる為だけに歩く。
そのあまりの眩しさに、アルディスに声をかけるものはいなかった。
「ちくしょう…あいつっ……!」
悔しくて、情けない、そんな気持ちでアルディスの心はいっぱいだった。
何より、自分だけが覚えていて、デュークスが自分のことも、約束も忘れて居る、というのが許せなかった。
覚えていた自分が、約束を守ろうとしていた自分が、とても情けなかった。
怒りが、込み上げてくる。
誰もいない路地で、壁に怒りを叩きつける。
「…ちくしょ……」
零れ落ちる涙。
足元にポタポタと落ちていく。
「…アルディス?」
そんなアルディスに声をかける者がいた。
慌てて、涙を拭い、いつものような顔で挨拶を返そうと振り向く。
「…よぉ、久しぶり」
笑顔を作り、何も無かったかのように笑ってみせる。
そんな事はいつもなら、簡単な事だった。
いつだって、自分の気持ちを隠して、そうして来たのだから。
「お前、何かあったのか?」
「……な、んで……」
なぜ、わかってしまったのか、と問う。
「何だか辛そうな顔をしているから」
隠せなかった、と知って、瞳から涙が一筋零れ落ちた。
「あ……」
零れ落ちる涙を隠そうと慌てて顔に手をやり、誤魔かそうとする。
「…アルディス…」
差し出される手、いつもなら、拒んでいたはずの人の優しさに、アルディスは縋り付いてしまった。
「…ごめ…ちょっとだけ……」
「…何か、あったのか?」
腕の中のアルディスの髪を優しく撫でながら、そっと尋ねる。
「…何、でもない……」
「何でもないって、お前が……」泣くなんて、という言葉を飲み込み、縋り付くアルディスの背中を抱く。
「…何も、聞かないから…、気の済むまでそうしてていいよ」
「…………」
背中に感じる手が、あまりにも優しくて、温かいのに、アルディスは涙を押さえることが出来ずに、声を押し殺すように泣いていた。
しばらくそのままでいたが、そっと胸を押しやり、離れて笑顔を作る。
「ありがとう、もう大丈夫」
きっと無理して笑っているのだろうが、それでも笑顔を見せてくれたことに安心して、髪を撫でる。
「俺らしくないよな、こんなの」
そう言って笑うアルディス。
「辛い時は、誰だって泣いたりするさ。
我慢しなくていい」
「ありがとう」
「もう、大丈夫だな」
そう聞かれて、笑顔で答えるアルディス。
「ああ、大丈夫。
じゃあ、又なっサフィール」
そして、泣いてしまったことが気恥ずかしいのか、背を向けて掛けていく。
通りを走り抜け、自分の店の前で足を止める。
鍵を開け、閉店の札のまま中に入る。
「忘れられてたか…仕方ないよな…。
もう二年だもんなー…」
ため息をつきながら、店の奥に行き、椅子に座って思いをあの頃の自分へと飛ばす。